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終末の血族  作者: 天津千里
9章:交錯のウルファリア
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第70話 交錯のウルファリアVI

【帝国紀元1799年11月1日 6:00】

【ビレクトゥス郊外】


 巡察隊の捕縛から二十ケイミルを一日半かけて移動し、ユリア大隊はビレクトゥスへと迫っていた。

 途中、騎兵による捜索もあったが、空から監視されていた騎兵の末路は、巡察隊の二の舞でしかなかった。

 夜闇に紛れてビレクトゥス東側の丘を越え、まだ薄暗い朝靄の中、城壁へと近づくユリア大隊の兵士たち。

 城門ではちょうど朝の開門作業が行われ、門からは新手の巡察隊らしき歩兵たちが現れた。


「突撃!」


 ユリアの号令とともに、魔導小隊から城門に向けて魔導弾が曲射される。

 轟音が朝靄に響き渡った。

 たちまち城門付近は混乱の渦に巻き込まれ、城壁の上に敵兵が慌てて駆けあがってくるのが見える。

 そこへ、ユリアの左右から射撃の号令の声が聞こえると共に、激しい銃撃音が鼓膜を揺らした。

 城門側では、混乱したままの敵兵に向かって、レオニダス率いる近接兵とオルフェン率いる若熊傭兵団が突撃していた。

 未だ外にいる敵兵は戦うべきか、逃げるべきか迷ったかのように立ち往生している。

 しかし、先に城門側の兵が恐怖に耐えられず、外にいる仲間を見捨てて城門を閉じ始めた。

 その音に我に返ったのか、敵兵たちが慌てて城門内に戻ろうとするが、それよりも早く城門が閉じた。


(仲間を見捨てるなんてね。冷徹というよりは恐怖かしらね)

「オルフェン! 城門をこじ開けなさい!」


 城門の上からは態勢を整え始めた敵兵が銃撃を始めている。

 その銃弾の雨を受けながら、大きな茶色い毛玉たちが大きな戦槌を持って城門へと殺到する。

 城門付近に残った敵兵たちには、近接兵たちが素早く対応している。

 すでに彼らに士気はなく、各々がバラバラに応戦していたが、城門上からの無差別な銃撃と正面からの近接兵に挟まれたちまち制圧されていった。

 味方諸共攻撃していた城門上の敵兵も、接近していた銃兵たちの制圧射撃によって次々と撃たれていき、その数を急激に減らしていた。

 城門からは鉄と木が激しくぶつかる轟音が響く。門が軋み、城内からは悲鳴とも怒号ともつかない声が漏れ聞こえてくる。

 城門上からは未だに銃撃や投石が続いているが、もはやその数は最初から比べると見る影もない。

 幾度となく響く轟音の後、城門がこじ開けられ、大きな吠え声とともに若熊たちが城内に飛び込む。すぐ後ろから近接兵たちも飛び込み、城門付近には再び激しい銃撃音と怒号がこだまする。

 城壁上にわずかに残っていた敵兵たちは我先に撤退していった。


「全軍、前へ! 一気に城館まで進むわよ!」


 兵士たちの熱気のこもった返事が戦場に響いた。

 ユリアが城内に入ったときには、先頭は大通りのバリケードをいくつか破壊し終わった後だった。奥では荷馬車を横倒しにしながら急造のバリケードを作っている最中であった。

 それらも、次々と若熊たちがその怪力をもって破壊していき、その距離はどんどん狭まっていた。

 間にいた敵兵たちはバリケードが破壊されると同時に、銃兵たちの散弾銃の斉射と、近接兵たちの突撃であっという間に排除されている。

 その手際の良さに、すでに敵兵の一部は抗戦することもせずに逃げ始めている。


「カリス、フィリオ。側面に展開して大通りの確保を援護。立て籠もれそうな建造物は確保しておいて。民間人を巻き込みそうだったら包囲だけでいいわ」

「では私は北側に行く。カリス殿は南側を」

「了解した」

(さて、あとは城館ね。しかし、オルフェンの部隊は使えるわね……まさに生きた重機ね……)


 ユリアの視線の先には、ビレクトゥス子爵の旗が翻った城館が佇んでいた。

 ユリアが城館前まで進軍したとき、辺りには多くの敵兵が捕虜や物言わぬ骸になって転がっていた。あちこちで味方の兵たちが勝鬨をあげており、屋根の上には銃兵たちが展開し、城館の城壁の上を掃討している。


「正面の敵兵は排除した。しかし、城門は早々に閉められてしまった」


 レオニダスが報告する。


「ご苦労。さすがにそこまで上手くはいかないわね」

「市街地もあらかた掃討が終わりました。一部、市民を盾に籠城している者もいますが、既に出入口は封鎖しています」


 フィリオが続ける。


「城館後方の橋はどうする? 一応、射線を通して警戒しているが……」


 カリスが地図を広げながら言った。


「夜間に逃げられそうね……」

「兵の一部を対岸に渡すという手もあるが」

「どうやって?」

「こういう街には大抵、黙認されている船があるもんだ」

「へぇ……いいわね。対岸を封鎖しましょうか。減る火力は……魔導部隊に補ってもらいましょう。アエミリウス、あの橋に魔導弾を撃ち込むことは可能?」


 帝国軍から派遣された魔導部隊の小隊長、アエミリウスが短く答える。


「問題ない」


 与えられた役目は必ずやり遂げる男だ。ユリアはその言葉を信頼した。


「よし、船は確保してある。用意ができたら始めるとしよう」

「カリスさんが対岸を確保し始めたあたりで降伏勧告をする?」


 ルシアが提案する。


「そうね。そこまで追い詰めれば応じやすいでしょう。もっとも首謀者たちはどう思うかわからないけどね」

「兵たちに向けて言うのね。わかったわ」

「……敵には回したくないな」


 フィリオが静かに呟く。


「上司であることに感謝だな、くっくっくっ」


 カリスがおかしそうに笑った。

 一刻後、対岸の市街地にカラディン軍の旗が翻った。

 何度か、渡河に気づいた城館の敵兵が橋を渡って対岸の援護をしようとしたが、そのたびに橋上に何発もの魔導弾が撃ち込まれ、炎と銃撃によってたちまち追い払われていた。


「そろそろ頃合いかしらね」

「ええ。ここまで来て耐えられる兵なんて、そうそういないわ」

「セリーヌ、拡声魔法を頼めるかしら?」

「はい! ……準備できました!」


 セリーヌが素早く魔導具を操作して準備を終える。


「……城館の兵に告ぐ! 我々は帝国東部方面軍だ! 貴様らは正式に賊軍と認定された! この宣言の後、ただちに降伏すれば寛大に処遇する! ……もし、明日の朝までに降伏しないのであれば、帝国への反逆者として苛烈な処置を受けることを覚悟するように!」


 ユリアの声が戦場へと響き渡る。

 拡声魔法をそっと切り、ユリアは踵を返した。


「さて、今晩は忙しくなるわよ。今のうちに兵を交代で休ませましょう」

「わかったわ」


 深夜、仮眠をとっていたユリアの元に伝令が駆け込んでくる。


「大隊長! 城館に動きが!」

「ご苦労、すぐ行くわ」


 ユリアはすぐに城館の見える位置まで移動した。


「レオニダス、状況は?」

「ほんの数分前、城館から銃撃音が聞こえ始めました。内部で戦闘が始まったようです……っと、城門が開き始めましたな」

「ちょうどいいわね。レオニダス、近接兵を率いて城館内へ。降伏した兵は捕縛して転がしておきなさい。抵抗する兵は全て斬れ」

「ハッ」

「それから、城館内で捕らえられている人間がいないか、地下まで探すように」

「ビレクトゥス子爵ですね、承知しました。では行って参ります」


 レオニダスが近接兵を引き連れ、城門へと向かう。


「アエミリウスに伝令、橋の上を燃やすように。対岸のカリスにも通信、逃亡する敵に注意せよ。以上よ」

「ハッ」


 それからわずかな時間で、橋の上に魔導弾が間隔を置いて撃ち込まれ始め、石橋には魔法の炎が何度も燃え上がった。

 城館内の戦闘音は急速に静かになっていった。

 待つこと半刻。

 レオニダスから制圧完了の報告を受け、ユリアも城館内へと足を踏み入れた。

 奥の執務室へと案内されると、そこには帝国軍の将校の制服を着た男が拘束されていた。


「ここにいた部隊の部隊長のようです。身分証から南部方面軍のドルスス大隊長で間違いないかと」

「ふーん、正規軍の大隊長さんねぇ」

「貴様ら、言いがかりをつけて正規軍を襲うなんて、どういうことか分かってるんだろうな!」


 ドルススが拘束されたまま怒鳴り声をあげる。


「生憎、こちらも正規の令状で動いているのよ、大隊長さん。そこまで言うならあなたの命令書とやらを探してみましょうか」

「フン、密命に命令書などあるわけないだろうが!」

「あらそう。じゃあ都市の不法占拠、通行税の違法な取り立てで拘束しても問題ないじゃない」

「これはビレクトゥス子爵からの正式な要請に基づくものだ!」

「じゃあ子爵に会わせてもらいましょうか。もっとも、その時は子爵もあなたの横に同じように反逆者として並べて話を聞くことになるけどね」

「小娘が……色仕掛けで指揮官になれるとは東部方面軍も落ちぶれたものだな!」

「ふふふ……私が色仕掛けですって。お生憎様ね」


 そう言うとユリアがドルススの胸倉をつかみ、片手のまま床から持ち上げた。


「は……、ぐ……ばかな……」


 ユリアが手を放すとドルススは崩れ落ちる。その目には混乱と恐怖が渦巻いていた。


「少し力には自信があってね。さ、話しても意味はなさそうだし、連れて行きなさい」


 近接兵たちがドルススを乱暴に起こし、歩かせる。


(さて、念のため証拠なりを探しましょうか……帝国南部方面軍も怪しいなんて、ね)


 ユリアは執務室を見回した。




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