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終末の血族  作者: 天津千里
8章:ディアグラの銀翼
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第59話 ディアグラの銀翼V

【帝国紀元1799年10月2日 7:00】

【ディアグラ伯爵領・ディアグラ】


 翌早朝。

 大隊幹部に方針を説明したユリアは、リオフェルから魔力感知杖の使用提案を受けた。実用的か確認するため、幹部とともに野営地の外れに集まった。


「さて、集まったかな? この魔力感知器は要は周囲の魔力の集まりを可視化する道具じゃ」


 リオフェルが杖を高く掲げる。長い杖の根本には、手のひらより大きい円盤がつけられていた。金属質で鏡のように光を反射し、周囲に複雑な魔導回路が刻まれている。


「セリーヌ、早速起動じゃ!」

「先生、ちょっと待ってください! これ複雑で、そんなすぐには……!」

「でかいな……支えるのを手伝うか?」


 レオニダスが杖に手を伸ばす。


「他の人が触ると魔力が乱れるからダメ!」


 セリーヌが慌てて制止する。そう言いながらも彼女の手元は回路に次々と魔力を通していく。回路が淡い青、黄、灰、白にそれぞれ光り始めた。


「おう、そうじゃ、できるではないか」


 円盤が波打ち始め、甲高い金属音が響く。


「これ4属性も使ってるんですけど! 実用できるわけないでしょ!」


 セリーヌが抗議の声を上げる。


「それはお前さん専用のちょっと機能を増やしたやつじゃ。ほれ皆に見せんか」

「やっぱり! 音属性とかなんで使うんだろうって思いましたよ!」


 そう叫びつつセリーヌが掲げた杖の円盤は、中心点のすぐ近くにいくつもの輝点が重なって大きな光ができていた。どう見てもレーダーだ。


「この光が魔力の集まりか?」


 カリスが円盤を覗き込む。


「そうじゃ。この輝点の1つ1つが魔法使いというわけよ」

「なるほど、魔法使いが多くいれば光の塊として見えるわけですね」


 フィリオが頷く。


「そういうことじゃ。そして軍には魔法使いが多く在籍しておる。つまり……」

「この光の塊と軍の配置を確認すれば、不自然な魔法使いの集まりが見つかる、そういうことなんだな?」


 カリスがリオフェルの言葉を引き取った。


「そういうことじゃ。どうじゃ、役に立つじゃろう?」

「理屈はわかりましたが、これ、どれくらいの範囲でわかるんですか?」


 フィリオが尋ねる。


「まだばらつきが多くてな……改良は加えてるんじゃが……大体最大で10ケイミルってところじゃな」

「それは結構広いですね……目視では厳しそうだ」

「確認は騎兵を現地に急行させるわ」


 ユリアが決断する。


「部隊のおおまかな配置はディアグラ伯に確認しておきましょう」


 ルシアが提案した。


「ええ、お願い。それと歩兵中隊は村々から被害状況などを聞き込みしましょう。商人も護衛してあげれば少しは情報をくれるでしょうし」

「商人も街で聞き込みするのではダメですか?」


 レオニダスが首を傾げる。


「街の商人だとどうしても又聞きが増えるでしょうし、情報には対価として実利を渡してあげないとね」

「はあ、情報の対価、ですか……承知しました」

「あの! ここから東に……8ケイミル? くらいの場所にさっきまでなかった輝点がでたんですけど!」


 セリーヌが円盤を見つめながら叫ぶ。


「お、でかした! 8ケイミル東に魔法使いがおるぞ! さっきまで見えなかったのは、確認の魔法がゆっくり広がってるからじゃな。ちゃんと機能しておるようで何よりじゃ」

「なるほど……ますますレーダーね……」

「前も言っておったな。今度隊長殿の話をゆっくり聞かないといかんな」


 リオフェルが興味深そうに言う。


「そうね。ちょっと考えておくわ。それより、東に8ケイミル行ったところに部隊がいないか確認急いで。それと騎兵も準備を!」

「すぐ行くわ!」

「準備してきます!」


 ルシアとフラウィウスが駆け出していった。


【同日 15:00】

【ディアグラ伯爵領・東部バトマニス近郊】


「あれからなかなか出ませんね……」


 瑞希が円盤を見つめながら呟く。


「朝のもまさか村の占い師の反応だとはね」


 ユリアが肩をすくめた。


「他のも出てきたのは軍隊のとこばっかりでしたもんね」

「つまり、性能は本物ってことでしょ! どうよ、先生の作品は!」


 セリーヌが得意げに言う。


「それは、はい。すごく頼りになります!」

「でも、使えるのがセリーヌだけなのは困るわね」


 ユリアが心配そうにセリーヌを見る。目の下に隈ができている。それでも彼女は円盤から目を離さず、じっと輝点を見つめ続けていた。


「……正直、きついですけど、頑張ります……あと、先生には他の人が使えるようなやつを作ってもらいます……」


 セリーヌの声に疲れが滲む。


「栄養剤、飲みます?」


 瑞希が小瓶を差し出した。


「もらうわ……」


 セリーヌが受け取って一気に飲み干す。


「それ今日何本目? これそんなに何本も飲んでいいやつなの?」

「栄養剤に制限なんてあるんですか?」

「特に何も書いてないですね……こっちの世界の栄養剤って優秀なんですねぇ……」


 瑞希が小瓶のラベルを確認する。


「ユリア、バトマニス付近の村を回っていた部隊が帰ってきたわ」


 ルシアが馬で近づいてきた。


「なにか手がかりはあったかしら」

「当たりよ。ここ数日で目撃情報が複数あるわ」

「やっとね」


 ユリアが地図を広げる。


「バトマニス北側の村を中心に、納屋の保存食、行商人、大きいのは村の家畜が盗まれてるのもあるわね」


 ルシアが地図の上に印をつけていく。


「ここと……ここね。いずれも軽装だが武装していて、荷物を差し出すとすぐに引き上げたみたい」

「被害は……食料? 金品ではなく? それに人的被害もなし?」

「ええ。被害自体は小さく細々としたものよ。村人たちは戦争や野盗に比べれば被害が大きくないから、困ってはいるけどまだ許容範囲だって。行商人は被害が痛いらしいけど、伯爵からの補償でなんとかなってるみたい」

「ほんとに糧食確保という感じね。軍の破壊工作にしては生ぬるすぎる気がするわ」

「ほんとに軍なのかしら? たしかに盗賊にしては金品を盗らないのは解せないけど」

「た、隊長! 反応あり、です! ここから北! 9ケイミル付近を東に高速で移動してます!」


 セリーヌが慌てて報告する。


「北……あの山の麓ね……たしかあっちの方向は警備隊がいたはずよね?」

「はい、バトマニス北側は巡回ルートになっています……今日の夕方にはバトマニスに帰ってくる予定です」


 瑞希が資料を確認する。


「なら別ね。高速で移動というのもおかしいし」

「セリーヌは対象を注視。姉さんは部隊を招集して。北に向かうわよ」

「わかったわ」

「対象、そのまま北東に消えました……」


 セリーヌが顔を上げた。


「もう? ……当たりっぽいわね」


【同日 19:00】

【ディアグラ伯爵領・東部バトマニス山麓】


「では、情報をまとめるわね」


 ルシアが地図を広げた。幹部たちがその周りに集まる。


「数刻前、魔力感知器がこの山麓付近で鳥人らしき反応を検知したわ。反応は北東……この山の中に消えている」

「感知器は今も使っていないのか?」


 レオニダスが尋ねる。


「セリーヌを休ませているわ。夜じゃ動けないしね」


 ユリアが答える。目の下に隈を作っていたセリーヌの顔が浮かぶ。


「鳥人の情報に移るわね。出現時は数名から十数名程度。同じ時刻に複数箇所で目撃されているから、複数グループに分かれている」


 ルシアが地図上の印を指差す。


「全部で何体いる?」


 カリスが腕を組んだ。


「最大で五十名前後。予備がいると仮定しての数だから、実数はもっと少ないかもしれない」

「少ないな。伯爵が大きな問題として扱っていないのも分かる」

「でも、その少数すら討伐できないほど余力がないということでしょう」


 フィリオが眉をひそめた。


「巡回の兵と何度か遭遇したが、あれは新兵もいいとこだ。あれじゃ戦えん」


 レオニダスが苦い顔をする。


「バッスス殿が言っていた予備が尽きたとはこのことか」

「でしょうね。もう本領にすらまともな部隊が残っていないのでしょう」


 ユリアが溜息をついた。


「次に移るわね。武装は槍や弓を中心とした軽装。空からの奇襲で一気に前後から挟み込んで降伏勧告……というのが基本パターンみたいね。狙われるのは農村か小規模な商人のみ。ある程度の規模以上は被害報告はないわ」

「武装も行動も鳥人の基本的な挙動ですね。降伏勧告が珍しいくらいでしょうか」


 フィリオが頷く。


「大体は空から前後の馬や兵を弓で射てから、動きが止まったところに槍兵が一撃を与えてすぐに撤退するな」


 カリスが説明する。


「あえて人的被害を出さないようにしているように見えるわ」

「そうかもしれません。ですが、彼らがなぜあえて……?」

「被害状況はどうなんだ?」


 カリスがルシアに視線を向けた。


「村の備蓄食料、保存食、家畜、商人の運んでいる食品が主に狙われているわ。逆に金品はほぼなし。小銭程度ね」

「これは……通商破壊なのか?」

「あまり被害を与えられるようには思えませんが……」

「たしかに物流が機能していない今なら多少は効果があるかもしれないが……」


 レオニダスが首を傾げる。


「通常だと効果はないな。獣の被害と大して変わらん」


 カリスが言い切った。


「そして、鳥人が消えた可能性が高いのがこのバトマニス山。地元の話では、猟師が何度か鳥人と遭遇、山から追い払われたそうよ」


 ユリアが地図上の山を指す。


「怪しい行動ですな」

「ええ。この山中に前哨基地があると見ているわ」

「では、部隊全体で山狩りを行いましょう」


 フィリオが提案する。


「鳥人の機動力を考えたら逃げられる可能性が高いんじゃないかしら。空を飛べる相手に、大人数で山狩りをしても包囲は難しいわ」


 ユリアが首を振る。


「それは……そうですね」


 フィリオが納得した表情を見せる。


「なので、明日朝、セリーヌの回復を待って少数精鋭で突入しようと考えているわ」

「ですが、少数精鋭と言っても、ほんとに極々少数になるのでは?」


 レオニダスが心配そうに言う。


「鳥人のグループの大きさを考えたら、本隊は10名~20名で、兵士50名に勝てるレベルの精鋭を揃える必要があると思っているわ。それと、斥候を多数配置して、本隊への奇襲を防ぐ」

「その数で50体を相手するのは……選抜されるのが将校に偏りますが」

「そこは仕方ないわ。下手な兵を出してやられるわけにはいかないでしょう」

「分かりました。選抜しておきます」


 レオニダスが頷いた。


「お願いね。あ、私も行くから。姉さんはここの指揮をお願いするわ」

「任せて」


 ルシアが微笑む。


「それは……! ううむ……わ、分かりました」


 レオニダスが複雑な表情を浮かべる。


「カリス殿、大隊長殿はいつもこうなのか?」


 フィリオがカリスに小声で尋ねた。


「ああ。なまじ実績があるから止められん」

「そ、そうか」


 レオニダスが複雑な表情を見せているのが目に入る。心配させているのは分かっているけど、ここで引くわけにはいかない。

 ユリアは地図上のバトマニス山を見つめた。明日、この山で鳥人たちと接触する。彼らが何者で、何のために食料だけを奪っているのか。その答えが、あの山の中にある。




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