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終末の血族  作者: 天津千里
9章:交錯のウルファリア
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第72話 交錯のウルファリアVIII

【帝国紀元1799年11月10日 13:00】

【ビレクトゥス・城館執務室】


 ビレクトゥス攻略からおよそ一週間後、ユリアはウルファリアからビレクトゥスまでの鉄道修理を終えたセルギウス旅団長を迎えていた。


「……以上がビレクトゥスの現状になります」


 ユリアが報告書を閉じる。


「ありがとうございます。上層部は壊滅的、ですか……」


 セルギウスが沈痛な面持ちで頷いた。


「はい。現在、現地の行政官経験者などを探していますが、上層部となるとなかなか……」

「仕方ありません。しかし、南部方面軍ですか……。南部方面軍の総司令クレメンス大将はたしかに情報戦や謀略が得意な方ですが、その忠誠心は本物です。このような密命を出すようには思えません」

「そもそも味方を攻撃しておきながら、南部方面軍と名乗るのも不自然です」


 ユリアが疑問を口にする。


「そうですね。都市国家群の傭兵団などを名乗るほうが自然ですね。攻撃を回避するためという割にはお粗末な気がします」

「本当に密命などあったのでしょうか?」

「……完全に否定はできませんが……南部方面軍と連絡がとれず、物証もない以上、今は反乱軍として扱うしかないでしょう。彼らのことは今後の調査次第となるでしょう」

「承知しました」


 セルギウスが姿勢を正した。


「今後のことを話しましょう。ここ、ビレクトゥスの治安維持は旅団で引き継ぎましょう。ウルファリアからの行政官もそろそろ派遣できると聞いています」

「安心しました」

「ユリア大隊は予定通り、アダリウムまでの道の確保をお願いします。次の合流予定地はガゼリウム。我々もすぐに向かいます」

「現在、ガゼリウム方向へ偵察を出し、ガゼリウム侯爵軍との接触に成功しています」

「ガゼリウムは健在でしたか。それはよかった。ではよろしくお願いします」

「ハッ」


 ユリアが敬礼する。窓の外では、復興が進むビレクトゥスの街が見えていた。


【帝国紀元1799年11月14日 15:00】

【ガゼリウム侯爵領・領都ガゼリウム郊外】


 ビレクトゥスの統治をセルギウス旅団長へ引き継いだユリアは、部隊をガゼリウムへと向けた。

 ビレクトゥスを発ってから三日目。ガゼリウム侯爵領軍の先導を受けながら、部隊はガゼリウムの見える丘へと到達していた。

 丘の上では少数の騎士が待っていた。

 その中の一騎がゆっくりと馬を進めてくる。そして、部隊の先頭に立つユリアの前へと来ると颯爽と馬から降りてこちらへ歩いてきた。

 騎士が兜を脱ぐと、十六歳ほどの金髪茶目の青年が現れた。


「ようこそガゼリウム侯爵領へ。東部方面軍のセルギウス旅団ユリア大隊の方ですね?」


 青年が爽やかな笑みを浮かべる。


「はい。カラディン辺境伯軍ユリア大隊、大隊長ユリア・コニシです。現在は東部方面軍セルギウス旅団の一員として鉄道修復任務についています。お名前を伺っても?」

「これは失礼しました。このガゼリウムを統治しているアウルス・ガゼリウムと申します。お見知りおきを」


 青年が胸に手を当てて一礼した。


「侯爵閣下でしたか。失礼しました」


 ユリアが改めて礼を返す。


「お気になさらず。歳も近いようですから気楽にしてください。それに、正確にはまだ侯爵ではないので」

「というと?」

「父が急逝しまして。まだ帝都から正式な継承の認可が下りていないのです」


 アウルスの表情が一瞬曇る。


「左様でしたか。帝都からということは、そちらとの連絡は可能なのですか?」

「それにつきましては後で詳細を。ささ、皆さま長旅でお疲れでしょう。野営地へ案内しましょう」

「ありがとうございます」


 アウルスが馬に乗り直し、部隊を先導し始めた。

【同日 17:00】

【ガゼリウム城館応接室】

 ガゼリウム郊外の野営地へ案内されたユリアたちは、そこで野営の準備を始めた。

 部隊の指揮をルシアに任せたユリアは、単身ガゼリウム侯爵との会談に臨む。

 応接室に通されたユリアは、アウルスの到着を待った。応接室からはガゼリウムの街が見え、夕日が落ちるのに合わせて窓から漏れる光が広がり始めていた。

 ユリアが外の景色を眺めているところに、アウルスが入室してきた。


「お待たせしました。改めて歓迎します。ユリア殿」


 アウルスが椅子を勧める。


「ありがとうございます。それで、帝都とのお話を伺っても?」


 ユリアが席に着くと、すぐに本題を切り出した。


「ええ。……先ほどは兵の手前ああ言いましたが、帝都は消滅しています」

「消滅!?」


 ユリアが息を呑む。


「はい。もちろん建物は存在するようです。ですが、生存者は絶望的。陛下も貴族も市民も軍も、その全てが一切連絡がとれません。南部方面軍の艦隊が接近しようとしたようですが、死者……書簡にあった言葉でゾンビでしたか、ゾンビの艦隊に攻撃を受け、手痛い打撃を受けて撤退したようです」


 アウルスの声が沈む。


「そう……ですか……連絡が途絶していると聞いて悪い状況は想像していましたが……」

(消滅とまで言われるとはね……大国の首都でしょう? 一体どれだけの人が……)

「かん口令は敷いていますが、すでに水夫や商人などから噂は広がっているようです。ただ、動揺している暇はないというのが実情でして」

「こちらもゾンビの侵攻が?」

「はい。三月二十四日、帝都との通信途絶と同時に父や重臣たちが急に苦しみだし、ほどなく死亡、そのままゾンビ化して周囲を襲撃しました。城内の混乱は私が軍を率いてなんとか収めたのですが……そこから数日で西のアダリウムと南のアスミノールからゾンビの襲撃を受け、いくつかの村が陥落しました」


 アウルスが拳を握りしめる。


「アダリウムとアスミノール……たしか直轄領の大都市と聞いていますが、それが二つとも?」

「ええ。かなりの避難民がガゼリウムに来ていますが、そこから得た情報だと、軍の中枢や貴族、商人などから大量のゾンビが出て、街は大混乱のうちに陥落したようです」

「……軍人に貴族、商人ですか……意図的に狙われている?」

(でも、それだけの数を同時に? そして、ガゼリウムでは貴族だけ? この差はいったい……)


 ユリアが眉をひそめる。


「その可能性が高いですね。ただ、調査する余裕はなく……現在は西のオスマルクム城塞と南のキリオニア城塞で、二方面からの侵攻を防いでいる状況です」

「二正面ということですか。戦況は?」

「どちらも芳しくありません。軍の指揮系統が回復するまでにかなりの損害を出してしまいました。物資もラティア伯爵が各地から集めて送ってくれていたのですが、そのラティア伯爵とも連絡が途絶してしまいました」

「ラティア伯爵もですか?」

「ええ。ラティア方面に偵察を出したのですが、どうも途中のクルキア子爵領が陥落したようでして、かなりの数のゾンビが徘徊していてそれ以上は……」


 アウルスが苦渋の表情を浮かべた。


「そう、ですか……」


 ユリアが静かに頷く。


「ですが、東部方面軍と連絡がとれたのは朗報です。カラディン軍ということはカラディン辺境伯も健在ということでしょう?」


 アウルスが顔を上げる。


「はい。カラディン辺境伯と東部方面軍のレンクス大将が中心となって、エルズリウムの奪還に成功しました。現在は各方面でゾンビへの対処を行っています」

「それを聞いて安心しました。鉄道修復任務……でしたか。鉄道が回復すれば戦況も改善するでしょう」

「現在、ビレクトゥスまで修復が進んでいるので、もう間もなくガゼリウムまで到着すると思われます。ただ、最終目的地であったアダリウムは厳しそうですね」

「アダリウムですか……。そうですね。奪還の目途もたっていませんし……」


 アウルスが考え込む様子を見せた後、顔を上げた。


「そうだ、カラディン辺境伯に増援をお願いできないでしょうか?」

「確約はできませんが……要請でしたら」

「それで十分です。もし可能であればラティア伯爵との連絡線の確保をお願いしたいのです」

「なるほど……分かりました。兵力はいかほど?」

「クルキア平原は偵察の結果四万ほどのゾンビが点在しているようですので、総勢一万は必要だと思います。こちらで数個大隊はねん出しますので、辺境伯から数個大隊増援をいただけると、奪還が可能だと考えています」

「分かりました。急いで伝令を出します」


 ユリアが力強く頷く。


「私からも一筆書きます。よろしくお願いします」

「お任せください」

(一万で奪還可能……問題は辺境伯の余力ね。それに、首都を失った帝国がどこまで持つか……)


 窓の外では、夕闇が街を包み始めていた。




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