第九話 サトウキビ畑の中の射撃場
第九話 サトウキビ畑の射撃場
サトウキビ畑の手前で、車を降りて、中を入って行く。近道なのか、秘密の場所なのか知らないが、射撃場が現れた。
射撃場と言っても誰もいない。地元の人が勝手に作った様な感じで、観光客は絶対に来ない隠れ家みたいな感じだった。
日本で言うと、田舎の港街にある釣り場だ。いつのまにか、知っている人達だけが使っている秘密の釣り場っていう感じだろうか?!
そこにいかつい大統領の親戚と言う人が、レクチャーをてくれる事になった。
彼は、坊主頭のテコンドーの達人で、警察のシークレットサービスもやってるらしい。でも少しだけ優しそうな人だった。
事前に、ボレットを六十発頼んでおいたので、それを受け取り、弾を込める練習から始まった。
拳銃は二丁。シークレットサービスの人の銃とボスの銃。ボスはライセンスを持っているので、違法ではないし、教えるライセンスも持っていた。
自分も銃好きで、タイで、ライフルも大型銃も、マグナム弾も撃って練習していたので、まあまあ撃てる。
シークレットサービスの人も教えてくれながら、少しは慣れているんだなとは思っただろう。
彼のレクチャーを聞きながら、指示通り、まとめて四発撃つ。
結構ビンの横をかするが、割るまでは行かない。なかなか命中しないのだ。
タイで撃った時には、近距離だったせいもあって、結構ビンを割る事が出来たが、
観光客など絶対に行かない、サトウキビ畑の中の射撃場なんて、少し緊張した。
その辺の日常の平地と言うか、一応、生活圏の延長の場所で銃をぶっ放すなんて、しかも、横の沼には死体があってもおかしくはない雰囲気だったし、風も吹きさらしで、ホンマの現場の実戦って感じだった。
そのうちに、サンミゲルの二リットルのビールが四本も届いた。
「これ全部飲めんのかよ?!」と、全員笑っていたが、ここのオーナーがサービスで出してくれたのだ。
持って来てくれたのは、日本で言う所の、中一くらいの男の子である。
銃撃ってるおっさんの横で、ビール持って来てくれるアルバイトの中学生なんて日本ではありえないだろう。
ビールを飲んで休憩だ。ボスは何か日本のギャグを真似して絶好調だったが、娘の話に振ってやると、親バカちゃんだった。
食堂で稼いで、綺麗な制服を着れる隣街の優秀な高校に行かせたいと言っていた。よっぽど可愛いんだろう。
普段それほど飲まない大統領兄弟も、八リットルのビールが勿体無いので、飲みまくってベロベロになっていた。
自分も結構酔っ払らって、皆んなで下ネタ合戦になっていた。フィリピンに来て四日も経つと、下ネタも言えるようになるのだ。
それから、連続で撃ちまくり、銃の構造も学び、不発弾も処理し、全て撃ちつくして終了した。その日は疲れたので、晩御飯断り、帰ってすぐに寝た。
次の日の朝、飯食ってプールで泳いで、プラプラしていたら、
「ショーチャン、ランチ」と大統領の弟が迎えに来た。気の良い子だが、地元のヤンキーで、問題ばかり起こしているらしい。例のウヰスキー買ってきてくた子だ。自分には特に優しいのである。
でも、他のフィリピン人達と違って、ストレートに色々本音で質問してくる。フィリピンの現状も包み隠さず教えてくれるし、大統領がショウチャンは『お金持ち』とふれこんでいたので、どうすれば金持ちになれるのかをいつも聞いていた。
その時は、毎回、
「図書館に行って、何でもいいから片っ端から本を読め」と教えた。
「一日に二冊読め」と教えた。見た目や雰囲気で勉強嫌いそうだったので、学校サボってるなら、サボってもいいから、本だけは読め」としつこく言ったのである。
十四か十五のくせに一緒にウヰスキー飲んで、タバコをふかしながら、話をするのである。可愛い奴だ。
それを大統領パパや兄貴は黙って観ながら、話も聞いているのだが、
飯の後、呑んでる時に、「俺らは夢を見ることしか出来ないんだよ、現状変えるのは不可能に近い」と大統領の兄貴の方に言われた。
道路も火山灰のおかけで元の土壌が弱く、インフラ整備も進まないし、フィリピンの田舎が現状を変えるのは難しいと言われてしまった。
「だから本読んで知性をあげるしかないやん」と自分は言ったが、日本人には自分たちの生活の現実が、理解出来ないだろうと思ったのだろう。
とりあえず弟の質問話は続くが、何かもっと、速攻で簡単な方法はないのか知りたそうだった。
ランチ食べてホテルまで送って貰って、「また夕方迎えに来るから」と弟は言って帰って行った。それからまたプールに入った。
夕方、えりんに電話した。鼻炎の薬が切れたのである。
慢性鼻炎は治らない。昔の喧嘩やスパーリングで鼻があまり良くないのである。
医者が言うには、本当は治ってるらしいのだが、点鼻薬の中毒になっているらしい。大統領の町の薬局にも行ったのだが、原液を生理食塩水で薄めるやつしか無かった。実はただの鼻の洗浄液だろう。薬局には、アルバイトの女の子しかいないし、理解出来ていなかった。
多分薬剤師が時々しか来ないのだろうか?!英語もあまり通じないので、たぶんそもそもアルバイトだけしかその薬局にはいないのだろう。
病院もあったが、小さい病院にものすごい人数が入っていたので諦めた。
それでえりんに薬の写真を送って、三宮で買って来てもらう事になった。
えりんに大統領の家族との日常の事を伝えると、更に「早くフィリピンに行きたいな」と行って、羨ましがっていた。日本の『昭和の世界』に近いのだ。
この町にえりんは来る事はないが、ボラカイ島という、こっちのセレブが行く島に行く事になってる。
マニラで落ち合って、その島までそのまま飛行機に乗って行くのだ。あともう少し。来週にえりんはやって来る。
もう早めに休み貰って塚口に帰って来てるらしい。
「やっぱり塚口はいい」と言っていた。京都の中華屋は面白くないので、旅行終わったら仕事辞めて塚口に帰って来るらしい。
「とにかく鼻炎の薬だけは買って来てね」とえりんに念を押した。
その日の晩、みんなでカラオケに行ったが、駄菓子屋にカラオケがあるのが面白かった。店のイカとか食べながら、店の中でうたも歌えるのである。疲れが溜まっていたので、早めに切り上げて帰って来て寝た。
続く〜