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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第三話「迷宮で遊ぼう」
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24、「迷宮最深部 闇」

 幾筋もの紫電が、バチバチと音を立てながら床を跳ねる。床を伝い、壁を這い、部屋の中を荒れ狂う。

 ぞん、と体中の毛が逆立つような感覚。

「まさかスライムが魔法を使い、それも単独で儀式魔法を行うとはな……」

 シルヴィが呆けた顔で、ぼそりとつぶやいた。

「ぐうううっ!」

 やばい、マジでやばい。こんなの迷宮の部屋の中で使う魔法じゃねーだろっ?!

 光の盾の薄い光の幕が、今にも破れてしまいそうなほどに波打っている。たまたまみんな集まっていたこともあり、なんとか全員光の盾の効果範囲内にはいるが、こうも波打っているとうっかり手や足の先が飛び出てしまいそうだ。

「ちょっとたろーくん、いいかげんベルト放してほしいなっ? 脱げちゃうよっ!」

 こんな状況にありながら、寧子さんがちょっとからかい気味に言うのを聞いて、思わず「ああ、すみません」と手を放したら。

「……んしょっと」

 寧子さんがするり、と光の盾の効果範囲からでた。

 ――紫電の荒れ狂う、部屋の中に。

「……え?」

 ちょ。

 思わず手を伸ばして、そして俺もすぐに違和感に気がついた。

 寧子さんはそのままトコトコと歩みを進め、くるりとこちらを振り向いてにっこりと微笑んだ。紫電はその寧子さんの周りを飛び交っているが、まるで気にする様子がない。

「……あれ? なんともないんですか?」

「いやほら、雷とかってさ、手加減しようがないシロモノじゃない? 死なない程度に魔法のダメージを抑える仕組みがあるんだとしたら、こうならざるをえないんじゃないかなーって思ったわけだよっ?」

 ……なるほど。雷が人体に落ちると、それだけでもう、死亡確定みたいな感じだし、死なない程度にダメージを抑えると、実質ノーダメージに近い状態になってしまうというわけか。

 寧子さんは、えへへー、と微笑んでそれでもちょっとはビリビリしびれているのか、すぐに「あばばばば」と意味不明なことを叫んで光の盾の中に戻ってきた。

「危ないですから、自分の身体で確かめるなんてことしないでくださいよっ!」

「うふふー。心配してくれたんだねっ!」

 こんな状況の中、らっびゅーんとかいいながら抱きついてくる寧子さんに「ていっ」とでこぴんをかます。

「……照れ隠しかなっ? そろそろデレてきたかなっ?」

 にやにや笑う寧子さんにさらに追撃する。

 しかし、寧子さんが確かめてくれた所によると実の所見た目ほどこの雷は威力が無いようだが、それでもなかなうかつに光の盾の外に出る気にはなれない。

 ……さてどしたものか。と考え込んだ時だった。

「……あれ?」

 荒れ狂っていた紫電が、ぐるぐると銀色スライムの周りに集まり始め。

「あ」

 その表面に一瞬、ひびのようなものが入った、と思った瞬間。銀色スライムはまるで電子レンジに入れた生卵のように。粉々になって、吹き飛んだ。

「……え、自爆?」

 いやなにがしたかったんだあのスライムはっ?

「というか、見た目どおりに金属なかんじだったから、自分に雷おちちゃったんじゃない?」

 真白さんが、呆れたような顔をして言った。

 なんともそれは馬鹿らしい話だった。

「……ふう、なんだかなぁ」

 ほっとしたところで、頬を汗が伝った。ため息を吐いて汗を拭おうとしたところ。

「あー、ミニにゃんころもちはけーん!」

 ディエがひよひよと俺の顔の前に飛んできて、ひょいと俺の顔から何かをつまんで口に入れた。

『ぬはーっ!』

 あれ、なんか頭の中で声がした。ってもしかして今のスライムの声か?

 ……もしかして、一番最初に俺に取り付いたのが本体だったりしたんだろうか。

 そうして、こっそり逃げようとした所を、食べられちゃった?

 なんとも残念なスライムさんだった。




「あちゃー。エッグノッグ卿もなにやってんだかー」

 シェイラさんの気の抜けた声がした。

 どうやって雷をかわしていたのかしらないが、まったくの無傷だ。

「これでミルちゃん、ファナちゃんに続いてエッグノッグ卿と、うちの四天王ほぼ壊滅状態じゃないですかー。ヤになっちゃいますねー」

「この迷宮、四天王とか居るんですか……」

 お約束の、所詮××は我ら四天王で一番の下っ端!的なこと言わないだろうな? あんなのが下っ端とか言われたら、俺、泣くぞ?

「地下一階の”秘宝守護者ドラゴン”ミルちゃん、地下二階の”神斬りブレード”ランちゃん、地下三階の”唱える者キャスター”エッグノック卿、そして神出鬼没の”月に狂うモノルナティック”ファナちゃんの四人ですよー」

 シェイラさんが指折り数えながら四天王の名前を挙げてゆく。地下二階はスキップしちゃったからランちゃんという人はどういう人だかよくわからない。しかし地下三階までしかない迷宮で四天王ってどうなんだろう。ひとり余ってるし。大剣使いの狂乱戦士は遊撃というか階層不定なのか。あと他の三人はちゃんづけなのに、スライムさんだけ卿とかお貴族様みたいな呼び方してるのもちょっと気になる。

 ……まあ、今更どうでもいい話か。

「……あの、ところで。なんかスライムさんの本体っぽいの、ディエのやつが食べちゃったっぽいんだけど大丈夫?」

「倉庫にまだ十トンくらいありますからだいじょぶですよー?」

「そうですか」

 なるほど、まだ本体が別に居るわけか。ってか、どんだけでかいんだ。

『いや、あまり大丈夫でもない』

 脳裏に声が響いた。ってこれはスライムさんか?

「まだ居たんですか」

『流石に核をつぶされすぎたわい。しばらくは戦闘できんのう』

「最後のは自滅だったじゃないですか……」

『……そう見せかけた作戦のつもりだったんだがのう。ちびに喰われるとは思いもせんかったわい』

 首筋になにやら違和感があった。手で触れると、何か柔らかく小さなものがあった。

 これは……手のひらサイズのフィギュア?

『これ、乱暴に扱うでない。これが正真正銘最後のカケラなのじゃ』

 手のひらに乗せて目の前に持ってくると、小さな三頭身くらいのアニメ風幼女が居た。すらちゃんが人型になる時は本当に人間そのままなのだが、このスライムさんの場合、あくまでスライムの表面の形を人型に整えた、というかんじでほんとまんまアニメ的なデフォルメをされた形状だ。そこまで構成できなかったのか服のようなものは身につけておらず、つるんとした起伏の少ない裸の姿だった。

「……なんで幼女」

『ただの趣味じゃ。気にするでない。また喰われてはかなわんからの、人型をとらせてもらったまでのこと』

 口調とか、脳裏に響いてくる感じはなんかおじいさんっぽい感じだったのに。

 それにスラちゃん、スライムは人型なったりしないって言ってたはずなんだけど。

 ……趣味ってまさか、変態紳士というやつではなかろうな? はっ? まさか、それでシェイラさんが「卿」なんて付けてるのか? 紳士なだけに!?

『馴れ合うのは地下三階の流儀に反するしのう、必要事項を伝えたら消えるわい』

 スライムさんは俺の手のひらの上で立ち上がると、ちいさく伸びをした。いちいち仕草があざとい。

粘液スライムの身の上ゆえ、褒賞となるものを所持しておらぬが、拙を倒したおぬしらにはその資格があろう。あちらの床を調べるがよい』

 銀色スライムの残骸が転がっている方を指差して、じゃあの、と小さく手を振って小さなスライム幼女は忽然と姿を消した。瞬間移動の魔法らしかった。




「コインがいっぱいあったにゃ!」

 ニャアちゃんが床の隠し扉を開けて言った。百枚くらいはありそうだ。これなら全員が帰還の指輪を使ってもまだ十枚くらいは儲けがでるだろう。そう考えると苦労の割には儲かってない気もするが、これで多少は余裕が出来たわけだ。

「ぐぬぬー」

 シェイラさんが何やら唸っているようだが、どうせまた赤字だーというやつなのだろうから気にしないことにする。というか三階に下りてきていきなり四天王ニ連続みたいなのって絶対シェイラさんの仕込みだろう?

 いくらなんでもこの迷宮で一、ニを争いそうな連中が、地下三階に下りてきたとたんに連続で襲ってくるというのは前もって待ち伏せていたとしか思えない。つまり、シェイラさんが連絡しておいたか何かしていたのだろうと思う。

 大きくため息を吐く。でもまあ流石にこれ以上の障害はラスボス以外に居ないだろう。もしかしたら大剣使いの人 (どうもシェイラさんぽいんだが……)がまた襲ってくる可能性もあるけれど、流石に連続では来ないだろう。

「……ちょっと休憩かな。まだ一部屋しか進んでないが」

 皆に声をかけて、その辺に座る。

「しっかし、真白さんたちよくこんなとこを四人で攻略できましたね?」

 マップを広げながら言うと、真白さんが苦笑した。

「あんなのに会ったのは今回が初めてですよ。私たちがこれまで探検していたときにはせいぜいゴーレムくらいでしたね、強敵なんて」

「ゴーレムとかいるんだ」

 そういや迷宮の敵には魔法生物とか不死者アンデッドの類が多いって言ってたな。

「結構、趣向が凝らされてますよ。ある程度の期間、だいたい一週間くらいかな? で配置場所とかも変わるみたいですし」

 真人くんが今はどこだか不明と前置きした上で、ゴーレムはこの辺にいましたよ、とマップを指差してみせた。

「へー」

 ゴーレムと戦ってみるもの面白そうだが、壊したら弁償とかいわないだろうな、シェイラさん。しかし、明らかに人造の作り物であるゴーレムだとかの魔法生物のほうが、戦うには気楽かもしれないな。

 ぼんやり考えていると、頭上でなにやらぱたぱたと音がして、見上げるとリーアがホワイトボードを振っていた。

「ん? どしたのリーア」

 頭上に浮かんでいたリーアがホワイトボードを俺の顔の前に突き出してきた。

『しらべる よい?』

「なんかあるのか?」

『しらべる』

「何を調べるんだ? 別にいいけど」

『ちず ほしい』

 地図、だと? 何をする気だろう。言われるままにマップを渡す。

『みみふさぐ』

 あ。

「全員、耳をふさいで!」

「――♪♪♪」

 両方のこめかみをおさえて「んんー」と唸るようにしてリーアから放たれた音が、部屋中をかけめぐった。これまでと違って、大分低い音だ。ずんと腹の底に響くような、そんな感じがしばらく続く。

 リーアは目を閉じて、しばらくじっと耳を澄ますようにしていたが、やがて『わかった』とホワイトボードを振ると、そのままペンを片手に何やら地図に書き込み始めた。

「あ、こら、落書きはやめてくれよ」

 思わず止めさせようとして、すぐにリーアが何を調べていたのか気がついた。

「……この階層のマップ、全部埋めたのか」

 音波で地形を? だからなんで人魚が迷宮探索に大活躍してるんだろう。

『この部屋、かくしとびらある』

 リーアが壁を指差した。ニャアちゃんが「にゃ?」と首を捻りながら壁を調べるが、すぐに首を横に振った。

「確かにこの向こうに空洞あるらしいにゃ。でも、けっこう壁厚いにゃ。トビラらしきものもないですにゃ」

「ふむ、魔法的な仕組みもないようだが」

「少なくとも、通常の手段で開くトビラではないようですな?」

 シルヴィとヴァルナさんも一通り壁を調べてそう言った。スタッフ用の隠し通路とかならなんかマークがついてるはずだし。振り返ってシェイラさんを見ると、首を横に振った。

「そこスタッフ用の通路とかじゃないことだけは保障しますが、それ以上のことは言えないですねー」

 まあ、ガイドじゃないので隠し扉の情報を漏らすわけにもいかないのだろう。しかし、首を斜めにしていて本当に心当たりが無い様子だ。

『りーあにまかせる』

 すぅ、と大きく息を吸ったリーアが、「ん」「ん」「ん」と短く何度も短く音を発した。

 すると、黒い半透明なガラスのように見える壁にいくつもの波紋が広がって、その波紋同士が干渉する部分に小さな亀裂が入った。

「おお」

 波紋が震えるたびに亀裂は広がって行き、ブルブルと震えながら少しづつ手前に向かって四角いブロックのように壁の一部がずれてくる。そうして、ぽっかりと幅一メートルほどの狭い通路が口を開けた。高さも低く、ちょっと通るのは面倒そうだがなんとかかがめば通れそうだ。

「やるなー、りーあ」

「――♪」

 なでてやると、リーアが小さく喜びの声を上げた。どうやったのか知らないが、本職のニャアちゃんやシルヴィたちが見つけられなかった扉をこじ開けてしまったのだ。

「……いや、ほんとにあったんですねー。壁崩したのなら文句いうところでしたけどー」

 シェイラさんが珍しく驚きの声を上げた。そのままこちらにやってきて、通路を覗き込むようにする。

「え? スタッフが把握してない隠し通路なんですかこれ?」

「ええ、ですからー、この先の安全が確保できませんので限定的にガイドにもどらせていただきますねー」

「……いや、未踏の場所って大概お宝眠ってたりするから、それ狙ってるなんてことは?」

「……山分けで」

 にっこりとシェイラさんが微笑んだ。




 盗賊的な技能も高いらしいシェイラさんが先行して通路に入る。

「すぐに部屋になってますね。あたしのカンテラだとアレなので、お客さんのその機械の明かり貸して欲しいですね」

 間延びした、気の抜けた声でなく、真面目モードに入ったらしい。シェイラさんは真剣な表情で右手を差し出してきた。

「ちゃんと返してくださいね」

 言いつつ渡してあげると、「信用ないですねー」と苦笑しながらシェイラさんが再び通路の奥に潜っていった。

 しかし、シェイラさんは十数分が過ぎても戻ってこなかった。あくまで様子見で、すぐに戻ってくるはずだったのだが少し時間がかかりすぎではないだろうか。

「……何かあったのか?」

「どうする? たろーくん」

 寧子さんに問われて、少し悩む。この先は比較的安全が保障された、テーマパークのようなダンジョンでなく本当の迷宮だ。とするならば、仮に死んでも何とかなる俺が行くべきだろう。

「俺、ちょっと行って来ます」

 リーアの書いたマップだと小部屋の先にまた通路がありどこかへ続いているようだが、真白さんの書いたマップに重なっている。ゲームと違うのだから、上か下か。立体的になっているということなのだろう。

「気をつけてねっ?!」

 寧子さんたちに見送られて、俺は狭い通路にもぐりこんだ。




 中腰になって、屈みながら狭い通路を進む。先を照らすがどうも光を反射し難いらしく、あまり先が見通せない。

 ……わずかながら下り坂になっているような気がするな? とすると本来の階層より地下になっているのか。

 慎重に足を進めながら、一ブロック、六メートルほど進むと、不意に開けた空間に出た。懐中電灯で照らしてみると、どうやら小部屋のようだった。通路は部屋の壁の真ん中あたりにつながっていたらしく、下に降りるのにシェイラさんが使ったのであろう、ロープが垂れ下がっていた。

 シェイラさんはここに居るのだろうか。ロープがきちんと固定されているし、うっかり落ちてケガをした、とも思えないが。それとももっと先に進んだのだろうか。

「シェイラさん、居ます? 何かあったんですか?」

 通路から身を乗り出して、予備の懐中電灯でぐるりと小部屋の中をを照らす。

「――!?」

 その明かりに。

 人の姿が。

「まさかシェイラ、さん?」

 部屋の壁に佇む、その女性には。


 ――首がなかった。

 ……非常に遅くなりました。このお話にかぎっては、黙って更新しなくなることは避けたいので、なんとか頑張ろうと思います。

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