道中
以前本人が解説してたケイタのスキルの内容、少し修正しました。
「………と、これが我の知っている限りのヒルデの過去だ。結局あれから1度も会わずに逝ってしまったがな。」
「………そう。わかった。」
「何だ、意外と落ち着いてるな。」
「お父さんには会ったことがなかったし、誰もその話をしなかったから、何となく察しはついてた。」
「なるほどな。賢い子だ。」
「あの、色々ありがと。お母さんの面倒みてくれて。」
「気にするな。退屈凌ぎに世話をしてやっただけだ。」
「いや〜、ヨグトさぁん、素直じゃないね〜。」
途端に口を挟むチトセ。
「何のつもりだ小娘?」
「見ず知らずの女性のことそこまで面倒見てやってさ、もうそれさ、夫婦やん。」
「なっ!」
(千歳のバカ、何言ってんだ!ああそうだ、こいつマンガとかアニメ好きだった……。)
「勘違いするな。我はあいつに少しばかり世話を焼いてやっただけだ。それにあいつは我の主であって嫁ではない。」
「ふーん。まあいいけど。」
何故かニヤつくチトセと若干不機嫌なヨグトであったが、そこへリカイが爆弾を落とす。
「ヨグトがお父さんか……いいかも。」
「……!」
途端にヨグトの動きが乱れ、飛び方が不安定になる。リカイのスキルを食らったときの比ではない。
「うああ、ヨグトォォ!落ちるぅぅ!」
「はっ!」
リカイの悲鳴で正気を取り戻すヨグト。取り乱し方が露骨にも程があると思うタカシたちであった。
「はあ、びっくりした。もう!気をつけてよね!」
「ええい、うるさい!お前が余計な戯言を言うからいけないのだ!我がお前の父になどなれる訳がないだろ!」
「そうかな?私はいいよ。」
「なっ!」
「ねえヨグト、『お父さん』って呼んでもいい?」
「……、!ええい、好きにしろ!」
「うん!ヨグト、大好き!」
「!」
その瞬間、ヨグトは少しばかり、昔を懐かしむような、そんな表情をしていた。リカイは父親ができて嬉しそうだった。そんな様子をタカシたちは微笑ましげに見守っていたのだった。
数分後、ヨグトがタカシたちはに告げる。
「間もなくは陛下の国だ。名をヴェクタブルグ王国という。人間には知られていないようだがな。」
こうしてタカシたちは魔王の国、ヴェクタブルグ王国へと入国することとなった。しかし、ここでタカシが素朴な疑問を投げかける。
「ヨグト、リカイたちが襲われたとき、ヒルデさんはお前を呼ばなかったのか。」
「確かに呼んだ。だがその直後に命を落としたらしく、居場所を探すのに時間が掛かったのだ。リカイよ、すまかった。そういえば、我に助けを求めたときのヒルデの魔力は随分と変わっていたが、あれは何故だ?我はあのときヴェクタブルグにいたが、あれでは近くに居合わせていても見つけるのに苦労魔力を辿って見つけることは難しいぞ。」
「……お母さんは、〈蛇皇〉を発現してた。」
「!なるほどな。そいつらが来なくてもどのみち、という訳か…。」
「なあリカイ、前にも話してたけどその〈蛇皇〉って何だ?何かのスキルか?」
「うん。魔物にだけすごく偶に現れるスキルだよ。使い手の力とか、魔力とか、とにかく賢さ以外のあらゆる能力を底上げするの。」
「それであんなに強かったのか。炎弾食らっただけでも死ぬかと思ったぞ。」
「マジ⁉︎啓太って剣持ってたら身体能力上がるんだよね?その上相手は初級魔法なのに。」
「それだけチートってことか……。ん?でもそれと今回の話と何の関係が?」
「〈蛇皇〉にはある特徴があってね、発現したら、どう足掻こうとちょうど1日後に死ぬの。」
タカシは何となく腑に落ちた。どれだけリカイが大人でもまだ子どもだ。親を殺したケイタやチトセとあそこまで仲良くなれるなどおかしい。あいつらさえいなければ、と考えてしまうだろう。だがリカイはそうじゃない。ケイタやチトセがいなくても、どのみち彼女の母は死んでいたのだ。そのことが、リカイがケイタとチトセを恨まずにいる1つの理由かもしれない。
数分後、ヨグトが地上に降りると、そこにはいかにも関所と思わしき建物があった。
「止まれ!貴様ら何者だ!」
叫んだ者たちは人のように二足歩行だが、その見た目はどう見ても狼だった。
「人狼だよ。人に化けるのもいる。」
リカイが解説を挟む。
「我はヨグトという者だ。この者たちがヴェクタブルグ王国への亡命を希望している。」
「ヨ、ヨグト様⁉︎」
「ヨグト……『様』?お父さんってそんなに偉いの?」
「お父さん⁉︎あの、ヨグト様、こちらの娘は一体?見たところ吸血鬼のようですが。…ていうか何で人間共までいるのですか⁉︎」
「ええい、貴様らでは埒があかん。代われ。」
「ヨグト様、代われとは?」
人狼の1人がヨグトに尋ねる。
「はあ、陛下、我の目は誤魔化せませんよ。下っ端の連中に無駄な負担を負わせないで下さい。」
「へ、陛下?」
「くくく、相変わらずヨグトは冗談が通じないねえ。」
一瞬空間が歪み、その人狼の姿が変わる。そこには、一見すると人間だが、何とも近寄りがたい雰囲気の若い男が立っていた。
「やあやあ、ヴェクタブルグ王国にようこそ。我は魔王ファフニール。それで、ヨグトの知り合いらしいけど、どこから説明してもらおうか。」




