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終末の血族  作者: 天津千里
8章:ディアグラの銀翼
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第61話 ディアグラの銀翼VII

 捕縛された鳥人たちがうめく中、兵士たちは次に備えて警戒を再開した。

 広場の中央ではセリーヌが魔力感知器を起動し始めている。円盤が淡く光り、魔導回路に魔力が流れていく。

 顔色は悪く、目の下の隈がさらに濃くなっている。それでも彼女は円盤から目を離さず、集中を保っていた。瑞希が心配そうに横から水筒を差し出すが、セリーヌは小さく首を振って断る。

 瑞希は鳥人たちの様子を気にしながら、医療道具を手に待機している。


「再開しました……輝点乱れ気味。一部は分離済みです」


 セリーヌが円盤を凝視しながら、やや掠れた声で報告する。


「次は多めに来るかもしれないわね」


 ユリアが捕縛された鳥人たちを見る。


「次も交渉を試みますか?」


 レオニダスが尋ねる。


「ええ。せっかく手札が増えたのだもの。活用しないと」

「承知しました。決裂した場合も同様に?」


 レオニダスの声が低くなる。


「……そうね、数が多いようだったら手加減して犠牲が出るのも面白くないわね」


 ユリアが周囲を見渡す。


「それは……」

「その時は無理に手加減する必要はないわ。抵抗する者をすべて始末して禍根を断つしかないわね」

「は……ハッ」


 鳥人たちが声にならない悲鳴をあげているが、無視する。


「族長が理性的であることを願っておきましょう」

「輝点動き始めました。一部がこちらに向かってきています」


 セリーヌが緊張した声で報告した。


「全員警戒。ただし、向こうが動くまで手を出すな」


 フィリオから斥候班の報告があがってくる。

 そのすぐ後に周囲に先ほどより多い物音が聞こえてくる。木々がざわめき、複数の羽音が近づいてくる。

 選抜隊が一斉に武器を構える。緊張が走る。

 正面の木々の間から、鳥人が降り立った。

 歳はわからないが、精悍な顔つきをしている。羽毛は茶色く、鋭い目つきで周囲を見渡していた。その後ろから4名ほどの鳥人が続いて降り立つ。武装しており、警戒の色を隠さない。

 捕縛された鳥人たちが、その姿を見て安堵の表情を浮かべる。


「あなたが族長?」

「なっ、お前らよくも!」


 先ほど族長を呼びに行った鳥人が叫ぶ。


「族長! 助けてくれ!」


 捕縛された鳥人が悲痛な声を上げた。


「静かにしろ!」


 族長らしき鳥人が一喝する。


「……私がダムール族族長、バフラーム・シル・ダムールだ。貴殿は帝国軍人なのか?」

「カラディン軍所属、ユリア大隊大隊長、ユリア・コニシよ」


 ユリアが名乗る。


「そう、か。カラディンは……たしかここより北の貴族だったと記憶しているのだが、なぜここに?」

「鳥人が悪さをしていると聞いて、その対処を任されて来たわ」

「そんな北まで話が……。我々も生活のためにやむを得ずやったことなのだ。ここからすぐに立ち去る故、その者たちを放してはもらえないだろうか? もちろん、対価は支払う」


 バフラームが低い声で言う。


「そして次の土地でまた略奪を働く、と?」

「故郷には戻れんのだ。だが、貴殿たちの領地の外に行くことで許してもらえないか?」

「ふーん……なぜ故郷には戻れないの? ここはだいぶ帝国側に入っているわよね」


 ユリアが首を傾げる。


「それは……」


 バフラームが言葉を濁す。


「あいつらが! 卑怯な真似をされなければこんなことには……!」


 従者の一人が怒りを露わにする。その拳が震えていた。


「帰れるなら帰りてぇよ!」


 別の従者も声を上げた。その声は悲痛だ。


「言うな! もう済んだことだ!」


 バフラームが強い口調で一喝した。


「失礼した。よくある話だ。我々は勢力争いに負け、土地を奪われ逃げてきた部族なのだ」

「難民ってわけね。そう……」


 ユリアが考え込む。

 さてどうするか……話はできる相手みたいだけど……空、か……。


「提案なのだけど、あなたたちの集落を訪問したいわ。今後のことで話し合いをしましょう。必要なら医療支援も行う」

「帝国人が集落に来る、だと……!?」


 バフラームが目を見開く。


「よそ者が入っていいわけねぇだろ!」

「何を企んでやがる!?」


 従者たちが警戒の声を上げる。


「勘違いしてもらっては困るわ。あなたたちに断る選択肢はない」


 ユリアが剣を地面に突き立て、捕縛されている鳥人たちに視線を送る。鳥人たちが身を竦める。


「私たちは無傷で彼らを捕えているわ。ここで本気を出してもいいのよ?」


 捕まっている鳥人たちから悲鳴が漏れる。バフラームの表情が強張る。


「それに、私たちはあなたたちの集落に向かって一直線に進んできているのよ? 意味はわかるわよね?」


 ユリアが穏やかに微笑む。バフラームがその笑みに身を引いた。


「貴様……! 脅す気か!?」


 バフラームが憤る。だが、その声には焦りが滲んでいた。


「あら? 有用な提案でしょう? それに捕まった者の命と引き換えなのだもの。反対する人なんて黙るでしょう」


 ユリアの言葉に、捕縛された鳥人たちが一斉にバフラームを見る。その視線には明確な懇願があった。


「ぐぅ……」


 バフラームが歯噛みする。


「ぞ、族長……」


 捕縛された鳥人が不安そうに呟く。その声が、バフラームの最後の抵抗を砕いた。


「わかった……すぐに受け入れの準備をする。しばし待たれよ」


 バフラームが苦渋の表情で頷いた。


「ええ。それまでここで待っているわ。捕虜の治療もしてあげるわ」

「すぐに戻る!」


 そう叫ぶと、バフラームは連れてきた鳥人を率いて空へと飛びあがった。


「長引かせたらどうなるか伝わったようね」


 ユリアが呟く。


「あんなに脅して大丈夫なんですか?」


 フィリオが心配そうに尋ねる。


「ふふふ……暴発しないようにしないとね。本陣に伝令。医療班と護衛を出すように。いざとなったら制圧できるように、1個中隊は欲しいわね。糧食も多めにね」

「……ハッ、ただちに」

「なっ、騙す気か!?」


 捕縛された鳥人の一人が叫ぶ。


「人数は言っていないでしょう? それに、一回暴発されたのだもの。また暴れたりしないように、警戒はして当然でしょう?」

「うぐぐ……卑怯者め!」

「治療してあげるんだから大人しくしなさい。そんなだから護衛を連れてくるのよ」

「ぐぅ……」


 鳥人が悔しそうに黙り込む。

 一刻ほど後、瑞希は捕縛された鳥人たちへの応急処置を終え、怪我の状態を記録していた。骨折が疑われる者、打撲のみの者、裂傷がある者。手早く状態を確認し、木片に書き留めていく。

 後方から斥候に案内された援軍が到着した。


「指示の通り、医療班と護衛部隊を連れてきたぞ」


 カリスが報告する。彼の中隊が後方に控えている。百名を超える兵が整然と並んでいた。


「ご苦労。医療班は鳥人たちの治療を手伝って」

「は、はい」


 アウレリアが医療道具を持って駆け寄る。瑞希のもとに来ると、記録を覗き込んだ。


「この方は左腕骨折の疑い、添え木で固定済み。こちらは打撲のみ、冷湿布を貼ってあります。あとこの方が……」

「わかりました。引き継ぎます」


 アウレリアが頷き、すぐに鳥人たちの治療に取り掛かる。他の医療兵も加わり、手際よく治療が進んでいく。

 鳥人の一人が、そのやり取りを見ていた。


「本当に……治療してくれるのか……」


 小さく呟く声に、驚きと戸惑いが混じっていた。


「こいつらは?」


 カリスが捕縛された鳥人たちを見る。治療を受けている者もいれば、恐怖に怯えている者もいる。


「迎撃に来た鳥人よ。制圧して族長とも話をつけたから、これから集落に向かうわよ」

「鳥人の集落に!?」


 カリスが驚いた表情を見せる。


「それでこの護衛の人数か……やけに多いとは思ったが」

「反故にされても大丈夫なように、ね」


 ユリアが周囲を見渡す。瑞希とアウレリアが鳥人たちを順番に治療している。他の医療兵も加わり、捕縛された鳥人全員の手当てが進んでいた。鳥人たちは最初こそ抵抗していたが、治療の意図が伝わったのか、静かに受け入れるようになっている。


「……ちょうど返答が来たみたいね」


 空から羽音がし、バフラームが降りてくる。


「ユリア殿、なんだこの人数は!?」


 バフラームが驚いた表情で言う。


「貴重な医療者を出すのよ? 護衛は当然でしょう」

「それは……そうかもしれないが、こんな人数を集落に入れるのは……!」

「もちろん集落には入れないわ。でも荷物も多いから、近くまでは行かせてもらうわよ」


 ユリアが穏やかに微笑む。


「……集落に入っていいのは少数の護衛と医療者だけだ」

「ええ。それでいいわ。さあ行きましょうか」


 ユリアが立ち上がる。兵士たちも動き始める。


「……案内する」


 バフラームが諦めたように頷き、翼を広げた。




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