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楽園物語  作者: 如月瑠宮
第一章 腐敗
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夜明け

 ナウシカアは旅立った一行を見送り、それを報告する為にエリテュイアの部屋を訪ねた。彼女は優雅にナウシカアが来るのを待っていたようだ。ナウシカアはエリテュイアに微笑み、アイアコスらが無事に出発した事を伝える。

「そう・・・でも、まだ終わった訳では無いわ」

 ナウシカアはその言葉に頷く。ここからが始まりなのだという事が分かる。

 アイアコス達の道程は険しい物になるだろう。それでも、ここからは手助けする事が出来ないのである。出来るのは祈る事だけ。

「中々、辛いものね」

 エリテュイアの言葉にナウシカアは顔を伏せる。奴隷である彼女には出来る事が全く無かった。親友のヘスペリエの身に何か起こっているのではないかと思うと堪らない。

「ナウシカア、貴女はもう下がっても良いわ」

 そんな顔で仕事をしないで頂戴。エリテュイアの気遣いにナウシカアは頭を下げ、休む為に割り当てられている部屋へと戻る。質素な部屋は誰も居ない。

「・・・ヘスペリエ」

 この部屋はナウシカアとヘスペリエが使っていた。ついこの間までここに彼女は居たのだ。そう思うとナウシカアは胸を突き刺す痛みに呻いてしまう。自分だけが辛いのではないのだと言い聞かせても痛みは少しも治まらない。こんな状態で仕事をしては迷惑を掛けるのは分かっている。

「それでも・・・」

 彼女の無事が分かるまでは、この心が晴れる事は無い。

 ナウシカアが退室したエリテュイアの部屋にはアトラスがやって来ていた。彼女の部屋に父であるアトラスが来るのは非常に珍しい事である。アトラスの様子にエリテュイアは苦笑し、自身が座っている寝椅子を勧めた。そして、自身は寝椅子から立ち上がる。

「すまない」

 申し訳無さそうなアトラスにエリテュイアは微笑む。ここは彼の家だ。彼がこの家の主人なのだ。そんな彼を癒やせる者は居ない。


 明けていく夜を見ながらアイアコスは小さく笑った。美しい景色に心奪われる。

「必ず再びこの夜明けを共に見よう」

 その言葉は誰に向けられた物だろうか。


 アイグレーは遠くからそれを見ていた。自分は何も出来ないのかと自身の細い指が並ぶ手を見詰めた。頼りない手だ。アイグレーは溜息を吐く。自分が男だったら、一緒に行く事が出来た。

「お願い・・・無事で」

 アイグレーには何も出来ない。アイグレーには医学の知識がある訳でも、巧みな戦術を編み出せる訳でも無い。ここに居ても、彼らの許に居ても役に立てる自信は無かった。

 ただ、祈る事だけは自由であって欲しかった。

「私は・・・ここに居るわ」

 彼女の祈りは何処に届くのか。

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