まずは酒場でいっぱい その1
第二話えぴろーぐの途中の話になります。
どらごんりあちゃんと、すらいむすらちゃんのお話。
「冒険者ギルド? なんだそれは?」
まおちゃん達に会った、次の週末。現地のルラレラ世界においては翌日のこと。
ロアやみぃちゃんと別れたあと、神殿のリアちゃんやすらちゃんを訪ね、いろいろ話をしている最中のことだった。懸念事項だったまおちゃんとの時間ズレ問題がすらちゃんに尋ねることであっさり解決してしまったので、予定通りリアちゃんに街の案内でもしてもらおうかという話になったのだが。
街をうろつくにも軍資金が必要だし、手っ取り早く現地のお金を手に入れる手段として、こういう異世界モノでよくありがちな冒険者ギルドとかないの?とリアちゃんに尋ねたところ、思いっきり首を傾げられてしまったのだった。
「……え、無いの?」
思わず声を上げると、リアちゃんは小さく口を開けて信じられないものを見るような眼差しで俺を見上げたあと、
「そんなふざけたものがあるわけが……!」
言いかけて、それから小さく首をぷるぷると左右に振った。
「……申し訳ない、勇者タロウ殿。あなたが異世界よりの来訪者であることを忘れ、自己の狭量な思い込みでまた不快な思いをさせるところだった」
以前、俺やルラレラを馬鹿にしてて、逆にやり込められたことで反省したのか、リアちゃんは大分協力的になっていた。
「タロウ殿の言われる冒険者とは、冒険者ギルドとはどういったものか教えていただけないだろうか?」
「ああ、うん。そんなかしこまらなくてもいいよ」
俺は苦笑して、おもわずリアちゃんの頭をなでた。なんかこの子は態度変わり過ぎだと思う。
あんな勝負がみとめられるかー、とか、やりなおしをようきゅうするー!とか、そういう風にならないのは、根がとても素直だからに違いない。
まおちゃんが居ないから、適当に相手されるかもとか思っていたのだが、ずいぶんと協力的になったものだと思う。偶然のかいしんのいちげきで勝ちを拾った者としてはなんだか後ろめたい。
「んー、そうだよなぁ、同じ漢字つかってる中国とかでもまったく意味の違う言葉とかあるからなぁ。俺の言う冒険者とリアちゃんが思う冒険者が違う可能性があるわけだし」
ちなみに何かのニュースで見たのだが、漢字で「挨拶」と書いた場合、中国語では拷問を意味するらしい。「手紙」がトイレットペーパーだったり、「愛人」が奥さんのことだったり、「娘」が母親を意味したりとか、同じ世界の文字を使っていてこれなのだから、異世界ならなおさらだ。
「俺が言う冒険者っていうのは、基本的には何でも屋だな。依頼を受けて魔物を討伐したり、薬草をとってきたりとか、あと迷宮探索をしたりとか。冒険者ギルドっていうのは、そういう冒険者達の相互扶助組織のようなもので、依頼のとりまとめとかやってるようなとこだ」
「……」
俺がうろ覚えで大体のイメージで言うと、リアちゃんは困惑気に口をへの字にする。
「迷宮探索が主な場合は、冒険者って名前でなくて探索者とか言われることもあるな。そういったものってこの街にないのか?」
「……勇者タロウ殿。気分を害さないで欲しいのだが」
リアちゃんが、ためらいがちに口を開いた。
「こちらで一般的に冒険者と言った場合、ごろつき、チンピラ、食い詰め者、ならず者、などといった者達と同列に語られる存在だ。ある意味で、街の外では強盗や追いはぎをしているものが、街の中でだけ名乗る立場だといっても良い」
「……は?」
ナニソレ。
「故無く武装し、あまつさえその力を振るう事に禁忌を持たない最底辺の者たちのことだ。貴重な遺跡を荒し、墓を盗掘し、希少な動植物を絶滅に追いやる、人間のクズどものことだ。そういった者達のためにギルドなど、そんなものがこの街にあるはずもない!」
「……うわー。イメージ悪すぎ」
うむー、よくある薬草採取クエとかで手軽に小銭を稼げないかと思ったが、これは望み薄だ。
「……というか、冒険者ってそんな悪い立場なの? 勇者は大丈夫なんだろうな」
ため息を吐いていると、服の袖をちょいちょいと引っ張られた。
「おにいちゃんはだいじょうぶなの!」
「だいじょうぶ、ゆーしゃはそんなにいめーじわるくないの!」
「ああうん、慰めてくれてありがとう」
ちみっこどもの頭をなでなでする。
「んー。冒険のしようがないなこれは。だいたいこういうのって、最初は冒険者ギルドとかで小さな依頼をこなしていって、だんだん大きな事件に巻き込まれていくっていうのがセオリーなんだが」
思わずつぶやく。と、リアちゃんがちいさく手のひらを俺の前に突き出して「待った」のポーズをとった。
「勇者タロウ殿、話は最後まで聞いて欲しい。目的が日銭を稼ぐことであれば、冒険者ギルドなどというふざけた名前ではないが、そういった依頼を斡旋する場所はいくつかあるにはあるのだ」
「おー。詳しく教えてくれる?」
「まず、今居るメラ様の神殿。ここのようなある程度大きな神殿、あるいは教会などでは、貧しいものを救済するために簡単な日雇いの依頼を募集することがある。もっとも目的が目的なので、できれば勇者タロウ殿にそのようなことをしてもらいたくはない」
「ふむ」
確かにこういうとこの仕事横取りしちゃうのはまずいかな?
病気やケガなどで満足に働けない人たちや、親をなくした子供達など、本当に困っている人たちに対する施しのようなものなのだろう。そういう仕事を俺がやってしまうのは確かに恥知らずだ。
「次に、国や街で運営している職業案内所にも日雇いの仕事が紹介されていることがある。ただしこちらは基本的に就職の手助けが目的であるし、定職を求めていないタロウ殿にはあまりそぐわないかもしれない」
「ふむー」
つまりハローワークみたいなもんか?
「そして、タロウ殿のいわれた冒険者ギルドに一番近いと思われるものが、酒場だ」
「酒場?」
「人が集まる場所には、情報も集まる。ここのようなある程度大きな街では、そういった場所が取りまとめ役となって、個人的な依頼ごとを仲介する場所になっていることが多い」
「ふーん……じゃ、そこ案内してくれるか?」
「だから、話は最後まで聞いて欲しい」
リアちゃんがまた「待て」のポーズで歩き出そうとした俺を止める。
「ん」
「さきほどタロウ殿は、魔物討伐の依頼や、薬草採取の依頼といったものを例にあげたが、酒場でそういった依頼が扱われることはほとんどない」
「え?」
「酒場で取り扱われる依頼は、ほとんどが個人によるものだ。危険な魔物を退治するのは国や街の仕事であるから、わざわざ自腹をはらって依頼するような者はいない。また、法的にも札付きの魔物や犯罪者に賞金をかけることが出来るのは国や街だけだ」
「うは」
魔物退治で小銭稼ぎって定番じゃん。それが無いって。
「薬草採取などは薬剤師ギルドや魔術士ギルドの領分であるし、ずぶのシロウトが取りにいけるようなシロモノに金を出す馬鹿はいない。そういう仕事はそういう物を扱う職人の弟子などが経験を積むために行う物だ」
「ぬは」
……なんか各方面にケンカ売ってる気がしてきたっ!
異世界モノの定番全否定かい。
「毛皮とか、骨とか、魔物の素材なんかは……?」
「そういったものは狩人ギルドの領分であるし、個人で必要とするものなどほとんど居ない。狩人ギルドが動植物の生態系などを考えて管理を行っているから、昼飯用に狩るくらいならともかく、素材を売るために勝手に乱獲など行うのは法に触れる。それを己の利益のためにやってしまうから、冒険者を名乗る者どもはクズと呼ばれるのだ」
「……うはー。じゃ、酒場の依頼って結局どんなのがあるんだ?」
ため息を吐いて尋ねると、リアちゃんは小さく肩をすくめた。
「主に雑用だ。何か情報を求めたり、尋ね人の張り紙などもあったりするが」
「そうですか……」
なんか売れない探偵みたいだな。迷い猫さがしとか、浮気調査とか。
「この街は川を隔てて東と西に分かれている。そういった依頼をまとめている酒場は東西にそれぞれひとつづつある。私がなじみのあるのは東の方だが、そこでよいか?」
「ああ、うん。オネガイシマス」
ため息を吐いて、うなずいた。
ん、しかし、見た目幼女なリアちゃんが酒場になじみがあるって……実は結構年取ってるのか?
疑問に思ったが、口に出して機嫌を損ねるような馬鹿なことはしなかった。
「けっこうおしゃれな感じ?」
リアちゃんに案内されてたどり着いたのは、微妙に小洒落た感じの割と大きい酒場だった。魔法玉というのか、なんかぴかぴか光る小さな玉でいっぱい飾り付けられていて、昼間だと言うのにネオンサインのように光っている。
「昼過ぎだから、今の時間は定食などを出している。結構うまいぞ」
おおそうか。酒場だからって酒しか出さないわけでもないだろう。リアちゃんがなじみというのは主に食事に利用していたということなのだろう。
「ん、じゃ昼飯食っていくかー、って金が無いんだよな」
「問題ない。勇者様の冒険の足しにと神殿から多少の金を預かっているし、以前迷惑をかけたお詫びに、ここは私におごらせて欲しい」
リアちゃんが言うので、お言葉に甘えることにした。見た目幼い少女に奢って貰うと言うのもなんだかみっともない気がしないでもなかったが、ない袖は振れない。
「じゅーすをしょもうするのー」
「おれんじがいいのー」
ちみっこどもがわーいとばかりに両手を上げる。酒場行くから神殿で大人しくしとけ、って言ったのに着いてきたんだよなこいつら。
置いてきぼりを嫌がったリーアも俺の背中に居る。最初は俺に捕まって歩いていたのだが、やはりまだ歩くのは大変なようですぐに俺が背負うことになったのだった。
そして。
「……何か私の顔についていますか?」
スライムのすらちゃんまでが付いてきていた。
「いや」
「正直、私の立場って微妙なんですよ」
「え、神殿で面倒みてくれてるんだろ?」
「私、知識は魔王ちゃん様のものですから、認識としては一人異世界に取り残されたって感じでしたよ……昨日は。もちろん立場をわきまえていますから、不満があるわけではないのですが」
「あー、それはすまなかった」
そっか。意識というか性格は結構まおちゃんと違う所があるようだけれど、知識とか、もしかしたら記憶までもまおちゃんと同じであるならば、たった一人面識のほとんどない人たちの間にたった一人で残されたというのはとても寂しかったに違いなかった。
「それにもともとがスライムですからね、神殿の皆様方の中には、こう、奇異の目で見る方がいらっしゃらなくもないわけで。正直肩身が狭いのですね」
「重ねてすまん」
「しかし魔王ちゃん様の所に押しかけるのも迷惑ですしね……。こちらで自活する方法を模索しようかと」
「ああ、すらちゃんも酒場の依頼ってやつに興味があったのか」
「ええ、まあ」
なぜか曖昧にうなずくすらちゃん。
しかし、すらちゃんも人型のときは大分幼い容姿だし、仕事とか出来るんだろうか。
「勇者タロウ殿、すらりん殿、そんな所で突っ立ってないで早く店に入ろう」
「じゅーすなのー!」
「おれんじなのー!」
「あーもう、わかったから騒ぐなよ」
リアちゃんとジュースを連呼するちみっこどもに促されて、俺達は薄暗い店内に足を踏み入れた。
冒険者って冷静に考えると職業ですらないような気がする……。
それを成り立たせる手法とか設定を考えるのが王道パターンでの腕の見せ所なのでしょうけれど。ひねくれ者が自縄自縛して自爆中です。
定番ナニソレ美味しいの?
(AA略)
良い子の諸君!
よく頭のおかしいライターやクリエイター気取りのバカが
誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが
大抵それは「先人が思いついたけどあえてやらなかった」ことだ
王道が何故面白いか理解できない人間に面白い話は
作れないぞ!
……うるさいよ四次元殺法コンビ!
どんどん書くのが遅くなってる気がする……。ひとつで書きたかったけれどこれ以上更新遅らせるのもアレなので、書いて出しということで。