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-80- 吝(やぶさ)かではない

 [吝やぶさかではない]という都合のいい言い回しがある。私としては積極的にやろう! という気持はないが、どうしてもやってもらいたいと言われるなら、やること自体に不満はなく、やらせていただく・・という積極的な参加を回避かいひする遠回しの了承なのである。この、[吝かではない]という言い回しは、実は非常にしたたかで、なかなかの曲者くせものということに多くの人は気づいていない。この[吝かではない]と発する人の気持は、実は逆転して相当に[吝か]なのだ。もう少し分かりやすく言えば、[吝かではない]のだが、出来れば他の人にお願いしたい・・の意味を含む逆転した逃げ言葉なのである。

 とある法律事務所の中である。

 「念を押すようでなんなんですが、遠山さんは明日からお休みでしたよね?」

「はい! 大岡さんは知っておられると思いましたが?」

「ええ! もちろん知っております。知ってはおりますが、念には念を入れたまで、です」

 所長代理の大岡は妙な言い訳をした。

「それが、なにか?」

 副所長の遠山はいぶかしげに大岡を見た。

「ははは…いや、どう! ということはないんですが…」

 大岡は語尾ごびにごした。

「それで、よろしいんですよね?」

「ええ、もちろん! それでいいんですがね」

 大岡は奥歯に物のはさまったような言いかたをした。

「えっ? と、言いますと?」

「ええ…、私があなたの代わりに出勤するという訳です」

「えっ?」

「出勤することには、吝かではないんですが、出切れば、他の方に…」

「と言われるのは、休みは駄目だと?」

「いえ、駄目だとは申していないんですが…」

「では、どうしろと!」

 遠山は少しイラついた。

「明日は休みたいんで、明後日あさってからでは?」

「それならそうと言われればいいじゃないですかっ! 私は明後日からでも、吝かではないんですからっ!」

 [吝かではない]はその後、事態を逆転させるこの法律事務所の流行はやり言葉となった。 


                   完

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