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週末は異世界で~俺的伝説の作り方~  作者: 三毛猫
第二話「異世界を歩こう」
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ぷろろーぐ

「……ってゆーかさ、見渡す限りの草ばっかで全然異世界を旅してる気にならんっ!」

 二度目の週末、都合四度目の異世界旅行。

 何度も降り立った見渡す限りの草原を、もう一度ぐるりと見回しながら俺は叫んだ。

「街とかないのかっ!? 異国情緒あふれる町並みとか、いかにも異世界っぽい建物とかアイテムとか、ねこみみちゃんは見たしなでなでしたけど他の異種族とかにも会ってみたいっ!」

 うがーと叫んだらちょっとすっきりした。

 周りのみんながちょっと呆れた顔をしているが、気にしない。変にストレスを溜めるより叫んだ方がすっきりする。

「ロアさんたちもこの草原歩いてたってことは、どこかへ向かう途中だったんでしょう? どこ行く予定だったんですか?」

 服の上から鎧を装着中のロアさんに尋ねると、なぜかみぃちゃんに軽く背中を引っかかれた。

 ちょっと痛い。

「たろー、うるさいです」

 みぃちゃんがお耳をへにゃりとさせて口をとがらせている。その大きなお耳はやっぱり良く聞こえるようで、近くで俺が大声で叫んだのが不快だったらしい。

「ああ、ごめんねみぃちゃん。って……う」

 謝って頭をなでようとしたら、のどもとに爪を突きつけられて息が詰まる。

「なでるのは一回だけだと言ったです」

 ぴこん、ぴこんとねこみみを上げ下げしながらみぃちゃんが爪を引っ込めた。そのまま背を向けてぽすんと俺に寄りかかってくる。

 お耳をぴこぴこしながらそんなことをされると、胸の辺りがくすぐったい。

 なでるのはダメというくせに、割と積極的にお耳でスキンシップを図って来るみぃちゃんはちょっとかわいい。

「……やっぱりちょんぎろう」

 ロアさんが何か不穏なことを言った気がしたけど聞こえなかったことにする。

「まちはここからあと四日ほど歩いた所にあるのー」

「ここはそうげんのどまんなかなのー」

 ルラとレラが、何が楽しいのか両手を上げて俺の周りを駆け回る。

 時速四キロで一日に八から十時間くらい歩いたとして……百二十六から百六十キロ。車で走ってもニ、三時間かかる距離。適当計算でもずいぶん辺鄙な場所なようだ。

「なんか魔法でぱぱっと移動したりとか、なんかないのか?」

 ちみっこどもに尋ねると、にやあと笑って首を横に振った。

「めがみにふかのうはないのー」

「でもわたしたちが何かしたら、それは勇者たろーのぼうけんじゃないのー」

 つまり出来るけどやらないってか。確かに安易にちみっこの手を借りるのはよろしくないだろう。

「ロアさんとか、みぃちゃんは……ってこんなとこ歩いてたわけだからそんな手段はあるわけないか」

「いや、無くもないけど一人用だしね。みぃちゃんと二人だけだったらあたしが背負って移動できたんだけど。流石にこの人数を一気に移動できる手段は無いかな」

 それじゃ、なんでこんなことろでうろうろしてたんだろうと思って、それから初めてみぃちゃんに出会ったときお腹を壊していたのを思い出した。みぃちゃんがおトイレするためにこんなところで止まっていたんだろう。

「あと、あたしとみぃちゃんもこの世界は初めてだから地図とかも無いし、まだ適当にぶらついてた段階なのよ」

 鎧を着け終わったロアが剣帯を腰に回しながら笑う。

「そうなんですか。じゃ、とりあえず修行しながらのんびり街を目指すという方向でいいんですかね……」

「そうね、まかせるわ」

 ロアとみぃちゃんがうなずいたので、街の方角くらい尋ねてもいいんだろうと、ちみっこどもに聞くと、「あっちなのー」「ずっとむこうなのー」と反対方向を同時に指しやがった。リュックから方位磁針を取り出して確認すると、丁度真東と真西で逆方向だ。

「そうげんのどまんなかだからー」

「あっちとこっちに街があるー」

 ……そうですか。

 俺はちょっと考えて、この間双子にもらったひのきのぼうを地面に突き立てて指で押さえる。「えい」と指を離すと、ひのきのぼうは北東の方角に倒れた。

「……じゃ、こっちで」

 ぼうが倒れた方向を指差すと、なぜか双子が両頬に手をあてて「わお」「あら」と驚いた顔をした。

「すごいわ、おにいちゃん」

「さすがだわ、おにいちゃん」

「(ひそひそ)ぐうぜんでもほんとうの使い方をしてしまうなんてすごいの」

「(ひそひそ)ほんのーにちゅーじつなおにいちゃんなの」

「……?」

 なんで驚かれるのかわからなかったがとりあえず方針は決まったので荷物をまとめて背負う。

「じゃ、いきましょう」

 ロアから再び破魔の剣ソディアを借り受け、腰に差す。

「こんなことに使って悪いな……」

 剣で足元の草をなぎ払いながら歩き始めると、

”主の役に立ってこその剣。いかようにもお使い下され”

 頭の中に声が響いた。

「……そうだ、ロアさん。聞きそびれていたんですけど、この剣喋りますよね?」

「あー、もしかしたらと思ってたけど、ほんとにタローってば勇者の素質あったんだ……?」

 尋ねるとロアさんが、小さく笑った。

「その剣はね、あたしとみぃちゃんが前いた世界のアーティファクトって呼ばれる武具のひとつよ。前いた世界だと、基本的にはアーティファクトを使いこなせる人間のことを勇者と言うの。おめでとう、タロー。ソディアに認められたみたいね?」

「……それは武具に意思があって、その意思に認められたものがその武具を使いこなす資格を得られて、そういう武具に認められた人たちが勇者と呼ばれる、という解釈でいいですか?」

「あら、理解が早いのね。そういうことよ。んー、割と思い入れのある武器だからタローにあげるつもりはなかったんだけどねぇ」

 ロアさんが、手を出したので破魔の剣を鞘に収めて柄の方を差し出す。

「……ソディアはどうする?」

 ロアさんがそっと柄をなでた瞬間に、剣が消えた。

”……我は”

 そのかわりに、ロアさんの側に腰まで伸ばした長い銀色の髪の、青い飾り気のないドレスを来た二十歳ほどの女性が立っていた。すらりとしたその細身の身体は先ほどまで手にしていた破魔の剣を思い起こされる。静かな落ち着いた雰囲気で、それでいてどこか一本張り詰めたように筋が通っている。かわいい、美しいと言うより、凛々しいという感じ。自然体でありながら隙がないというか、何か古武道の有段者のような。威圧されるわけではないがどこか強者の雰囲気をまとっている。

「は……?」

 これはあれですか、人の姿を取れるマジックアイテムってやつですか、やだ異世界っぽい!

”……これ、そうじろじろと女をねめつけるように見るものではないぞ、仮の主よ”

「え、すみません。でも、あなたはソディアさん、でいいのでしょうか?」

”うむ……。まさか仮の主殿に我の言葉が通じているとはおもわなんだが。我が破魔の剣である剣姫けんきソディアだ”

「ああ、どうも鈴里太郎です」

 改めて自己紹介をする。

「うん、で、ソディアはどうする? ……その気があるならタローの物になってもいいよ」

 ロアがソディアの髪をそっとなでながら、囁くように言った。

”タロー殿は今はまだ我を振るうには力不足”

 銀の剣姫ソディアは首を小さく横に振った。

”しかし我の声を聞くことが出来る者が数少ないのも事実。そして既に我がグランドマスターの剣として力不足であるのも事実。であるならば、仮の主としてタロー殿に仕えるのは、こちらとしても望む所”

「ん、了解。じゃ、もうしばらくは今まで通りタローに貸してあげる」

 ロアはもう一度ソディアの髪をなでた。するとソディアの姿が掻き消え、その手に再び銀の長剣が現れた。

「あたしとみぃちゃんも目的があってこの世界に来ているから、いつまでもタローと一緒に居るわけにはいかない。それなりに戦える様になったらたぶん別行動すると思うけれど、その時にソディアにはもう一度聞くね」

”心得た”

「……えーっと、よろしくお願いします、ソディアさん」

 ロアに渡された破魔の剣の柄を握りながら。

 俺は、この柄の部分って人間形態の時どの部分にあたるんだろうか、とか全然関係ないことを考えていた……。

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