-17- お偉(えら)いさん
とある会社の会合が大会議室で開かれていた。出席者は幹部、平たく言えば、管理職の面々? だ。部長、[部長補佐]、[部長代理]、副部長、[副部長補佐]、[副部長代理]、課長、課長補佐、課長代理、副課長、[副課長補佐]、[副課長代理]・・と、実にややこしい多数の面々が一堂に会している。因みに付け加えておくが、[]の職は、この会社独自の役職であり、一般的な民間会社では、こういった職階が少ないか、あるいは皆無であることを付け加えさせていただきたい。さらに、この会社の特徴としては、平社員がおらず、全員が管理職・・といった傍目から見れば一風、変わった会社であることも加えたい。
田畑が広がる中、ひと筋の道路を走る車がプレーキをかけて止まった。車を降り、道を訊ねた男に、畑を耕していた隣町の農夫が手を止め、答えた。
「ああ! あのお偉いさんの会社ですか? それでしたら、この道を20分ばかり走られれば、否応なく見えてきますから…」
「お偉いさんの会社?」
「ええ、ここいらの者は皆がそう言うとりますだ。なにせ、お偉方ばかりで、社員が一人もおりゃ~せんですから…」
「ほお~! そうなんですか?」
別会社の重役である肩凝は、この日、新しい契約を締結すべく車でやってきたのだが、土地勘がまったくなかったせいで道に迷い、農作業をしていた男に訊ねたのである。
「大丈夫なのかな…」
「何がですか?」
「いや、なんでもありません…」
肩凝は一瞬、怪しげな会社に思え、契約を躊躇う言葉を発したが、農夫に訊かれ、すぐ全否定した。
肩凝が農夫に言われたとおり車を走らせていると、確かに前方に会社が見えてきた。肩凝は車を降りると会社のエントランスへ入っていった。エントランス受付係の席には、妙なことに受付嬢ではなく、初老の男が座っていた。
「いらっしゃいませ! 肩凝さんでいらっしゃいますね?」
「ああ、そうですが…」
肩凝は訝しげに、そう答えた。
「私、部長代理兼受付係をしております揉首と申します」
揉首は背広の内ポケットに収納した名刺を徐に取り出すと、肩凝に手渡しながらそう告げた。
「部長代理兼受付係の揉首さん?」
「はい! 当会社では逆転の発想で管理職、平社員の格差がございません」
「? …どういうことでしょう?」
「ですから、そういうことでございます。私どもの会社では格差がございません」
揉首は自慢げに言い切った。
「ほお…」
「すべての社員が管理職でございまして、社員でもありますから、一人で二役以上を熟しておる・・といったようなことで…」
「なるほど…」
肩凝は、そういう逆転の発想もありか…と朧げに思うでなく思った。
これからの時代、こういう逆転した発想のお偉いさんの会社も、経営面では必要なのかも知れない。
完




