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神媒師  作者: ふみ
第一章 初めての務め
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054 代償

「おぁ、何だ、来ておったのか?」


 秀吉が瑞貴に気付いて声をかけてきた。瑞貴には、ただのお爺ちゃんにしか見えなくなっている。


「……数日前に比べて、良い顔になっておるぞ」


 信長の表情は基本的には厳しいままだが、現役時代にはこんなことを言ったりはしなかったのだろう。

 性格の違いを『ホトトギス』が『泣かなかった』場合で比較した句がある。だが、今見ている信長は『ホトトギスを殺さない』だろうし、秀吉が『ホトトギスを泣かせみせる』こともなさそうだった。


「……これでも二日ほど風邪を引いて寝込んでたんです。調子が良くなったので、ちょっとだけ遊びに来ました」

「何じゃ、情けないことを……。気合が足りないから、風邪など引くのじゃ」

「……はい、その通りです」


 本当に、その通りだと思っていた。精神論など時代遅れな考え方だが、時代遅れの人の言葉だから仕方ない。


「もう良いのか?……あまり無理をするものではないぞ」


 ホトトギスを殺すと言われていた人に心配されてしまっている。これだけでも瑞貴が風邪を引いたことに意味はあるのかもしれない。


「どうしたの?遊びに来てくれたの?」


 今度は子どもたちがワイワイと騒ぎながら集まってくる。それぞれ好き勝手に遊んでいたはずが、いつの間にか全員集合になっていた。


「皆が、クリスマスに何をしたいのか聞きに来たんだよ」

「あのねー、折り紙でいっぱい飾り付け作るの!」

「みんなで遊べることしたい!」

「お菓子食べたい!」

「紙芝居が見たい!」

「……んっ?……紙芝居?」

「えーっ!?お兄ちゃん、紙芝居を知らないの?」


 知ってはいるが、記憶している中では見たことがない。アニメ映画の鑑賞会的なことで代用して問題ないのか良いのか瑞貴は悩んでしまう。

 結界を作れる広さも限度があるので動き回る遊びは難しいかもしてないし、子どもたちが生きていた時代も共通してはいないので一緒に遊べる種類も限られる。


「ちなみに、皆は、いつも何をして遊んでるの?」


「かくれんぼ」

「追いかけっこ」

「宝さがし」

「忍者ごっこ」

 ……これらの遊びは予想の範囲内である。


「合戦ごっこ」

 ……これは少し予想外だった。


――あの二人、子どもの遊びで何をやらせてるんだ?


 もし、この遊びを信長と秀吉が監修しているのであれば、本格的なものになっていそうで少し怖い。

 それでも、子どもたちが皆で遊べるように武将たちがアイデアを出していたのであれば、ほのぼのしたものにアレンジが加わってほしいと瑞貴は思う。


「ところで……トランプって、知ってる?」


 ほぼ全員が「知らなーい!」らしい。皆が限られた範囲内で遊べるもので現代的なゲームはダメ。


「……もうちょっと頑張って探してみるか」


 瑞貴の明日と明後日の予定は全て決まったようなものだった。パンケーキの試作品を作ってみることも忘れてはならない。


「それで、子どもたちの遊びは(まと)まったのか?」

「まぁ、それなりに目処(めど)は付いたかと……」


 信長の質問への答えは歯切れが悪かった。まだ、探してみないと自信を持てないこともある。


「こんな状態での遊びは限定されるからな。触れられる物は少なくて、道具を使っての遊びは難しいからな」

「……紙芝居って見てたんですか?」

「おお、見ておったぞ。勝手に見ていても、儂らはバレないからな。……だが、その時に売られるお菓子が(うらや)ましかったらしい」

「お菓子も含めての紙芝居なんですね?」


 昭和の娯楽で雰囲気も大切な要素になるのだろう。お菓子を羨ましく見ていたのは、生きていた時の記憶なのか死んでからの想いなのかまでは知ることが出来ない。


其方(そなた)は、儂らのことを詳しく聞いてこないのだな」

「……聞いた方が良いですか?」

「いや、正直言って、よく覚えていないのだ。……ここに来る前に清州城に行ってみたりもしたが、景色が違い過ぎて別の場所かと思ったくらいだ」

「当然そうなりますよね。……やっぱり寂しいものですか?」

「そうだな……、寂しくないと言えば嘘になる。だが、今の時代の(いしずえ)として儂らの時代があったのであれば、無駄ではなかったと思えるのだ」

「礎、ですか?……確かに、貴方方(あなたがた)の行動が少しでも違っていれば時代は大きくズレていたかもしれないですからね」

「儂が、あの時に死んでおらんかったら、今の時代はなかった。……そうであれば、儂らが生きていたことにも意味はあったのか?」


 信長が周囲を見回していた。この場所の景色だって変わっているはずで全く同じ物など存在しない。


「貴方が時代を動かしたんです。意味はありました」

「……あの子らの中には、儂らが原因で命を落とした子もおる。子どもらを不幸にしてまで、儂がやりたかったことは何なのか分からなくなった」

「えっ?……天下統一を目指していたんですよね?」

「あんなものは、結局ただの陣取りだ。天下統一など愚かしいことだったのだ」


 織田信長が自嘲(じちょう)気味に笑っている。過去から現代までの日本を見て回り、何か感じることでもあったのかもしれない。


「残虐非道な織田信長が、こんなことを言うのは意外か?」

「……はい、意外でした」


 平和ボケと言われることもあるが、ボケていられることは幸せなのかもしれない。

 瑞貴は、これまで学んできた戦国時代の織田信長も嫌いではなかったが、隣りで穏やかに話をしている織田信長にも好感を抱いていた。


※※※※※※※※※※


 夜には鬼が答えの半分を持ってきてくれた。前日と同じように迎え入れて、同じようにソファーに座ってもらった。


 特に変わった様子もなければ、何かを持ってきているわけでもない。この世界の物に触れられる鬼には、一応お茶を出してもてなすことにした。


「私が答えの半分と言った理由は、これから私の伝えることが貴方の選択肢を増やすだけのものだからです。……その方法を使うか使わないか、選ぶのは貴方です」


 前置きも短く、鬼は本題を話始める。


「……まず、『浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)の太刀』を神媒師の方々は『閻魔刀』と呼んでおりました。」


 父からの説明では、『閻魔刀』は通称として使っていただけとされていたが、理由は他にもあるような言い方をする。


「それは、閻魔様が()り行う『断罪』を、神媒師の方は別の方法で実行していたことに由来しております」

「……別の方法ですか?」

「生きた人間に『浄玻璃鏡』を使用するのですよ」

「えっ?生きた人間に?……使えるんですか?」

「はい。……『浄玻璃鏡』で生きた人間を映して罪を認識させた後、その人間を斬るのです」


 瑞貴は、父が『太刀』であることを強調して説明していたことを思い出した。なぜ『太刀』である必要があったのか。


「……生きた人間を斬るんですか!?」

「物理的に斬るわけではありませんから安心してください。……この世界での人殺しになることはありません」

「物理的に斬らないって……。それなら、何を斬るんですか?」

「その人間の罪の意識を斬るんです。……『浄玻璃鏡』で高密度に圧縮された罪を、その人の中に解き放つ。生きながらにして地獄の苦しみを味わうことになります」

「……生きながらにして、地獄の苦しみ、ですか?」

「そうです。刹那(せつな)まで圧縮された自分自身の罪の意識が、自分を責め続けるんです。……人間たちの裁判とやらで与えられた罰の方が、遥かに楽だと気付くでしょう」


 鬼は不敵な笑みを浮かべている。鬼が自信を持って地獄の苦しみと言っているのだから、間違いないのだろう。


「……それが、俺の選択肢の一つ。ってことですか?」

「その通りです。貴方の話に出てきた、山咲瑠々の母親を『閻魔刀』で『断罪』すること。それを貴方の選択肢に加えることは出来ます」


 この世界で裁かれることがなかった罪は、死後に裁かれることになる。ただ、それでは生きている時間の中で罪を認識することなく、幸せに過ごすことが出来てしまう。


 それを許すことが出来ない場合には最高の選択肢かもしれない。


「……でも、それだけのことが、何の代償もなく出来るなんてことは……()()んですよね?」

「フフ、話が早くて助かります。ですが、代償が必要になるのは選択を誤った時だけです」

「選択を誤った時……だけ?」

「結界を作っている間の代償は、貴方の命への負荷です。……問題は、罪のない人間を誤って斬ってしまった時にあります」

「……罪のない人間?」

「勿論、生きている以上は軽い罪を犯し続けます。本当の意味で、罪のない人間はいません。……ここでは、地獄に行くだけの罪を犯した者だけが、地獄の苦しみを味わうのが道理。ということになりますね」


 瑠々の母親が()()()()()()()()()を犯していなければ、瑞貴が『閻魔刀』を使ったことによる代償を払わねばならない。


「神の力の一端を借りて、失敗することなど許されないことなのです。……罪のない者に『閻魔刀』を使用した時に支払うべき代償は、大きいですよ」

「……例えば、で聞いてみてもいいですか?」

「…………侑祐殿を見れば、分かると思います」

「えっ?……父さんを見れば分かるって。…………もしかして、父さんが歩けなくなった理由って。……代償は身体の一部ってことですか?」


 鬼は黙って頷くだけだった。


――父さんは『閻魔刀』を使用して失敗した?それで、代償を支払うことになったんだ……。だから、俺が最初に質問した時、あんなに驚いていたのか?


 瑞貴は父が歩けなくなった理由を『事故』と聞いた記憶がある。ある意味では『事故』かもしれないが、自分で選んだ結果のものだった。


「侑祐殿は、貴方に伝えることを悩んでおりました。……なにしろ、自分の右足を奪った力なのですから。それでも、この事を知らずに後悔するのであれば、選ばせたいとも言ってましたよ」


 父から言われていた言葉を思い出していた。『幸せでいてほしい』『後悔はしないでほしい』、その中で瑞貴が選択した道で進んでいくことを望んでいる。


「罪の判断は難しいことなのです。侑祐殿が罪として判断した事が、そうではなかった。それだけのことで彼は右足を失うことになったのです。……そんな力を貴方に伝えることには、かなり悩んでおりました」

「……それでも、それが罪であれば、斬った相手に苦しみを与えることが出来るんですよね?」

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