1、「伝説の破壊神現るっ?!」
「わははー、それすっぱすっぱっと」
先頭に立ち、修行代わりに草をなぎ払いながらのんびり歩く。
破魔の剣ソディアは流石に切れ味が良く、面白いように道を切り開いてゆく。
俺やロアだと腰の高さくらいだが、ルラやレラだと胸の辺りくらいか下手をすると顔にかかるくらいの長さなのでちょっと危ないのだ。俺がばっさばっさと草をなぎ払い、すぐ後ろをみぃちゃんが草を踏みしめるようにして続き、その後ろにルラ、レラ、殿はロアだ。
”仮の主よ、気をつけないと足を切るぞ? それと時折ある岩に気をつけよ”
「ん、気をつける」
ってうお。やば。
ガチンと音がして剣が岩にあたって跳ね返される。
”言ったそばからこれだ。あとでちゃんと磨いてくれると嬉しい”
「すまないな、ソディア」
これまでは俺が話しかけたときにだけ相槌を打つように返してくれていただけだったのに、俺と意思疎通できることを知ったソディアは積極的に自分から話しかけてくれるようになっていた。
なんか剣は友達というか、相棒って感じですごく良い。
「(ひそひそ)まわりにはきこえないから、ただのあやしいひとりごと言う人だって気がついてないの」
「(ひそひそ)仮に聞こえてても、けっきょくはぶきにはなしかけてる変態さんなの」
うしろからちみっこどもの囁きが聞こえてくるが、聞こえなかったことにする。
だって、割と憧れのシチュエージョンだよなっ! 喋る道具とか乗り物とかってさ。俺の力ではまだ無理だけど、人型にだって変身しちゃうんだぞ。
燃えるし萌えるよな。だから、ちょっとくらい周りから怪しい目で見られたって平気だもん。平気なんだもん。
「しかし……道もないのかこの草原は」
歩き難いことこの上ない。
「ここは街道からずいぶんはずれてるのー」
「ちゃんとした道にでたいなら、南の方にいくのー」
ちみっこたちが声を上げる。
「いや北東の方行くってきめちゃったからなぁ……」
今から方針を変えるのもなんだかいやだ。
「……なんなら道を作るです?」
うしろのみぃちゃんが、俺の服の裾を引いた。
「ん? どういうこと?」
足を止めて振り返ると、みぃちゃんがお耳をぴこんと立てた。
「たろーが修行するというから黙ってたですが、草をなぎ払って道を作るだけなら魔法でやっちゃうです」
「え、みぃちゃん魔法使えるんだ! うわ、見たい。ぜひ見たいです!」
おおお、掲示板で勇者候補生のところのねこみみたんが魔法使えるとか書いてあったし、みぃちゃんももしかしたらと思ってたんだけど、やっぱり、魔法、使えるんだ?!
「んー、あたしとしてはタローには修行がてら草なぎ払ってもらいたいとこだけどね」
ロアが反対の声を上げる。
「あ、じゃあ修行は修行でやるので、魔法見せてくださいよ! っていうか勇者の修行って剣だけなんですか? 魔法とかは教えてくれないんですか?」
俺がぶーたれると、ロアが何やら考え込むようにして腕を組んだ。
「……タローはたぶん、あたしらが使うような魔法は使えないんじゃないかな。いや、使える可能性も無くはないけど」
「……そのへんどうなの?」
ちみっこどもに尋ねると、ルラとレラはロアと同じように腕組みして考え込んだ。
「おにいちゃんがまほうを使えるようにすることはかのうだと思う」
「でも、わたしたちがおにいちゃんに手を加えないじょうたいで、まほうを使えるかはわからないわ」
「つまり、女神パワーを使うと反則だからやらない、素の状態だと魔法使えるようになるかは不明ということでおっけー?」
俺のまとめにちみっこどもがうなずいた。
何度か聞いた話だが、この世界に居る俺は現実世界の俺とまったく同じスペックなのだそうだ。つまり、現実の俺が魔法を使えるならこの世界でも魔法が使えるが、そうでないならたぶん魔法を使うことが出来ないだろう、ということらしい。
「……剣と魔法の世界と銘打ちながら魔法が使えないとかなんと理不尽なっ!」
「まぁ、あとで魔法の修行とかも始めてみる? あたしそっち方向も大丈夫よ?」
ロアさんが慰めるように言ってくれるが、おそらく無駄な気がしてきた。
それより。
「……魔法も出来るって、ロアさんって剣士じゃないんですか?」
疑問を投げるとロアは意地悪い笑みを浮かべた。
「あ、鎧と剣でそう思っちゃった? 今のロアであるあたしはどっちかっていうと魔法に極振りした状態なんだけどね、世界を渡る必要があったから」
どこからどう見ても剣士とか戦士とかそっち系なんですが。そういえば見た目で女剣士と思っていたけれど、ロア自身からは何が得意だとか何が出来るとか一切聞いた覚えが無い。
「へぇー。じゃ、魔法見せてもらえませんか?」
「いいけど……ちょっと待ってね。今のあたしが魔法使うと、たぶん大陸ふっとぶクラスだから」
「は?」
「……だからロアさんは破壊神だなんて一部で呼ばれてるです」
みぃちゃんから不穏なツッコミが入る。
瞬きをする間に、ロアの気配が変わった。
「……んー、久しぶりね」
「あれ? ロアさんなんか縮みました?」
さっきまでのロアが大学生なりたてくらいだとするなら、今のロアは中学を卒業したばかりというか、三つか四つは若返った感じ。
「はじめまして、タローくん。この状態のあたしはロナよ。物理系に極振りした状態だと思えばいいかな」
「……あんた変身とかするんですかっ?!」
「あたしは別にネラ様みたいな魔法少女じゃないので変身はしないよ?」
「……ネラ様ってだれだ?」
「勇者こうほせいたちの、めがみのひとりなの!」
「黒神ネラさんなの!」
どうでもいいつぶやきにちみっこどもが答えてくれる。
「そういえば、ロアさんたちって勇者候補生が行ってる世界から来たんでしたっけ?」
寧子さんのお姉さんのサラさんの娘さん、ルラレラから見たら従姉にあたるセラという女神が創った世界にロアとみぃちゃんはいたらしい。
「世界が統合される前の話だから、正確にはその世界のひとつ、”黄昏のかけら”って呼ばれてるところに居たわよ。灰神イラ様が治めてたとこね」
ロナと名乗ったロアさんがなんだか複雑な表情で言う。
「おお、黄昏のかけらとかなんだか中二っぽくていいですね! そういやこの世界ってなんか名前とかないのか?」
お前らの世界なんだろう、とちみっこに尋ねるとちみっこどもは、やれやれといった感じでそろって肩をすくめた。
「おにいちゃん、おにいちゃんのセカイに名前とかある?」
「地球っていうのは大地の意味だからね? セカイそのもののなまえじゃないの!」
「ふつうセカイはふたつもみっつもない」
「だから自分の世界を表す言葉はセカイだけで足りているの」
「セラおねえちゃんのところは、世界がみっつになっちゃったから」
「それぞれなまえがついているってわけ」
……いや中二病っぽく、この世界にもヴァナ・ディールだとかイヴァリースだとかエオルゼアとかアストルティアとかなんかそれっぽい名前がついてるのを期待したんだが。
「じゃ、めんどいからルラレラ世界で決まりな? 現実世界の方はそのまま現実世界か、嫌だけどララ世界って呼ぶかなぁ」
「セカイになまえをつけるだなんて、めがみを恐れぬだいそれたこういなのー」
「さすがおにいちゃん、ひとにできないことをやってのけるッ! そこにしびれるあこがれる~ッなの!」
「ああ、はいはい落ち着けおまえら」
ちみっこどもの頭をなでてやる。
「……なんだかいろいろ話が脱線しすぎだと思うです。結局どうするです? 私が魔法するです? ロナさんが魔法するです?」
おおう、そうだった。魔法見せてもらおうって話だったのにどこまで脱線してるんだか。
「ごめんな、変身までしてもらったし、とりあえずロアさんにやってもらおうかな……」
みぃちゃんの頭もなでようとしたら、やっぱり爪をのどもとに突きつけられた。
「わかったです」
「今のあたしはロアじゃなくてロナよ。変身してるわけじゃないんだけどなぁ……。ゲームとかやってるタローにわかりやすく言うと、中の人は同じでアバター変えてるイメージなんだけど」
自分はロナであると俺の言葉を訂正したロアが、がさがさと草を掻き分けて俺の前に立った。
「今のわたしは物理に極振りに近いから、魔法はあまり得意じゃないのよ」
ちらりとこちらを振り返って、すっと右手を前方に突き出す。
「というか、ロアのときもそうなんだけど細かい制御ってやつが苦手なのよね」
何か言葉に出来ないものが、伸ばされたその手の先に集まっているように感じられた。
「でもって、あたし広域破壊魔法しか使えないから」
なんだかびりびりと大気が震えだした気がする。いったい、何が起ころうとしているのだろう。
「剣だと斬撃を飛ばすにしたってどうしても多数相手にはたかがしれてるから、大軍相手にするために覚えたのよね、魔法。だから、あんまり参考にはならないと思うけどね」
別に何か光ったりしてるわけじゃないのに、確かにそこに何らかの恐ろしい力が凝縮されているのが感じられて、ちょっと怖い。
「んじゃ、いくよー、精霊核融合」
ロナが右手の先に集まった何かを、そっと前方に押しやるように突き出した。
その瞬間。その何かがものすごいスピードで前方に飛んでいったのが感じられた。
「はいはい、全員対衝撃よ~い。はなれちゃだめだよー」
ロナの鎧の両肩の肩当てから三本の棒状の何かがじゃきんと伸びた。そのまま下方向に二本、上方向に一本が向き、頂点が三角形を形作る。ロナの両肩の肩当てが浮き上がり、左右に作り出された三角の面を前方に突き出すと、何か光で出来た半球状のバリアのようなものが生み出された。
「……さ~ん、に~い、い~ち」
ずっと前方で、音も無く小さな光がぽっと灯り。
轟音と共に凄まじい勢いでその光が半球状に広がった。
「……っ!!」
叫ぶ声が轟音にかき消される。驚きのあまり飛び退ろうとした所を背中から誰かに押さえつけられた。衝撃波はロナが前方に張ったバリアのようなもので防いでいるようだが、ほんの数メートル離れた地点は地面がえぐれるようにして消滅してゆく。白い光に包まれて前方は何が何やらさっぱりわからない。
数分に思われたが、実際にはほんの数秒の出来事だったらしい。
「……あなたどこの破壊神ですかっ!!」
「んー、これでも手加減したんだけど?」
――俺たちの足元のわずかばかりの地面を残して、見渡す限りの草原は見渡す限りのクレーターになっていた。




