中(なか) 3
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パチッと私は瞬きをした。
今…なんか音が聞こえた…何だろう…それで…それで私は…
バサッと小さく羽音が一瞬聞こえた。ほんの、もうほんの一瞬だけだ。それでも今度は確かに聞こえた気がしたし、その一瞬で私は目覚め思い出した。
私の事を。
私が今、この暗闇の中をこんな風に落ちなくても、そして漂わなくてもいい事を。
私の意識は覚醒してくる。
本当はこの暗闇の中にいるはずのない私の、本当の意識だ。
本当の私はここにはいない。私はちゃんと光の中にいるはずだ。
意識を集中させるとこの闇の中でも、私はかすかな光を感じ取ることができた。それは実際に見える光ではなくて、きっとあるはずだという確信の中で感じる事の出来る光だ。
私は協調性のない何の取り柄もない人間かもしれないけれど、そしてたいして明るくもなく、毎日を希望に満ちて過ごしているわけでもないけれど、
それでもここまで私の心の中に、こんなに暗いところが本当にあるんだろうか。
そう思えた時だ。
私にはいろんな穴が見えてきた。
小さな穴、大きな穴。私の意識はそのたくさんの穴に一度にすうううっと入り込んでいく。
嫌だ…ものすごく…あぁ見たくない…でも私には数えきれない穴の存在が見えてきた。
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その穴の中では、私の知らない誰かが私の知らない誰かをとても憎んでいた。
酷い目に遭って苦しめばいいと思っていたし、泣けばいいと思っていた。のたうちまわればいいと思っていた。死んでしまえばいいとも思っていた。
そしていっその事殺したいとも思っていた。嫌いな誰かだけではなくて、特に関わりもないけれど、それでも全ての気に入らないものが無くなってしまえばいいと思っていた。
嫌なものは全部全部全部全部…何もかも。
いろんな種類の憎悪、いろんな種類の妬み、いろんな種類の嫉妬、歪んだ愛情…
私のいるこの闇よりも暗く冷たい無数の穴の中。
私は自分の目にも見えない自分の両手で目を覆った。
見たくないのは私にもそういう気持ちがあるからだ。私も思っている。私も悪いことをたくさん思っている。嫌な事をたくさん思っている。私も暗くて、汚くて、怖いことをたくさん考えてる…
砂粒ほどになった私はさらに押しつぶされ、もう本当の無になってしまう。
そして自分の事よりもっと見たくないのは、私の知っている誰かのそういう暗い気持ちだ。
見たくない見たくない見たくない…
私の好きな人たちの、誰かを妬んだり憎んだり排除したりする気持ちを私は見たくない!
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両目を抑えた私に何かが聞こえる。
だから私は目を押さえたまま耳を凝らす。
…羽音だ。羽音が聞こえる。
確かに聞こえる。小さな羽音は次第に大きく、バサッ、バサッと、私の暗闇を履き消すように空中を舞っているのだ。
その音は私の意識を覚醒する。
明るい光のもとにいる私の事を思い出す。
あれは私をここから運び出してくれるモノだ。
バサッと、やっと近くで聞こえてきた音のほうへ、強く手を伸ばしてみる。
私の手は何も掴まないし、何かに触れさえしないけれど、それでも私は手を伸ばし続ける。
声を出して見よう。
…出ないな。口からかすれた息が出て行くが声が出ない。
もう一度、ゆっくり。
私は息を吸い込み、そして声を出そうとするがそれでも出ない。何回やっても出ないからくじけそうだ。
お母さん、お父さん、助けて欲しいよ。
お母さん…
「薫っ!!」と叫ばれて私は目を開けた。
目の前には大きな光の柱があった。田代姉妹と私、ヤグチ、ハヅキモエノで繋いだ丸い輪の真ん中から
棒状に空の真上にむかってぼうっと光の柱が出ていた。
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