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第三十七話「決断の罪人」


「―――繰り返す! おとなしく投降しろ!」


 チハタン食堂前では憲兵が必死の説得を続けていた。


 ミーシャは頭を抱えたくなるのを必死に我慢する。

 原因は貴族二人、特にお嬢様の方だった。


 フランシスカが単独でチハタン食堂に突入してしまった事により、『国家転覆を企む犯罪者』となっているミーシャにさらに『要人二人を拉致、監禁し立て篭るテロリスト』が追加されてしまった。

 現在、憲兵隊が挙げている罪状は『外法の行使』『中毒性を持つ危険な飲食物の流通及び提供』『要人及び一般市民への洗脳』『国家反逆罪』である。

 店内にソーリアス、ライシス両家の跡取りが居ることを知った彼らは大慌てで罪状を追加。

 『要人の誘拐・監禁』『立て篭り』が追加された。

 最初の4件の罪状だけでも即刻、首が胴体からおさらばしてしまうのにこれでは明らかにオーバーキルである。


「おいおい、ただ食堂開いてただけだぞ……」


「罪状も滅茶苦茶ね。美味しい料理を作っただけで捕まるのなら街中の料理屋が廃業してしまうわ」


 ニッキーも不機嫌丸出しの表情で不満を吐き出している。


「確かにラダッド家は貴族から嫌われているし、ミーシャが『クロ』だったとしてもあまりにも過剰な反応すぎる。彼らこんな無茶を通してでも貴方を捕らえたい様ね。何か心当たり……あるかしら?」


「あるわけないでしょう! 村から出てからまだ1年も経ってないし、村でも平穏に過ごしてたんですよ?」


 ミーシャは必死に考えるがここまでされる理由は思いつかなかった。

 そういえば地方の下級貴族のお坊ちゃんを蹴り飛ばした挙句、父親を脅迫した記憶があるが、顔を隠していたし別件であろう、多分。


「しかし、この状況を一体どうすればいいのか」


 ゴットンは盗賊だっただけあってか比較的落ち着いた態度で思考を巡らせている。


 この状況をどう打破するのか、それが一番の難題だった。

 ミーシャであれば食堂周辺に集結している憲兵などあっという間に無力化できるだろう。

 しかし、その圧倒的力量差でもって周りを制圧してしまった場合、即『魔王』の称号をゲット、イース王国に居続ける事が非常に困難になってしまう。


 時間魔法によってアーコードから脱出?

 NON, 時間魔法は魔力の燃費が異常に悪い、いくらミーシャでも魔力が切れてしまう。そして、もうひとつは時間を止めた側と止められた側に時間の誤差が生まれてしまう、止めた側は早く老化してしまう。

 空間魔法によるテレポーテーション?

 NON, 空間魔法での移動は繋げる先が肉眼で見えていないといけない。

 幻想の能力により妖怪を召喚、応戦する?

 NON, この世界でのモンスターは所謂西洋妖怪であるが、東洋妖怪であってもそんなものを使役すれば魔王扱いは必須だ。


 しかも上記の能力は他人に見つかれば非常に厄介なためゴットンやニャルですら直接見せた事はない。


 では大人しく投降するか。

 絶対にNOだ、脱出も不可能ではないが何が起こるかわからない。


 食堂を放棄するか、国家と敵対するか……。


「はぁ……」


 ミーシャはため息を吐き、ゴットンとニャルを見据えた。


「二人共、アレを使おう」


 その一言に二人はゆっくりと首を縦に降る。


「アレ?」


 アルフォンスが首をかしげながら不思議そうに聞いてきた。

 後ろでは話に着いてこれていないニッキー、フランシスカが同じように首をかしげている。


「……師匠、なぜここが『チハタン食堂』なのかご存知ですか?」


「? いえ、知らないわ」


「その意味をお見せしましょう……」


 無言で行動を開始するゴットンとニャルを確認した後ミーシャは言葉を続ける。


「我々は現時刻をもってこの食堂を放棄、アーコードを離脱する!」




**********************




 治安維持部隊の総隊長であるバーニィ・コーグレイは密かに悩んでいた。

 彼はほぼ毎日の様にここに通いつめる所謂「常連客」である、ちなみにアルフォンス告白事件の当時、店内で味噌汁をこぼしズボンを脱ごうとしたのは彼である。


 この世の物とは思えない美味なる物を出す料理屋、それが訳のわからない理由で潰れようとしている、そしてその任務を自分が受けている。

 上層部で何らかの思考が渦巻いているのは見え見えだがそれに意見する権利は彼にはなかった。


「相手からの反応は?」


 彼は静かに部下に状況を訪ねた。


「今だ動きありません」


 部下が答えた時だった。


「みんなここで何をしてるの?」


「ッ!? 立て篭り犯の説得中だ、一般人は下がって!」


 突然聞こえた幼い少年の声に驚きながらバーニィは振り返る。


「中には……ライシス家……の?」


 そこには白髪の少年と金髪の少女が佇んでいた。


「ん? ライシスなら僕の家だよ?」


 そう、ライシス家次期当主であるアルフォンス・ライシスとソーリアス家のフランシスカ・ソーリアス。

 今まさに誘拐されているはずの人物がそこに居た。


「……は?」


 その奇妙な出来事に兵士たちが視線を奪われたその瞬間……。


ボオォン!!!

ドドドドドドドド!!!


 突如響いた爆音に兵士全員が一瞬硬直する。


(なんだ!? 一体何が起こっている!?)


 バーニィは慌てて音の方を確認する。


 するとそこには空き地に置かれている謎のオブジェ、それが鼻につく強烈な悪臭を放つ煙を吐きながらキュラキュラと耳障りな音を鳴らし、ゆっくりと動き出していた。


「な、なんだアレは!?」


「魔導兵器か!?」


「モンスターか!?」


 兵士たちは既に混乱の渦に巻き込まれつつあった。


「お、落ち着け! 落ち着かんか! 魔導隊前へ! あの化物を止めるのだ!!」


 バーニィは大声で部下に叫ぶ。


 しかし次の瞬間、新たな轟音と異様な光景を目の当たりにした憲兵隊にもはや統率などという言葉は存在しなかった。


ドォンッ!


 謎のオブジェに取り付けられた筒の先から放たれた一瞬の光と煙。


 それを見た瞬間、民家の壁が吹き飛んでいた。




**************************




「次弾装填!」


 ミーシャは指示を飛ばしながら弾を込める。

 新砲塔チハの砲塔内ではミーシャが車長兼装填手をニャルが砲撃手を操縦席にはゴットンとニッキーが乗り込んでいる。


「初弾着弾、確認。憲兵隊ノ損害軽微。ケレドモ戦意ハ喪失シテイル模様」


「よし! 次、射撃目標! 前方、民家! 着弾と同時に全速前進!」


 ミーシャは淡々と指示を飛ばす。


「操縦席了解! しっかりつかまってろよ!」


 ゴットンは操縦席から威勢良く了解の意を伝えてきた、ちなみにニッキーは初弾発射の時点でショックにより気絶している。


「このままアーコードを脱出! そのまま周辺地域から離脱するぞ!」

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