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犬神と呪術 その後

 翌朝、目が覚めると仁はまだ眠っていた。

 その隣にちょこんと座る二匹の犬、もとい犬神。もちろん、刻水と昇華だ。

 オレの目が覚めたのに気付き、二匹の視線がオレに集中する。


「仁、どうだった?」

「うまくいったのかしら?」

 二匹そろって質問を投げかけてくる。

「うまくいったよ。バロンは仁に取り込まれた。さすがに疲れてるんだろ。もうちょっと寝かせてやって」

 ソファの上で大きく伸びをしながら答えれば、二匹はまた黙って座っている。


 そんな二匹と、まだ眠っている仁はさておき、朝食ついでに榊さんに詳細な報告にでも行こうかと立ち上がる。

 いつもなら、このタイミングで仁が目を覚ますなりしていたような気もするが、今日はピクリとも動かない。

 それが仁の疲れを表しているんだろうと思う。


 刻水と昇華に目配せをすると、オレは部屋を出た。


 先に食堂に寄って、腹ごしらえをする。軽く酔う程度にしか飲まなかったせいか、二日酔いにもならず、いつものように空腹を感じた。食べるのはかなり食べたはずなんだが。

 食堂のおばちゃんに何度目かの仁の食事を頼み、あとで取りに来るからと食堂を出る。


 続いて向かったのは榊さんの部屋。昨日のうちに、朝に報告すると連絡してあるので、在室中のはず。


 途中で、トイレから出てきた榊さんにバッタリ出会った。

 榊さんの隣を歩き、昨夜の打ち上げの話をしながら榊さんの部屋に向かった。

 もちろん、打ち上げにお金を出してもらったお礼は忘れない。


 部屋に入れば、すぐに昨日の報告。仁とバロン、それに南部の話ばかりになるのは、仕方ないと思う。

 本当にメインは仁と南部で、他の連中――特に医師団は完全なるサポート役だった。


 今回の褒賞金について、金額の分配とか支払日について確認する。

 いつもなら褒賞金は医師団のメンバーで平等に分ける。

 協力者がいる場合、協力者と医師団の分配割合を決める。協力者が複数の場合、あとの分け方は相手方に任せることになる。

 今回、南部たちと医師団の分配は、南部たちの方を多くした。もちろん医師団のメンバーも了承済み。

 仁はいらないと言っていた。


 用件が終わると、オレは食堂に引き返して仁の飯を受け取り、自分の部屋へと戻る。


 自分の部屋に足を踏み入れれば、ソファにちょこんと座る仁の姿が目に入る。

 一歩二歩と部屋の中に足を進めれば、ソファの下に、やはりちょこんと座る二匹の犬神の後ろ姿。


「仁、飯もらってきたけど、食う?」

 黙りこくった三匹の間に漂う雰囲気は、異様にも感じられたが、あえて無視をする。


 オレの声が聞こえたのかどうか。三匹は動かない。黙りこくったまま。

 さすがのオレもどうしたら良いかわからなくて、ソファの傍らに仁の飯をそっと置いた。そして自分のデスクに向かって座ると、今日の仕事を始めることにした。


 相変わらずデスクの上には書類が散乱してて、まずは急ぎの書類だけ分けようと片っ端からざっと目を通す。だいたい届けられたままに積まれていくから、下の方にある書類が急ぎだったりする。

 時折り仁たちの様子を窺うが、相変わらずちょこんと座ったまま。よく見れば、微妙に仁の視線がさ迷っている程度。

 なんかあったんだろうか。


 いぶかしく思いながらも、急ぎの書類だけ選り分け終わった頃。ようやく仁が口を開いた。

「……私はそんなに、違うか? 昨日の朝までと今とでは」

 疑問の矛先は、もちろん刻水と昇華。仁の質問に答えるように、二匹は交互に口を開いた。

「大きくなったよね」

「一回りは大きくなったわ」

「声も違う……」

「前よりセクシー?」

「なんか顔つきも違うような」

「一見、変わらないように見えて、表情が豊かになったわよね。顔つきが違うのもそのせいかしら」


 声が前よりセクシーと言われた途端、仁は目を大きく見開いた。その顔を見て、顔つきも違うと言い出す。


「つ、辻村……」

 初めてじゃないだろうか。仁がオレの名前を呼ぶなんて。

 声も顔も、助けを求めるかのような情けないものだったが。

「良かったな?」

 刻水も昇華も、嬉しくてたまらない反面、どこか戸惑いを感じているんだと思う。

 ま、言いたいことも言えてるみたいだし、関係が変わるとかそんなことはないだろうけど。


「せっかく刻水と昇華も来てくれたんだし、一緒にあの村にでも行ってこれば?」

 助け舟――ではないが、仁もこの二匹となら気にせず村にも行けるんじゃないかと思った。

 昨日の今日ではあるけど、もう仁が気にすることは何もないし、ゆっくり村も見て回れると思う。

「そ、そうだな。そうさせてもらおう。刻水、昇華。一緒に出かけるか?」

 仁の問いかけに、二匹は嬉しそうな顔を向ける。

「そうと決まれば、さっさと行きましょ。こんなところに篭ってないで」

 昇華が促すようにして、三匹は仲良く部屋を出て行った。

 三匹を見送ったオレは、通常の業務に戻った。



 夜、部屋に戻ったオレを出迎えてくれたのは、ソファとソファの下で眠る三匹の犬神。

 これから仁だけじゃなく、昇華と刻水も頻繁に来ることになるのだろうか……。

 いや、それはいい。それは問題ない。


 問題なのは、オレの寝る場所がないことだ。



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