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第三十六話「嵐を呼ぶおぜう様」

前回のシリアスの反動でギャク成分1.5倍です。

 アーコード、チハタン食堂。

 ここは今日も平和である。


 時刻は午後二時すぎ。

 昼のラッシュを過ぎ店内は落ち着いてきていたが、それでもまだまだお客は居る。


「焼肉定食一つよ〜」


「唐揚げ定食ヲフタツ」


「はいはい、焼肉と唐揚げね」


 追加で来る注文に淡々と答えていくミーシャとゴットン。


「ミーシャ、とんかつ定食を三つだよ!」


「はいよ、とんかつ定食をみっ……つ?」


 次にミーシャの耳に入って来たのは、可愛らしい男の子の声だった。

 ……そう男の子の声だ、ミーシャは壊れたブリキのおもちゃの様にそちらを振り返る。


「何してんの? アル」


「?」


 そこには白髪の少年が首をかしげていた。

 そう、三大貴族のご子息であるアルこと、アルフォンス・ライシスがそこに居た。

 彼は何故かチハタン食堂のオリジナルエプロンを掛け、手にはお盆を持っている。


「何って……、その、つ、妻を支えるのはお、お、夫の、そのつとめ? だし?」


「普通逆だろ。ってかなんだよ! 妻とか夫って!? いや婚約するとか言ってないからね私! つか三大貴族のお坊ちゃんをバイトで使ってるとか知られたら私の首が飛ぶからね!? リアルで打ち首獄門だからね!?」


「もう、怒ったミーシャも可愛いなぁ」


「おいコラ、やめろ。ナヨっとすんな、なんか腹立ってきた。ちょっとツラ貸せやクソ貴族」


「アルジダメ、本当二不敬罪デ首ガ無クナル」


 ニャルの仲介でなんとか踏みとどまるミーシャである。

 しかし、彼女の右腕はすでに何者かに掴まれていた、その人物は……。


「ミーシャ、言葉遣い。治らないのかしら?」


 師匠であるニッキーだ。


「口の悪い弟子は……しまっちゃおうね〜」


「わあぁ!! ごめんなさい! ごめんなさい!」


「ミーシャ! 今助けるよ! そして僕に惚れるといいよ!」


「お前は一度頭冷やそうか?」


「僕と結婚して貴族になってよ!」


「おい、馬鹿、やめろ」


「ヤッタネアルジ、家族ガ増エルヨ」


「おいバカ! ほんとに止めろ! つかお前ら絶対打ち合わせしたよね!? つか君たち本当にこの世界の住人だよね!?」


 本日もチハタン食堂はやかましい。

 そして……。


「お前ら仕事しろぉーっ!!!」


 店長が板に付いてきたゴットンの大声が青空に響く。

 チハタン食堂は平和だった。



*********************



「……で? なんでここでアルが働いてるのか説明を要求するが?」


 昼休憩中の全員を集め事情聴取を開始するミーシャである。


「許可を出したのはあたしよ」


 手を挙げたのは師匠であるニッキーだ。


「また師匠ですか。いくらなんでも店の経営に口出しすぎですよ?」


 眉間を抑えながらため息混じりにこぼすミーシャだが、原因であるニッキーはどこ吹く風だ。


「何言ってるのよ、ちゃんと理由があるんだから」


「理由?」


 ミーシャは訝しげに師匠を睨む。


「萌えるからよ!」


 その発言の瞬間、師匠に向かって弟子からスリッパが飛んだのは言うまでもない。


 その時だった、食堂の入口が勢いよく開き一人の少女……いや、幼女が入ってくる。

 全員の視線がそちらに向いた時だ。


「ミーシャ・ラダッドがここに居るはずですわ! 神妙にお縄に付きなさい!」


 その幼女は声高に叫んだ。

 ミーシャは彼女に歩み寄る。


「ミーシャは私ですが……あなたは?」


 彼女は金髪の髪の毛を両サイドでドリルのように巻き毛にしていて、服は上等そうな赤色のドレスを着ている。

 歳はミーシャと同じか少し下に見える、その顔つきは良く言えば意志の強そうな、悪く言えばわがままそうな雰囲気を醸し出している。

 その振る舞いと服装から貴族、少なくとも上級区の住人である事は明白だ。


 ミーシャの問いかけに彼女は視線を鋭くしながら口を開いた。


「貴方がミーシャですの? 思ったより数倍は貧乏臭いですわね。と言うよりも貴方! この街に住んでいて私様(ワタクシさま)の事を知らないのかしら?」


 彼女は明らかに機嫌を悪くしながら問い掛けてくる。

 しかし、彼女とは初めて合うミーシャだ、そんな事を言われても知らないものは知らない。


「?」


 ミーシャは微笑みながら首をかしげる事しかできなかった。

 その行為が彼女の怒りに油を注ぐ。


「ムキー!! なんですのこの女! 貴方、少しは常識という物を学んでらっしゃい! この街の権力者の娘の顔くらい覚えておきなさいよ!」


 彼女は地団駄を踏んで怒り狂う。

 一方、ミーシャは(今時こんな怒り方する人、実在するんだなぁ)とか考えていた。


「いいですの!? 私様は!……」


「あらあら、おぜう様ではごさいませんか〜?」


「ひぅ!?」


 後方から忍び寄ってきたのはニッキーだった。

 彼女は満面の笑みで少女を眺めている。

 ミーシャはその顔を見た瞬間にニッキーから距離を取った。

 この顔は、ヤバイ。


「な、な、なな、なんで貴女がここに居るんですの!?」


 声を掛けられた少女は手を震わせニッキーを指差した。


「あらあら、ご挨拶ですわ〜。今度こそお風呂にご一緒するお誘いですか?」


「そんな訳無いじゃない! ちょっと! こっちに近づいて来ないでくださいまし!」


 その少女の態度からある人物が思い当たる。


「もしかして、ソーリアス家の?」


「今更気づくとか、貴女バカですの!?」


「あー、そのセリフは赤毛ツインテールにしてもっと生意気っぽく言ってください。弐号機のパイロットならなお良し」


「意味が解りませんわ!? 師匠が師匠なら弟子も弟子でしたわ!?」


 少女は混乱している。


「ごほん! とにかく、私(わたくし)がソーリアス家が第一子! フランシスカ・ソーリアスですわ、うやまってへつらいなさい!」


「へぇ〜、小さいのに難しい言葉知ってんだね〜、えらいえらい(なでなで)」


「ふぇへへ〜、……って貴女、私と歳変わらないでしょう!!」


ベシィッ!


 彼女は乱暴に撫でられている手を払いのける。

 しかし、その顔は若干照れくさそうに赤く染まっていた。


「フラン! なぜここに!?」


 次に声を上げたのはアルだった。

 お前は今まで何をしていたのかと小一時間問いつめたい。


「アルフォンス様! 私というものがありながらこんな女に!」


「待ってよフラン!」


 昼ドラの様な展開になってきた食堂内である。


「ニャル、せんべいとお茶用意して〜。この先の展開をお茶しばきながら見ようぜ〜」


「アルジ、人事ジャ無イ、自分ノ問題」


 当の本人はこの体たらくである。


「兎に角! アルフォンス様には私がおりますの! あなたは身を引きなさい! この泥棒猫!!」


 ビシィッ! と効果音が付きそうなくらいの勢いで指をさしてくるフランシスカにミーシャは答える。


「泥棒猫! いだたきました!!」


「貴女、私を馬鹿にしてるんですの!?」


「まぁ、冗談は置いておいて。別におれ……私はアルと結婚するつもりも付き合うつもりも、これっぽっちも、かけらも、ミジンコも無いから。いや、あえて応援させてもらってもいい! がんばれ!」


「あ、ありがとう? ってどういう事ですの!? 貴女はアルフォンス様をたぶらかして結婚を迫るように仕向けたのではありませんの!?」


 フランシスカから語られた内容に驚愕するミーシャとアル。


「おいおいおいおい、そんな事実は無いぞ!? 一体どういう事だ?」


「そうだよ! 僕だって自分からこ、ここ、婚約を申し込んだんだから!」


「憲兵たちに確保の命令が出ましたのよ? ご存知無いのかしら?」


 もちろんそんな事は知らない。

 フランシスカは得意げに話し出す。


「いいですの?

 ミーシャ・ラダッドは外法によって生み出された食物で住民と三大貴族の一角ライシス家の跡取りを洗脳、国家の乗っ取りを企む大悪党である、全憲兵はこの人物を大至急確保しソーリアス家に引き出されたし。 

 こう命令が出されましたのよ? これだから庶民の情報網は……」


 フランシスカは続けるが既に耳には入っていない。

 寝耳に水どころか寝起きに冷水風呂である、心臓が止まってしまう程の衝撃だ。


 ミーシャ達が愕然としてるその時、食堂は憲兵隊に取り囲まれつつあった。

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