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第三十九話「その名は筋骨のヴァルヴェルト」


 疾走中のチハの上、上半身を乗り出したミーシャの脳内では警告音が鳴り響いていた、あいつはヤバイと。


「砲撃用意! 目標前方の大男!」


「な!? お嬢!?」


 ゴットンが困惑の声を上げる。


「速度は現状を維持! 絶対にスピードを緩めるなよ! あいつはヤバイ!」


「ガッテン!」


 ゴットンが返事をした時、進行方向の大男がこちらに気づいた。


「ぬ? 新手かぁ? 面白い! ガッハッハッハ!!」


 大男はこちらの存在に気づき一歩踏み出した。

 ドスンと重量感のある足音が辺りを揺らす。


「どんだけの重量だあのおっさん!」


 もはや人が出していい音ではなかった。


「射撃準備完了!」


 ニャルが完了の意を伝えてくる。


「よぉし! 撃てぇ!」


ズドォン!


 同時に一式四七粍戦車砲が火を噴く。


「ぬぅん!!!!」


 大男が拳を振り抜く。

 着弾音が響き、辺りは爆風で煙に包まれた。


「やったか!?」


「バカ! ゴットン、ソレはフラグだ!!」


 土煙が晴れるとそこにはやはり大男が立っていた。


「……!!」


 ニャルが驚愕で人口喉頭を落とし、口をパクパクさせていた。

 その表情が、直撃したはずだと訴えている。


「ふむ、面白い攻撃をするな! 新たな魔導兵器か!」


「やっぱりかよ! ゴットン!」


「応! 跳ね飛ばしてやらぁ!!」


 チハは大男に向かって突進する。

 現在の速度は38km/h、チハの最大速度である。

 38kmと聞くと遅いような気もするが、重さ14tの鉄の塊である、人間がぶつかれば無事では済まない。


「ぬぅ? 向かって来るか! さらに面白い!!」


 男はその巨体から両手を広げ待ち構える。

 普通であれば例え3メートルの大男と言ってもチハの車体に弾き飛ばされるであろう。


ズガァアアンッ!


 衝突の瞬間、チハの車体が、14tの巨体が前方につんのめった。


「うわあああ!?」


 ハッチから上半身を乗り出していたミーシャは進行方向に吹っ飛ばされる。

 砲塔内に引っ込んでおけばよかったと思っても後の祭りである。


「うぇ!?」

「な!?」


ダァンッ!


 吹き飛んだミーシャはたまたま起き上がってきた憲兵の一人を巻き込み城壁に叩きつけられた。


「ガッ!?」


 哀れ憲兵は城壁とミーシャに挟まれ意識を手放した。


「くぅ……ゲホゲホッ!」


 ミーシャは意識を手放さないまでも満身創痍だ、憲兵がクッションになったとしてもかなりの衝撃が体を突き抜けていた。

 悲鳴を上げる体を鞭打ってチハの無事を確認する。


 そこには衝撃で主砲は曲がり、衝突面と腕に掴まれた側面の装甲がひしゃげたチハがいた。


グォオオオン!!!

ギャリギャリギャリ!!


 それでもディーゼルエンジンの出力を最大まで引き出し前進しようとするチハ、エンジン音と無限軌道が大通りの石畳をガリガリと削る音があたりに響く。


「ぬぐぅ!! ふんぬぅ!!」


 それを受け止める大男。

 その丸太の様な腕に掴まれたチハの側面は徐々に変形していく。


「化物かよ……」


 ミーシャが思わず呟いたその時。


「フン!」

ズガァン!


 大男がその腕を振り、チハは横転してしまった。


「ガッハッハッハ! 我が名は『筋骨のヴァルヴェルト』! 十魔将が一人ヴァルヴェルトである!!」


 大男、ヴァルヴェルトは名乗りを上げる。


「この野郎!!」


 ミーシャは起き上がりヴァルヴェルトに突進しようとした。

 その時。


「双方動くな!! 貴様らは既に包囲されている!!」


 そこには食堂を包囲していた憲兵隊と別の部隊を合わせた大部隊が展開していた。

 その総隊長であるバーニィは剣を抜き、構えながら考える。


(どういう事だ? あの黒髪と十魔将は仲間同士ではないのか?)


 黒髪の少女が伝承通りの魔王なら、自称魔王軍の兵士と敵対しているのはいささかおかしいのではないか。


「ぬ? 貴様ら? それはどう言う意味だ?」


 ヴァルヴェルトはその大きな腕を組み首をかしげている。


「くそ! ゴットン、ニャル、師匠! 無事か!?」


 ミーシャは素早くチハに近づき仲間達を引っ張り出していた。


「ぐぅ、俺は大丈夫だ! ニッキーの姉御も大丈夫みたいだ。ニャル!」


「…………!!」


 ニャルも無事なようだが落としてしまった人口喉頭を拾おうと車内に戻ろうとする。

 ゴットンは慌ててニャルの首根っこを掴み引き止めていた。


「キュウ〜〜」


 ニッキーは未だに気絶しているがたんこぶが出来た程度で他に怪我はない。


「貴様ら! 動くなと言っている!!」


「っく!」


 ミーシャ達に気が付いた憲兵が大声を張り上げる。

 その声によりミーシャに視線を向けたヴァルヴェルトの瞳が大きく見開かれた。


「……なんと! ふ、ふふ、フグハッハッハッハ!!」


 そして大笑いし出す大男に周りの憲兵隊は困惑しだす。


「既に人間どもに謀殺されたとばかり聞いていたが! この方を連れ帰れば『代行』殿に掛けられた汚名も返せよう! 人間の兵どもよ! 運が良かったな!」


 そう言うとヴァルヴェルトは一瞬でミーシャ達に近づくと4人をかかえ大きく跳躍した。


「ま、待て!!」


 バーニィが声を張り上げ、魔導士が火炎魔法で追撃するが既にヴァルヴェルトは城壁を飛び越えていた。

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