20/100
-20- 暑くもなく寒くもなく
人とは勝手なもので、夏の猛暑が続けば、深深と降り積もる極寒の雪を恋しく思い、凍りつくような寒さの日々が続けば、燦燦と降り注ぐ真夏の烈日が逆転して懐かしくなる・・といった誠に勝手な生き物なのである。暑くもなく寒くもなく・・といった頃合いの気候は、恰も、いい湯加減に浸かる浴槽の気分にも似ている。
「ああ…いい湯加減ですなぁ~」
湯気が霧のように漂う禿乃湯の浴槽である。この銭湯の歴史は古く、江戸初期の寛永年間にはすでに創業されていたというから、ダジャレでいう驚き、桃の木、山椒の木である。
「そうですなあ~。これくらいが調度、いいんですよっ!」
「そうそう! 熱めのお湯を売り物にしている隣町の鬘湯、アレはいけません!」
「はいはい! アレはいけません! 熱中症になります」
「んっ? まあ、熱中症にはならんでしょうが、浸かり心地は大事です。ははは…」
「ははは…。それにしても夏から冬が近くなりましたな…」
「そうそう! 秋が短い。冬から夏も早くなりましたよ」
「ですなっ! 暑くもなく寒くもなく・・この湯のように長く浸かれないと…」
二人の顔は、長湯で茹蛸のように赤くなっていた。適度がこの世には大事だということだろうか。
完




