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芽吹いた疑問

モブ視点です


 

 ─────まるで春を呼ぶ妖精の様な美しさだった。

 

 ドキドキと高鳴る胸をぎゅっと押さえ込んで手を取り合う男女を見つめる。パーティーでは良くある光景で、何らおかしくないが。

 

 だけど、その美しさは会場で一番だったと言ってもおかしくないだろう。

 

 家の力を好き勝手し婚約者を蔑ろにし、男遊びに耽ける。税を尽くしたような生活をして、いつだって他者を虐げる。

 

 

 ────それはあの美しい人が本当にしているのか?

 

 柔らかな楽しそうな笑みをうかべる彼女はパートナーに安心した様子で身を任せる。くるくると時折ドレスを波打たせて踊る様子は無邪気な子供にも見える。不意に近くに居た女生徒が「婚約者を差し置いて別の方と初めに踊るなんて」と軽蔑したように呟いていたのに驚いた。

 

 「どうしたの、ヨハン?」

 「クレア、僕はなんだかおかしな劇を見てる気分だ」

 

 だってそうだろう? 楽しげに華やかに踊るルーシュ様よりも先に──その婚約者であるあの人が転入生の手を引いて踊り始めたんだ。

 

 僕の婚約者であるクレアはあまり噂に興味が無い。貴族の令嬢としては欠点かもしれないが、さっぱりとした性格は心地好い。そんなクレアだからこそ僕の発言を聞いて改めて二組の男女を見る。

 

 「ルーシュ様…楽しそう」

 「そうだね」

 「私は詳しくはないけど…でもあの笑顔が嘘には見えないわ」

 

 晴れやかな笑みを浮かべて美しい男子生徒と踊る彼女は本当に春を呼んでくれているようだ。ずっと心の中にあった影を晴らしてくれているような…そんな。

 

 「なんだかルーシュ様とあの男子生徒お似合いね」

 「確かに、息もピッタリだし」

 「婚約者と踊るべきだろう!」

 「あら、ならあのルーシュ様の婚約者のパートナーが転入生なのは何故?」 

 「確か先に会場入りしたのは転入生達の方だよな 」

 「先程お会いした時のルーシュ様はパートナーが居なくて落ち込んだ様子でしたわよ」

 

 ルーシュ様を噂通りだとする者、噂とは異なり目の前の光景を受け入れ始めた者それぞれが口々に意見を出し合う。

 

 だっておかしいじゃないか。

 

 

 「ルーシュ様自身が嫌がらせしている所を見ているのが───ルーシュ様の婚約者とパートナーを組んだ転入生しかいないなんて」

 

 そして転入生とルーシュ様が話している様子が一切ないなんて。

 

 「─────っ!」

 

 ダンスが終わったルーシュ様とそのパートナーに詰め寄り怒りのままに言葉を吐き出す婚約者とその横に立つ転入生。

 

 「…僕達が知る噂は、本当に信じていいものなのか?」

 

 何も知らない者ならルーシュ様と男子生徒が婚約者同士でそれを邪魔するのがルーシュ様の婚約者と転入生に見えるだろう。

 

 今だってルーシュ様はなんの反抗もしていない。言い返すこと無くじっと周りを見ている。

 

 

 どれだけ酷く罵られても否定はしてないが肯定もしていないし、そもそも反論すらもしていない。まるで“何も知らない”様な表情で、言い合う男子生徒と婚約者を見上げている。

 

 

 

 「絶対何かがおかしいんだよ」

 

 思わず呟いた言葉をクレアが拾って「噂ってやっぱり好きじゃないわ」と吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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