23、「迷宮最深部 ○○が効かないのは、メタルなやつのお約束」
「くっ……!」
変身した銀色に輝く巨大なスライムを前に、それでもあきらめずになんとか次の手を考えようとしていたときだった。……寧子さんが奇声を発して狂喜乱舞したのは。
「メ……メ○ルスライムきたーっ!!」
「は……?」
言われてよく見ると、さきほどまでの巨大スライムは巨体なだけに端に行くほどべちゃりとつぶれかけたプリンのようなというか、ぶっちゃけバ○ルスライムのような形状をしていたのだが。表面が銀色に輝くようになり、おそらく表面も固くなったのだろう。なめらかな表面は表面張力でぷるんとした曲面を構成し、ゼリービーンズのようなというか水を弾く素材の上の水滴というか、いわゆる某国民的RPGに登場するスライムによく似た形状になっていた。
もっとも全身がメタリックに輝いているだけで目や口のようなものはない。
……言われてみれば、似てるか?
「いや、ララ様っ! あの大きさなら、メタルキ○グの方じゃないですかっ?!」
「おーっ! 経験値がっぽがっぽーっ! ひゃっふーっ?!」
真白さんと寧子さんが、異常に盛り上がっていた。
ゲームのしすぎだろう、お前ら。
「いくよ! いくよ! えいっ!」
寧子さんがハンマーを振り上げて、銀色のスライムに向かって振り下ろす。
と。
カキン、と高い金属音がして弾き返された。どうやらメタルな見た目に違わずずいぶんと表面が固くなっているらしい。
「おー! これこれ! この音っ!」
「メタキンきたー!」
真白さんも長剣を思いっきり振り下して金属音を確かめてはなにやら奇声を発している。キン、キン、と高い金属音が何度も響き、そのたびにふたりして奇声を発している。
「……タロウ、めたきんとやらはなんなのだ?」
ノリについていけないシルヴィとヴァルナさんが戸惑いがちにこちらを見つめてきたので、「あー、うん。うちの世界で割と有名なモンスターかな?」と適当にごまかした。
真人くんも苦笑している。彼は真白さんほどゲーマーではないようだ。
「……しかし、攻撃してきませんね?」
双剣を構え、警戒しながら真人くんが疑問の声を上げた。
「ん、確かにな」
先ほどからハイテンションな寧子さんと真白さんが、奇声を発しながらカキンカキンと金属音を響かせているが、銀色になったスライムにはまるで動きがない。あるいは向こうも様子見なのだろうか?
……いやまさか、こちらのレーザーを反射するように変身して固くなったせいで身動きできなくなっただけ、とか。
「向こうが攻撃してこないのであらば、この隙を逃す手はあるまい?」
シルヴィが何か力を溜め始めた。これまで牽制のために連射性能を高めていた光弾を、威力を上げる方向に変えたっぽい。生み出すと同時に射出されていた光の弾が、シルヴィの周囲をくるくると回りながら徐々に大きさを増してゆく。
「……いや、シルヴィちょっと待った!」
まさか能力までメ○ルスライムと同じとは思わないけれど。銀色の体表が気になる。
「待てといわれても、ここまで溜めると消すのは難しい。前衛下がれ、大きいのを行く!」
「あ、シルヴィまてってば」
魔法が効かないだけならいいが、特に光の魔法っぽいし、反射とかされたら。
「ヴァルナさんっ! 対魔法用防御お願いしますっ!」
「ふむ? ……むっ?!」
ヴァルナさんが戸惑ったような声を上げた。
「なんだ?」
シルヴィの放った光の槍が銀色スライムの表面で弾け飛び、雨粒のような無数の光弾になってこちらに襲い掛かってきた。これはさすがに避け切れない!
「あぶないよっ!」
真白さんをかばうように寧子さんが盾を構えて間に入ったのが見えた。
「くそっ! ナビっ!」
「こんなこともあろうかとっ! 光の盾用意しときましたっ!」
流石ナビ仕事が早いっ!
頭上にふよふよと浮かんでいたリーアの尾っぽをつかんで引き摺り下ろし、抱きしめるようにしてとっさに魔法を起動する。ドーム状に光の幕のようなものが広がり、「ヴァルナさんっ!」
と声をかけるとすぐに状況を察したヴァルナさんが、シルヴィを抱えて幕の内側へ飛び込んでくる。
すぐに無数の光弾が幕の表面にぶつかり無数の波紋が広がった。光の幕は薄いが、小さくなった雨粒くらいの光弾なら余裕で防げるようだった。
「すまぬ、タロウ……」
ヴァルナさんに抱きかかえられたシルヴィは少し被弾していたらしく、腕と肩から血を流していた。
「大丈夫か?」
「うむ、このくらいは平気だ。すぐに治る」
『――♪』
リーアが癒すように優しい音を奏で始め、シルヴィはもういちど「すまぬ」と声に出した。
俺が設置した反射板もまだ残っているようで、雨粒のようになった光弾はあちこちで弾かれては飛び交っている。なんか大量のピンポン玉を一斉に床にぶちまけた時みたいなかんじだ。
もうしばらくは動けそうにない。
寧子さんたちは大丈夫だろうか。全方向から飛んでくる感じだが、あの盾だけで防げるのだろうか。
って……あ、真人くん忘れてたっ?!
別に男だからどうでもいいというわけではかったのだが、すっかり意識の外だった。あわてて周囲を見回すが姿が見えない。それによく考えたらニャアちゃんもずっと姿を消したままだ。
「くっ……!」
シェイラさんとかも巻き込まれてないだろうな?
いや、あの人なら平気そうな気もするけど。
『――♪♪♪』
リーアがひと際大きく、全方位に向けて音を飛ばした。空中を跳ね回っていた光の弾がその振動に触れて爆発破裂した。
「封呪結界陣」
続けてヴァルナさんの魔法が周囲の光弾をかき消す。
「真人くん、無事? 寧子さん、真白さん大丈夫?」
周りを見回すがやはり真人くんの姿は見えない。シェイラさんはどうやって無事に済んだのかは知らないが、壁に寄りかかってあくびをしている姿を確認できた。
「こっちはだいじょぶだよっ!」
寧子さんが真白さんと一緒に手を振ってみせる。
「……真人くんは……それにニャアちゃんは?」
懐中電灯で周囲を照らしながらさらに見回すと。
……床から、天井に向かって伸びる、人間の手のようなものが見えた。
まさか。
手だけのこして、焼け焦げた?
「ああ、僕も大丈夫ですよ、鈴里さん」
床から伸びた右手が、ぐーぱーと握ったり開いたりを繰り返した。周囲を探るようにしていたが、床にぺたりと手のひらを押し当てると。ずるり、と床から染み出すように人間の首が現れた。
「ちょっと危なかったですけどね」
真人くんの顔だった。どういう手段を使ったのか不明だが、床にもぐりこんで光の弾を避けたらしい。ほっと胸をなでおろす。特に何かケガなどしている様子は無いようだった。
「あははー、なんかマド○ンドみたいだねっ!」
寧子さんが真人くんを見て笑った。
「いやララ様、頭もでてますからようがん○じんのほうじゃないですかっ?!」
姉のくせに真白さんもあんまり真人くんのことを心配してる様子がない。このゲーマーどもめ。
……ってあれ、なんか違和感が。
目をこすって真人くんを良く見る。なんか、先ほどまで無かったはずのものが付いているような?
ぴこん、と真人くんの頭から生えているのは。
あれは、ねこみみではないだろうか。
「よいしょっと」
ずるり、と床から這い出してきた真人くんは、んーと伸びをするとしっぽをぴんと伸ばした。
って、しっぽもあるんか?!
「……依然、ヤツに動きがないですね?」
双剣を手元に呼び出した真人くんが、音も無くこちらに駆け寄ってくる。
寧子さんたちもいったん下がってこちらに駆け寄ってきた。
「魔法はNGねっ! メタルス○イムに魔法が効かないのはお約束だからねっ?」
寧子さんがシルヴィに言い、シルヴィが「すまぬ」と頭を下げる。
「そうすると、やっぱり物理で殴るしかないわけですが、ゲームのようにHPが少ないとも思えないですね。クリティカルも封じられた状態でどこまでいけるかな」
真白さんが腕組みして唸る。
ふたりとも真人くんのねこみみはスルーしている。
「……いや、真人くん、あの、ちょっと聞きたいんだけど?」
「なんですか?」
「その、おみみは」
思わず指差すと、真人くんのおみみがぴこんとはねた。
「あ、ニャアちゃんですよ? あれ、話しませんでしたっけ?」
「なんと?」
「姉の真白とちがって僕はもともと帰宅部ですしあまり戦闘は得意じゃないんですよね。ニャアちゃんの憑依のおかげで戦えているようなものです。あ、影にもぐったりとかもニャアちゃんです」
光弾の嵐から逃げられたのもニャアちゃんの能力なのか。
「どうもこの世界では人間種族しかアーティファクト使えないらしいんですよね。だから体のベースは僕で、戦闘技術はニャアちゃんな感じで」
「ほへー」
ねこみみすごい。みぃちゃんもなんかそういうのあるんだろうか。
「話し込んでないで、どうするのさっ? たろーくん」
そこへ寧子さんが割り込んできた。
「向こうが手を出してこないなら、逃げるのもありじゃないかなっ? 経験値がっぽがっぽーは惜しいけどさっ?!」
「いや、そもそも経験値とかってシステムあるんですか……?」
レベル表記とかあのへんは、あくまでもうちのちみっこたちが便宜上雰囲気で表示してるだけで実際にはそういうシステムは無いって話だったとおもうんだが。
「ないよ? どっちかってゆーと、スキル制のシステムかな? 経験を積むとスキルレベルが上がっていくタイプに近いよ」
「じゃ、無理に倒す必要もないですね」
動かないようだし、倒す手段も思いつかない。ここは放置して次の部屋に行くのもありだろう。そう思ったとき、不意に脳裏に声が響いた。
『待たせてわるかったのう』
ソディアではない。これは、あのスライムかっ?
『内部の再構築に時間がかかったわ。さて、続きをやろうかの?』
「みんな、気をつけろ! 来るぞ!」
とっさに光の盾を再起動する。
その表面に、鋭くとがった槍のようなものが突き刺さっていた。銀色のスライムから伸びた銀色の槍。
「むー、メタキンなら体当たり攻撃してほしかったなっ!」
寧子さんが不満の声を上げるがそれどころじゃない。ノーマル状態の時にはそれほど素早くなかった触手のような攻撃が、まるでトゲでも射出するようなスピードになっている。
今のは一本だけだったが、何本もいっぺんに来るとまずい。
「硬いくせに触手伸ばしてくるとか、非常識ですね」
真白さんが長剣を振り下ろして銀色の槍を切り払おうとした。しかし、キンと高い金属音がするだけで切り飛ばすことは叶わなかった。
『さて、死ぬでないぞ?』
不気味なつぶやきが聞こえた瞬間、背筋がぞっとした。
「みんな、気をつけろ!」
前にでようとした寧子さんのベルトをつかんで光の盾の効果範囲に引きずり込む。
みると、銀色のスライムの表面にいくつもの亀裂が現れていた。
亀裂……? いや、あれは。
まるでこちらをあざ笑うかのような。三日月のような。
「あれ、全部、口なのか?」
「……まさか、スライムが、魔法を?」
シルヴィが驚きの声をあげた。
『万雷の魔法を喰らうがよい』
――紫電が部屋の中を荒れ狂った。




