第4話
その日は結局、高崎駅前のビジネスホテルに泊まることにした。
朝になれば元に戻っている。
昨夜の出来事は疲れから見た悪い夢だった。
そんな都合のいい期待を抱いて眠りについたが、目を覚ました瞬間、その希望はあっさり打ち砕かれた。
ホテルの窓から見える景色は、昨日と変わらない群馬の街並みだった。
俺は早々にチェックアウトすると、その足で県庁のある前橋へと向かった。
頭の中で昨日からずっと引っ掛かっていたことを確認するためだ。
――群馬パスポート。
もうそれしか思い当たる理由がない。
「本日はどういったご用件でしょうか」
作り笑いを浮かべる受付の職員に、俺は少しためらいながら口を開いた。
「あの……群馬パスポートを発行してほしいんです!」
職員は一瞬動きを止めて、俺の顔を怪訝そうに見つめる。
やがて何かを悟ったように切り出した。
「申し訳ありません。現在、群馬パスポートの新規発行は行っておりません」
その言葉に俺は頭の中が真っ白になる。
「……え?」
「ですから、現在、群馬パスポートの新規発行は行っておりません」
冷たい事務的な言葉を繰り返すだけだった。
「いや、でも……それがないと帰れないんです!」
思わず声が大きくなり、周囲の視線が一斉にこちらへ向いた。
しかし職員は表情一つ変えない。
「申し訳ありません」
それ以上、何も答えようとはしなかった。
俺は受付を離れ、県庁のロビーにある長椅子へ腰を下ろした。
意味が分からない。
群馬パスポートは確かに存在する。
だけど新しく発行することはできない。
じゃあ俺はどうすればいいんだ……。
スマホを取り出して検索してみる。
『群馬パスポート 新規発行』
『群馬パスポート 帰れない』
『群馬県 出られない』
どれだけ検索しても、それらしい情報は見つからなかった。
窓の外に目をやると、何の変哲も無い日常の風景が広がっている。
でもこの世界に俺だけ取り残されたような錯覚を覚えた。
俺はポケットからスマホを取り出してXを開く。
とりあえず何かポストしようとするが何も思いつかない。
結局、入力したのは一行だけだった。
#群馬から出られない
投稿ボタンを押す。
画面には「ポストを送信しました」の文字が表示された。
【編集者注】
当該アカウントは最初に確認した時から現在に至るまで更新が続いている。最新のポストも 「#群馬から出られない」の一文のみだった。




