第11話 ティオ、鬼の島アドベンチャー
男性キャラは図べ手イケメン設定にしております。
不細工な鬼以外は……
潮の香りがする、潮風が気持ちいい、そこは大きな岩場に挟まれた小さい砂浜だった。
まるでプライベートビーチ、波も穏やかだし、海水浴するには絶好の場所だ。
はるか向こうにごつごつした岩だらけの不気味な鬼の島さえ見えなければ。
「船がいるな」
「よし、じゃぁボクが」
ティオは魔法の杖を振り上げた。
「ベリオガスバル、ヴィスヴィトールっ、船よ出て来ーい!」
すると、杖が描く光り、本当に船が出て来た、しかもたくさん。
木をつないだだけのイカダから豪華客船、スワンボートにヨットにクルーザーにフェリー、屋形船に大漁旗が派手な漁船にゴムボートにバナナボート、たらい船から潜水艦に軍艦まである。
「――どんなお船コレクションだよ」
リケがあきれるのも無理はない、数はやたらと多いが一つ一つがどれも手のひらサイズ、これでは乗る事すらできない。
「あれれ~、おかしいな~」
テヘペロ。
テヘペロじゃねぇよ!と怒られているティオだったが、セロは。
「でもこれだけあれば、十分だ」
と、山積みになったお船コレクションを取り囲むように、地面に丸い錬成陣を描いてみせた。
「今まで、良いとこ無かったからな俺の錬金術」
そう言ってセロは、右手と三角巾で吊られた左手を何とか伸ばして手をかざすと、大きな光に包まれ出てきたのは、お船コレクションの材料を再構築して作られた、みんなが乗れそうな大きさの、シンプルだが丈夫な船が一艘。
「うわぁ、すっげぇ~」
「さすがはセロ、やっぱりすごいや~」
みんな口々にセロの船を褒めているが、セロは。
「いや、俺のはただの錬金術だ、そこにある物体を別のものに作り替える事が出来るだけで、本当は何も無い処から何かを出してくるティオの魔法の方がすごいんだぞ」
しかし、みんなは船を取り囲んで、セロの話など聞いちゃいなかった。
まぁいいか、これで鬼の島に向かう事が出来る。
船で近付くと、鬼の島はすごく大きな島だった、すご~く高く切り立った崖が、皆の上陸を阻むようにそり立っていて、頂上がはるか上空に見える。
波は穏やかだ、どこかに上陸できそうなところは無いかと島の周りを巡っていると、向こうに、小さな洞窟が見えた。
ゆっくりと船を近づけて中へと入ってゆく。
洞窟の中は真っ暗だったが、マシューの持ってきた明かりを頼りに、船はズンズンと進む。
やがて船は洞窟の行き止まりに辿り着くと、そこから陸に上がれるような岩場があった。
辺りに鬼の気配がないか注意を払いながら船を付け、静かに上陸した。
「よし、問題はここからだ、ここにはどんな鬼がいるか解んないからな、みんな油断すんじゃねーぞ」
そんなセロの言葉に、緊張が走る、岩の端でしゃがみ込んでヘロヘロになっているティオを除いて。
「何だよ情けないなぁ、あれくらいで船酔いして」
「だってぇボク~、か弱い少年なんだもん」
「それは、か弱いんじゃなくて情けないって言うの!」
ヘロヘロになったティオは、グレ子に見守られながらリケに引きずられて行く。
洞窟の岩場を進むと、人工的に作られた大きな階段があり、登りきった先には、大きな鉄の扉があった、かなりの重さがある。
セロとリケとマシューとティオも手伝って、みんなで押してやっとドアが動いた、向こうの気配を伺いながらゆっくりと扉を開けると、そこは大広間になって、あたりはしんと静まり返っている、誰もいないようだ。
「うわー広―い」
白い石が並べられた白い壁白い床、高い天井、空気がひんやりと冷たい。そんな壁の高い位置から、ほの赤い灯りがいくつも並んで、部屋を照らしている、よく見るとドクロの形をしていた、目の部分から灯りが漏れていて気味が悪い。
その向こうには、また別の道に通じる通路が見えるが、その手前、広間のど真ん中に、大きな白い像が立っていた。
「きれい……」
両手を前に組み、顔を上げて上空を見つめている髪の長い女性の像、背中に羽が生えていて天使のようだが、頭にはしっかりと角が二つある。
みんなは、怖いけど美しい姿に見とれるように見上げていると。
「美しいでしょ、これは私たちの守り神の像なのですよ」
何処からともなく声が聞こえた。
「その昔、鬼と悪魔との戦いがあった時、この天使が現れて鬼たちを勝利に導いたという伝説があるのです」
声のする方を見ると、そこには一人の男性が立っていた、長い銀髪に褐色の肌。黒地に赤い紅葉が散りばめられた着物を着ているスレンダーで優しそうな細い目の、そして頭には二本の角。
――これが鬼。
鬼はひとしきり天使の像の話をしながら近付いてきた。
「ようこそわが鬼たちの城へ、ここまで来た勇気は褒めてあげましょう」
にっこりほほ笑んだ。
「あっ、あのさ、俺の父ちゃんがここに連れてこられたんだけど知らないか、鍛冶屋をやって――」
そう言いだすマシューをセロが制止した。
「待て、こいつ何かヤバイ」
セロは鬼の、優しい顔のその奥に黒い何かを感じ取ったのだ、あの瞳は苦手だ、何を考えているのか解らない、信じていたのに裏切られた――奴もそんな目をしていた。
なんて個人的な感情は置いといて、それでもセロはこの鬼の笑顔に背中がゾクっとするのだった、しかし、鬼は更に優しい顔になって。
「おやおや、人にものを尋ねる時は、まず自分から名乗るものだと習いませんでしたかね、私の名はライコウと申します、覚えて頂かなくても結構ですが」
すると突然、大きな鬼たちが、ライコウの周りに現れた、その鬼たちは手も足も太く大きく、その手には金棒を持ち、ウガウガと唸り声を上げている、しかも不細工。
想像していたような、絵本で見るような鬼だった。
「不躾な人間共には、ここで死んでもらいますから」
やっぱりこいつ、ヤバイ奴だった。
凶暴な鬼たちが、唸り声を上げて襲い掛かって来る、セロは銃を構えて応戦するが、撃った弾は鬼たちの体に当たろうとも、ビクともしない。
鬼たちの振り回す金棒からよけるの精いっぱいのセロだった、壁や柱が大きくひび割れる、あんなのに当たったらたとえセロでもひとたまりもないだろう。
その時、後ろから光の輪が飛んできて、セロたちをかすめ、大きい鬼の頭に直撃、ボスンと爆発が起き、鬼の一人が倒されてしまった。
「頭を狙え!」 との声が聞こえ、リケはとっさにコショウ爆弾を鬼の頭に投げつけた、コショウまみれになった鬼たちが、苦しんでいるスキに、セロの銃弾が鬼の頭を狙い撃つ。
鬼たちを全部やっつけたが、最初にいたあの鬼は姿を消していた。
「弱点さえわかれば、こっちのものだ……」
セロがそう言いながら、後ろを振り返る、そこには、あの黒コートの男が立っていたのだ。
「あんたは一体何者なんだ、もしかして――」
何処にでも現れる奴、しかしここにも居るという事は、もしかしなくても鬼の仲間なのか、だとしたらなぜ俺たちを助けた、なぜ俺たちの行く先に現れる⁉
セロがそう言いかけるより先に、ティオが横から。
「もしかして、ストーカーだろ‼ボクがあまりに可愛いから、ずっと付いてきたんだ!」
「いや、それは無いと思うぞ」
「えー、じゃぁ何で付いて来るのさ」
あらためて黒コートの男を見たが、相変わらず冷たい目を向けるだけだった。
「貴様らの探している鍛冶屋は、左の塔の地下にいる」
「本当に⁉」
笑顔になるマシューに、セロは。
「その話信じていいんだろうな」
「――さぁな」
男は冷たい目で答えた。
「とにかく行ってみればいいじゃん、ってかストーカーするくらいなら最初から仲間になればいいじゃん、ってか仲間になりたいなら仲間になりたいって言え!」
ゴツン‼ 「いでっ!」
セロ、思わずげんこつ。
「どっちの味方なんだお前は、こんな奴を仲間に入れるつもりなのかよ‼」
「だってー、いつも何だか助けてくれるしー」
確かに今までも、ピンチになった時には助けてくれていたし、今も鬼の弱点を教えてくれた、ような気がする、だからと言ってこんな正体不明の奴、しかももしかすると鬼で敵かも知れないような奴を仲間になんて、それにあの冷たい目は苦手だ。
「せいぜい頑張る事だな」
「こら待て、話はまだ終わって――」
セロが引き留める間もなく、黒コートの男はその身をひるがえすと、瞬間に消えてしまった。
「とにかく父ちゃんがいるっていう塔に行ってみよう!」
「そだよ、行ったら何とかなるかもだよ」
マシューとティオが言う。
「そう、だな」
ここで個人的な感情は置いといて、まずはマシューの父親を探さなければ。
セロが思う前に、子供たちはもう走り出していた、向こうは別の空間に通じる通路がある、セロも急いで後を追う。
そこを抜けると、また広い空間だった、石の壁に石を敷き詰めた床、何本もの太い高い柱の向こうは外へと抜けられるようだ。光が入り込んで眩しい。
そこに、その光を背に受けて、立つ人影があった。
「えっと、誰だっけ――」
「おバカな声出してんじゃないの、こんな時に」
さっきの、なんとかって言う名前の鬼が再び現れた、だって、覚えなくていいと言われたから、ティオも、そんなティオに怒ったリケだって覚えてないけどー。
「先ほどは、凶暴な鬼どもが失礼した、今度はこの私が、皆様のお相手をさせて頂きます」
相変わらず笑顔の鬼だが、腰に差していた刀を、柄からキ――ンと鳥肌の立つような音を立ててゆっくりと引き抜いた。
「あーっ‼」
それを見た、マシュー。
「それ、父ちゃんの打った刀だ‼」
「何⁉」
「間違いないよ、父ちゃんの作るものは、俺が一番よく知ってるもん!」
「そっか、てめーらよくも、こいつの親父さんを」
セロは腰の銃に手を当てると、視線だけは向こうの鬼に向けて、横にいたティオたちに。
「ここは俺に任せて、お前らは先に行って親父さんを探せ」
「でも、セロは!」
「俺は、こいつを倒したらすぐに行く」
「ほう、なかなか身の程知らずな奴らですね」
「いいから行け‼」
セロの迫力に押され、先に進もうとするティオとマシュー。
「あ、あたしは、一緒に戦う!」
「駄目だ、お前も行け‼」
「やだ!」
リケはいつもとは全く違う真剣な表情だった、今のリケにきっと何を言っても引かないだろう。
「――わかったよ」
と、セロ。
「じゃぁ、ボクたちは先に行くのだー」
ティオとマシューは、鬼の横を走り抜けて外へ行こうとしたが。
「ここから先は、生きて出す訳にはいきませんよ」
ティオたちに刀を向けようとした鬼より先に、セロの弾がその剣先をはじいている。
「お前の相手は俺だ、よそ見してんじゃねぇ‼」
「おやおや、怖い顔をして」
それでも笑顔の鬼は、刀を握り直すと、セロと向かい合った。
「じゃぁ、あとはよろしくなのー」
「ご、ご無事でっ」
そう言って、走り出すティオとマシュー、横にはグレ子とロズも一緒だから大丈夫だろう、たぶん。
「大丈夫かな、セロさん」
マシューが心配そうに言うと。
「セロは大人だから大丈夫だよ、ボクらは、マシューのお父さんを探すのだ」
太い柱の間を通り抜けると、外は広い広い庭園だった、大きな噴水を取り囲むように、芝生と通路がデザインされてところどころに色とりどりの花も風に揺れている、すごくきれいな庭、そして向こうには、両サイドに高くて大きい塔が二つ、その中央には更にひときわ高い塔が天空へと伸びるように建っている。
「あの、左の塔に父ちゃんが」
庭に続く広い階段を降り、石だたみの道を走り、綺麗に狩り揃えられた芝生の中に足を踏み込んだ瞬間。
「こら、芝生の上を走るなって教わらなかったのか⁉」
突然声をかけられた。
ビックリして、声のした方を見ると、噴水のふちに腰かけている一人の鬼がいた。
「あ、ごめんなさい~」
慌てて芝生から出る。
「すみません、急いでいたもので」
噴水にいた鬼、まだ大人になり切れていない感じの若い鬼だった、着崩したグレーの着物を着て、日焼けしたような小麦色の肌、にこやかにカーブした糸のように細い目、黒い長い髪は後ろで束ねて結んである。
「分かればいいんだよ、って誰だお前ら、見かけない顔だな」
二人をどこか人懐っこい目で見ている、怖そうな感じは全くしない。
「はじめまして、ボクは魔法使いでティオって言うんだよ、この子はグレ子それとロズ」
「へぇー、魔法使いなんだ、初めて見た、ちっちゃくって可愛いなぁ」
鬼はティオを興味深そうにまじまじと見て。
「オレはヒレンって言うんだ、よろしくな」
右手を差し出してきたので、ティオは両手で握手すると。
「うわぁー、ちっこい手だなぁ、可愛いなぁ、で、お前は?」
尋ねられたマシューは。
「俺はマシューだ、鍛冶屋の息子だよ」
「ふーん、どうやってここまで来たかは知らねーけど、ここへ何しに来た?」
「ここに連れてこられた俺の父ちゃんが、あの塔にいるって聞いたから迎えに来たんだ」
「ふーん」
ヒレンは少し考えて。
「おまえ、ひょっとして、あの鍛冶屋の息子か?」
「父ちゃんを知ってるのか⁉」
「あぁ、知ってるよ」
屈託のない笑顔で答えてくれた。
その頃、セロと笑顔の鬼は。
「そのような銃で、どう戦うおつもりですか」
相変わらず笑顔の鬼、その笑顔は逆に恐ろしくもあるが、セロだって負けていない。
「下がっていろ、リケ」
「う、うん」
片手だとはいえ、気迫はハンパないセロに、助太刀よりも今は邪魔をしない様に見守っている方がいいかも、そう悟ったリケは少し下がって見守ることにした。
もちろん、セロがピンチの時はいつでも助けに――。
先に仕掛けたのはセロ、鬼に向かって銃を打つ、だが軽くかわされてしまう、身軽に動きセロに斬りかかる、何とか距離を計りながら連射するセロだったが、鬼は一瞬身をひるがえすと、セロの視界から消えた。
「‼」
焦ってその姿を追うセロが、その姿を確認した時はもうそばまで迫っていて、刀を振り上げると、セロの銃を空中へと高く跳ね上げてしまった。
「セロっ!」
空を舞った銃は、鬼のはるか後方に、大きな音を響かせて落ちた。




