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第四十七話「クイーン」


 ラビーは船内(医務室である)で目を覚ましていた。

 二度目の起床なので今度は気を失う事はなかったが、いまだに混乱していた。


「え〜、ですから、ここは我らが総帥の城、いわゆる魔王城で御座います。別けあって今はこの海の上に浮いて御座いますが」


「へ? ……え? へぇ?」


 と、この有様である。


コンコンコン


 そのとき、医務室にノックの音が響き、続いて歩哨の声が聞こえてくる。


「そ、総統閣下が……」


「あ〜、どいてどいて、っつかその閣下ってのやめてってば」


 すると兵士の報告を待たず、黒髪の少女ミーシャが部屋に入ってくる。


「これはこれはミーシャ様、わざわざ申し訳ない」


「まぁ、病み上がりを歩かせる訳にはいかないからな。あとここは城じゃなくて船だ」


「これほどの建造物、城と言わずしてなんと申しましょうか?」


 などと老紳士と魔王(仮)はラビーを置き去りに会話を続けている。


「あ、あの〜……」


 埒が明かないのでラビーはおずおずと手を上げてみた。


「あぁ、そうだった、そうだった。体調はどうだ? なんか飲み物飲むか? コーヒー飲むか?」


 それに気がついたミーシャは次々と話し出す。


「え!? あ、いいぇ……」


 その勢いにラビーはたじたじである。


「あ? そう? (シュン……)」


「え!? あ! いや! いただきます! わ、わたし『こーひー』飲みたいなー(棒)」


「え!? あ、そう!? オッケーオッケー、ちょっと待ってな」


 そういうとミーシャはいそいそと医務室の隅に設置されたコーヒーメーカーでコーヒーを淹れだす。


「……さて、じゃあ話を聞こうかな?」


 コーヒーをコトリと机に置くと、ミーシャは静かに隣のベッドに腰掛け、話を促した。


「ええっと……」


 話しかけられたラビーはコーヒーとミーシャを交互に見ている。


「あぁ、必要なら砂糖とミルクを入れるといい、ほら」


 そう言うとミーシャはラビーの方に瓶に詰められた砂糖と、鉄製のカップに注がれたミルクを差し出した。

 この世界では砂糖はもちろん高級品である、これにラビーが驚かないはずはなかった。


「え!? いいんですか!?」


「どうぞ? まぁ、ゆっくりでいいんで、何があったか話してもらえるかな?」


 その言葉に少しずつだが落ち着いてきているラビーは口を開いた。


「……まずは、助けていだたいてありがとうございます。私は、輸送船団『クイーン』の旗艦『ヨーデルヘイス』で見張り員をしてます。

ラビィナ・ワイズマンです、みんなは『ラビー』って呼ぶんですけどね」


「クイーン?」


 ミーシャの疑問の言葉にゴーザスが口を開いた。


「ふむ……確か南方との貿易を主とした船団がそのような名前だと記憶して御座いますが……」


「そのとおりです、私たち『クイーン』は主に南のコスタリカンとの貿易を主にしていました。船員たちは全員が女性で船乗り達からはあまり好かれてはいないんですがね」


「あー、船は女って言うもんなぁ……。そりゃあ昔気質な船乗りは『女が船に乗って航海するとは何事か!』ってなもんだろう」


「ええ、ですから船員達はみんな海に憧れて家を飛び出したか、深い事情があって家を出たか、そんな女性が多いんです。私も大喧嘩して集落を飛び出したくちなんですが」


「なるほどな……、それで? なぜその船団の乗組員が遭難なんてしてたんだ?」


「……実は……」



***********************************************



時間はさかのぼり、ここは輸送船団『クイーン』旗艦『ヨーデルヘイス』の甲板上である。


 この船、ヨーデルヘイスは船団『クイーン』の旗艦であるキャラック船で全長41m、幅7.1m、排水量1124t、武装として青銅製の魔法カノン砲120門を搭載し、乗組員は航行に必要な船員が約300名、戦闘に必要な兵士(これには魔法カノンの使用に必要な魔術拾得者を含む)が約300名の約600名が乗り込むこの時代にすると間違いなく大型の船舶である。

 ちなみに大和型戦艦と比較すれば全長41m/263m、全幅7.1m/38.9m、排水量1124t/64000t、でありどれほど大和型がこの世界で規格外であるかがうかがえる。


 南にあるコスタリカン連邦を出発し長く厳しい航海もあと少しで目的地到着というところ。

 空は青々と透き通り、海風は心地よい潮風を運んでくる。

 太陽はさんさんと降り注ぎ、船は波を切って進む。


「あ”ーーーー、あ”づい”ーーーー!」


 そのすがすがしい船の上で、これまたすがすがしい位にだらける人影が一つ。

 兎系獣人族のラビィナ・ワイズマン、その人であった。


「こらぁっ!! ラビーっ! そんなに辛いんなら、倉庫にでも降りて積荷が痛んでないか確認してきなぁっ!!!」


 そこに甲板長である女性の怒鳴り声が響くのであった。


「ふぁーーい」


 それに間の抜けた声で返すラビー。


「シャキっとしな! シャキっと!!」


 彼女の背中を追いかける甲板長の怒声を聞きならがラビーは船底に下りていくのであった。


「はぁ〜、私も船内勤務がしたいよ……、なんで私の耳って遠くの音が拾えないのかしら……」


 彼女の悩み、それはうさぎ特有の耳にあった。

 本来、兎系の獣人は遠くの音を聞き取り危険を察知することに長けた種族だった。

 しかし、彼女の耳は悪く、比較的近くの音を聞き取ることが精一杯であった。


「音を『聞き分ける』のは得意なんだけどなぁ……」


 そんなことをぼやきながら船内を下っていく。

 時々すれ違う船員たちから、


「よぉラビー、またサボりかぁ?」


 とか


「ラビー、暇してるなら手伝いな!」


 とか言われつつ彼女は船内を貨物室へと下っていく。

 そして、とうとう貨物室。


「あー、やっぱり暗いところは落ち着くわ〜、うさぎの宿命かしら?」


 そんな独り言をぼやきながら室内に入ったとき。


ガンっ!


「いたぁ!!?」


 入ったとたんに足に響く激痛。

 転がっていた木箱の角にすねを打ち付けたのだ。

 ラビーは激痛に飛び上がり、もんどり打って転げまわる。


「〜〜〜〜っ!!!」


 声にならない悲鳴を上げならがのたうちまわっていると。


ガンっ!


 

「っ!!!」


 今度は別の木箱に頭を打ち付けるハメになってしまった。

 すると、脆くなっていたのであろう、木箱が壊れ中身がごろごろと転がり出てきてしまった。


「つぅっ〜〜〜〜!? なんなのよ一体!?」


 最高にツイてない、などと考えながらこぼれた中身を箱に戻そうと出てきた物をつかんだ時だった。


「って、これ『マママタンゴ』じゃない!?」


 それは一部の獣人には劇薬として知られるキノコ、『マママタンゴ』であった。

 マママタンゴは小さな茎と、丸く硬い傘が特徴的で、その見た目はまるでまん丸な小石のようであると言う。


「たしかマママタンゴって人達の間だと中毒性があるとかで流通禁止なんじゃ……」


 というのもマママタンゴには幻覚・一時的幸福感・重度の中毒症状などなどにより流通が規制、というより前面低に禁止されている。

 現代的に言うところの『覚醒剤・麻薬・マジックマッシュルーム』なのである。

 そのマママタンゴの出てきた箱には表向きには別のキノコの品名が書かれており、あて先はイース王国の港町、ウエンズレイポートの領主である貴族宛になっていた。


「ちょっと……これって……!!」


 そのとき、貨物室の外から大きな音が聞こえてくる。


「ラビー!! 逃げろぉ!」


「か、甲板長!?」


 そして、貨物室に飛び込んでくる甲板長。

 そう、ここからはラビーの見た夢のとおり。

 続いてなだれ込んでくる男達、衝撃により船底に空く大穴。

 ラビーは甲板長に助けられ、穴から海へと投げ出された。

 そして、海を漂流し、偶然ミーシャ達に助けられたのであった。

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