第四十話「我、登場であるぞ!」
アーコードより東方に進んだ位置に不気味な一団がいた。
総数は大体1000人程度の彼らは紫や緑色の肌をしており、体型も人型こそ多いがトカゲ型やミノタウロス、アンデッドなども混じっている。
彼らは皆傷つき消耗し疲弊していた。
なぜ彼らはここまでボロボロなのか、その理由は彼女の一言に込められている。
一団の中央に陣取り、ひときわ大きなトカゲの上で仁王立ちをする幼女。
彼女は漆黒のドレスに身を包み金と赤の混じった髪の毛を腰までロングにしている、歳は6、7歳と言ったところか。
ドレスの後ろからはコウモリの様な羽が一対、少し笑っている唇からは八重歯が覗いている。
彼女の真紅の瞳は透き通る青空を仰ぎ、どこか遠い目をしていた。
「ふはっはっはっは! 我、敗走中であるぞ! ……ハァ」
彼女は大空にそう宣言すると肩を落とし落胆した。
「代行閣下、あまり日に当たられてはお体に触りますぞ?」
そう言い日傘を差し出してくるのは、燕尾服に白い手袋、片目にモノクルを掛けた細目で白髪頭の老紳士、セバスチャンと言うとしっくり来るような男性だ。
「迷惑をかけるなゴーザス」
「勿体無きお言葉で御座います」
ゴーザスと呼ばれたその男は彼女の横に『浮遊しながら』日傘をさしていた。
「ヴィーナはまだ目を覚まさないのか?」
彼女は心配そうにゴーザスに問いかける。
「今だ気を失っておられます。これだけの大移転で御座います、魔力の消費も膨大で御座いましょう。我らは僅かに千人足らず、しかし脱出できただけでも幸いで御座いました」
「……で、あるな……」
「では、マシリー総統閣下。これより我が軍は如何に?」
マシリーと呼ばれた少女はゴーザスの問いに答える。
「我々にもはや行く宛など無い、兎に角物資を調達し西へ移動することを考えねばな。それとゴーザス、忘れるでない。我は『代行』であるぞ」
マシリーは忌々しげに太陽を睨んだ。
そう、彼女こそ『自称魔王』、いや、彼女の言を借りるのであれば『魔王代行』マシリー・ノイルンである。
彼女は東の『魔界』を統合し『魔族統合軍』を作り上げた、肩書きで言うのであれば『魔族統合軍総統代行』だ。
しかし、魔族統合軍も一枚岩ではない。
彼女が率いる『魔王信仰派』と反対勢力である『魔王不要派』の争いである。
漆黒に飲み込まれる様な黒き髪と瞳を持つものを魔王と信仰し復活を待ちわびるマシリー派と、魔王の復活など不要であると主張し人間との全面戦争を推し進めようとする不要派との争い。
その争いに終止符が打たれたのが数日前である。
七年程前にイース王国で魔王と思われる人物が出産、人間の手によって始末された。
この報を聞いたマシリー派は事実関係の確認をすると共にあらゆる手を使って情報の漏洩を防いでいた。
しかし、『魔王抹殺』の報が広まるや不要派の不満が爆発、マシリー派は魔界を追い出される事になる。
魔王不要派との先頭の末、部下である『転移のヴィーナ』こと、『魔族統合軍参謀本部司令』ヴィーナ・パームの魔術により魔界を脱出、とっさの転移だったためアーコードから東へ進んだ位置に出現してしまっていた。
魔界から脱出できたのは『総統代行』であるマシリーと、『武装親衛隊総指揮官』である『紳士なるゴーザス』、今は魔力の消費により気絶している『魔族統合軍参謀本部司令』である『転移のヴィーナ』、現在アーコードに攻撃を仕掛けている『魔族統合軍特殊部隊隊長』である『困惑のポルボル』と『魔族統合軍先行侵略軍総司令』である『筋骨のヴァルヴェルト』の六名と疲弊した部隊約一個大隊だけである。
ヴァルヴェルトを始めとした十魔将の内、残りの六名は魔王不要派との戦闘で行方不明か魔王不要派であるかのどちらかである。
「今は兎に角逃げ延びる事が必須だ、敵国内といえど戦力の低い領地に転移したのは幸いであるな」
そう呟いたマシリーに一人の魔族兵が報告に走ってくる。
「報告します! 敵都市方面より接近する影有り! ヴァルヴェルト将軍であると思われます!」
その報にマシリーは眉をひそめる。
「なんと? ヴァルめ、作戦成功にしては少し早すぎるであろうに」
「なにか不測の事態でも発生したので御座いましょうか……」
ゴーザスも「ふむ」と顎に手を当て思考している。
「兎に角、帰還しだい我の前に出るよう伝えい」
「はっ!」
報告した兵は走って行った。
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一方、ヴァルヴェルトに抱えられ大地を駆けるミーシャたち。
「テメェ! 離せコラ! 下ろせコラ!」
必死にジタバタともがき降りようとするミーシャ。
「うぉぉぉ! 高けえ! 速ええ!! 怖ええ!!!」
ヴァルヴェルトの大跳躍と移動速度にぎゃあぎゃあと騒ぐゴットン。
「…………(プルプル)」
人口喉頭を落としたショックで自失呆然となるニャル。
「あっはっは〜、ちょっとなにコレ面白いわ〜」
気が付いたと思ったら現状を満喫している師匠。
「ガッハッハッハ! これこれ、そんなに暴れると落っことしてしまうぞ?」
「テメェ! 私たちをどうするつもりだ!?」
豪快に笑うヴァルヴェルトに食ってかかるミーシャである。
「なぁに、すぐに見えてくる。ガッハッハッハ!」
「何?」
ヴァルヴェルトをいぶかしみながら進行方向を確認したミーシャは驚愕に目を見開く。
「なんだ? ありゃ……」
そこに集まった一団を見たミーシャの最初の言葉はそれだった。
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「ヴァルヴェルト・ブーン! 帰還したぞ! ガッハッハッハ!」
豪快に笑うヴァルヴェルトに一人の紳士が近づいてくる。
「ヴァルヴェルト殿、いささかご帰還が早いようで御座いますが、如何なされたかな?」
「ぬ? ゴーザスか……。 ガッハッハッハ! なぁに、とても良い戦利品を連れてきたのだ! ガッハッハッハ!!」
ヴァルヴェルトの報告に片眉を上げるゴーザス。
「……戦利品を『連れてきた』? どういう事で御座いますかな?」
「ガッハッハッハ! 驚くでないぞ!? ガッハッハッハ!」
笑いまくるヴァルヴェルトの前にミーシャは引っ張り出された。
「オメェはガッハガッハやかましいんだよ!! 私たちをどうするつもりだ!?」
それを見たゴーザスは細い目をさらに目を細める。
「……これはこれは。なんと、まぁ。大戦果で御座いますな」
「であろう!? ガッハッハッハ!」
そう言うと老紳士は礼儀正しく腰を折り話しかけてくる。
「お嬢様、お名前をお伺いしてもよう御座ますかな?」
「……えっと、ミーシャ・ラダッド」
ミーシャはその紳士的な態度に若干戸惑いつつも返答する。
「なるほど、良き名で御座います。わたくし魔族統合軍親衛隊総指揮官を務めさせていただいております、「ゴーザス・ベックマン」と申します。では皆様、総統代行がお待ちで御座います。どうぞこちらへ」
そう言うと老紳士は歩き出した。
「なぁ、えーと……ヴァルヴェルトって言ったか? あのゴーザスとか言うじいさん御座います御座います言い過ぎなんじゃないか?」
ミーシャは小声でヴァルヴェルトに問いかける。
「ぬ? あぁ、アレはヤツの口癖の様な物だ。あまり気にしすぎると胃を痛めるぞ? ガッハッハッハ!」
「いや、口癖ったって、御座います言い過ぎて敬語がおかしくなってんじゃん……。つかお前の笑い方も口癖かよ!!」
そんな会話をしつつ紳士に続くミーシャたち。
魔族と思しき者たちの中を進むが、周りを見るとどこもかしこも負傷兵だらけである。
「一体何とやりあってここまでボロボロにされたんだ?」
そうミーシャが呟いた時だ。
「こちらで御座います」
老紳士は立ち止まり華麗な動きで横に移動した。
目の前に居るのは巨大なトカゲ、ミーシャはこのトカゲが魔族の王なのかと一瞬思う。
「コラコラ! 我は上だ! 上!」
その声にミーシャたちは徐々に視線を上に上げていった。
そこには太陽を背に日傘を差した一人の少女が佇んでいた。
「ふはっはっはっは! 我、参上であるぞ!!」
13.05.27 一部修正しました、ご指摘ありがとうございます。




