ただし魔王は十分に強いものとする
魔王ファフニールの見た目は、20代の男性で髪は長く伸ばしていた。体つきは比較的筋肉質だが引き締まっているという感じだ。つまり見た目は比較的普通である。
だがその雰囲気は違う。人狼に化けていた先程までとは違い、一目見ただけで化け物と断定できるほどの覇気を放っている。
「陛下、こちらの吸血鬼は名をリカイといい、我の知り合いの娘です。」
「ほぉ、見たところ、それなりの魔力を持っているね。で、そっちの人間たちは何かね?」
「この者たちはリカイの仲間です。訳あって人間の国に追われており、このヴェクタブルグに亡命を希望しております。」
「なるほどね、じゃあいっぺん我と戦ってもらおうか。」
「「「え⁉︎」」」
ファフニールの発言に恐怖する転移者3名。エーレは彼らの後ろで静かに震えている。
「待ってください、魔王様。タカシ君たちは悪い奴じゃありません。どうか命だけは…」
「リカイといったね、安心しなさい。私は別に殺そうとか思ってないよ。人となりを知りたいから一度手合わせしたいってだけさ。」
「分かりました。」
「ちょっと、啓太、本気⁉︎あの人絶対勝てる相手じゃないよ?」
「分かってる。でも魔王様の言い分も何となく分かるんだよ。それに向こうも殺さねえって言ってるし、引き受けた方がいいだろ。」
「僕はいいよ。まあ戦力にならないけど。」
「僕も、いいです。」
「はあ、分かったわよ。やりゃいいんでしょ、やりゃ。」
「決まりだね。よし、4人ともまとめてかかってきなさい。」
そして、タカシたちは少し離れた平地まで移動してきた。ファフニールは1人で堂々と立っている。対するタカシたちは、ケイタとチトセが前、タカシとエーレが後ろという陣形だ。タカシは単に足手纏いという理由だが、他の3人はその方が戦いやすいからである。
「それじゃあヨグト、審判よろしく。まあ特に何もしなくてもいいけど、我がやりすぎと思ったら止めてくれ。気をつけるけど。」
「御意。では始める。両者ともよいな?」
「いいよー。」
「「「「はい!」」」」
「では……始め!」
まず仕掛けたのは意外にもタカシであった。彼は彼ができる唯一の貢献、〈鑑定〉を使ったのだ。そして得られた結果は
ファフニール(魔王)
スキル:偶像崇拝
「分かったよ。〈偶像崇拝〉ってスキルだ。エーレ、分かる?」
「ごめん、聞いたこと、無い。」
「ちっ、じゃあ俺らで何とかするか。千歳!」
「オーケー、頼んだよ啓太。」
次の瞬間、ケイタが飛び出す。剣を構え、ファフニールに斬りかかる。
「おりゃーーー!」
「うぉっ、早っ!」
そう言いながら堂々と剣を受け止めるファフニール。何と彼は片手で、それも素手でケイタの剣を防いで見せたのだ。
「ぐっ、」
「君、才能あるね。まだまだ未熟だけど。ほいっ!」
「ぐあっ!」
ケイタの腹にファフニールの拳が入る。次の瞬間、ケイタはぐったりとその場に倒れ込んだ。
「啓太!」
「次は君だよ。」
「なっ!」
次の瞬間、ファフニールはチトセの目の前に迫っていた。ファフニールの拳撃がチトセに迫る。チトセは腕組んでそれを受けた。
「ぐっ!」
「おやおや、まさか受け止めるとは。なるほど、そこの魔術師だね。しかも私が気づかないように無詠唱とは。」
エーレは既にチトセに対して牆璧を発動していた。無詠唱は詠唱ありに比べると色々とデメリットもあるが、腕利きの魔術師ならば今のエーレのように、咄嗟に発動させることも可能である。
「しかし驚いたね。この無詠唱魔法もだけど、君、我の拳を魔法の補助ありとはいえ受け止めているね?何かのスキルかな?」
「ぐうう……ハァ!」
ファフニールの拳を振り払い、チトセがファフニールにキックを放つ。ここで彼女が腕を使わなかったのは、既に両方折れていたからである。つまりそれぐらいファフニールの攻撃は痛かった。これはチトセにとって最強のバフである。
ファフニールがチトセのキックをまたもや片手で受け止める。が、少し驚いたような表情をする。
「おやおや、これだけの力は私の部下でもあまりいないね。驚いたよ。ハッ!」
「うわっ!」
ファフニールがチトセの腕を掴んだかと思うと、そのままチトセを投げ飛ばす。流石にチトセも戦える状態ではなくなった。
「あとは…君かな。封印魔法 魔力封じ」
エーレの足元に黒い魔法陣が出現する。
「これは、しまった……」
「この魔法は相手の魔力を使えなくさせる魔法だよ。つまり魔力を消費して使う魔法やスキルも使えないってわけさ。ん?私ってこんなに手の内ベラベラ喋ったっけ?」
「いいこと、聞いた。すぐに、使えるように、なる。」
「いい心がけだ。それじゃ今回はこの辺で終わりだよ。封印魔法 意識暗転」
ファフニールが詠唱した直後、エーレは意識を失って気絶した。
「さて、後は君だけだけど……君、弱くない?」
「……」
タカシはここまで必死に頭を働かせていた。ファフニールはこれまでタカシ以外を一瞬で沈めている。はっきり言ってタカシに勝算は無い。
だが、その程度で諦めるタカシではない。彼にはある作戦があった。
ファフニールは人となりを知るために戦うと言った。そしてこれまで自分からはまったく仕掛けていない。おそらくこちらがどう動くかを見ているのだろう。ならば話は別だ。
そして、タカシは自分なりの一手を打つ。
彼は頭を下げていわゆるお辞儀といわれる行動をすると、顔を上げてこう言った。
「初めまして魔王ファフニール様。この度は貴重なお時間を割いていただきありがとうございます。私はタカシ=カズノセと申します。」
要するに自己紹介である。




