君らが中3の時にね 1
「君らが中3の時にね、足田先生と田代先生が赴任してきたんだよ」
桜井が話し始めた。「双子の保体の先生なんてそういるもんじゃないだろう?田代先生たちも実は保体の先生じゃあ、ない。あの5人は戦士なんだよ」
「「5人?」」ヤグチと私は声を揃えた。「「…戦士って…」」
「田代先生たちはね、本当は5人姉妹なんだよ。双子というのは仮の姿で」
仮の姿?5人姉妹?ツインテールにオレンジのジャージ姿の田代姉妹のゴツい体を思い浮かべる。
あれが実際は5人いる…5人…2人でもすごいボリュームなのに。
横に5人の田代姉妹を並べる。ちょっとオレンジ色の甲冑の戦闘服を着せてみよう…5人で甲冑を派手にガッシャ、ガッシャ、言わせてダンスする様まで想像しかけてしまう。
「でも5人だとかなり目立つからね」したり顔で桜井が言う。
「5人で代わる代わる双子の振りをして足田先生を見張ってるんだよ」
甲冑姿の田代姉妹が、結局私の頭の中でガシャガシャ、ガシャガシャ動きまくって煩くてたまらない。
双子でもかなり目立ってたよ。それが5人て…
ヤグチは眉間にしわを寄せて、それでも私の手を離さずに桜井の話を聞いていた。その、私達の繋がれた手を見て桜井が、ふふっと笑ったので、ヤグチが「見んなよ」とさらに桜井を睨み、私の手を掴む手にも力を入れた。
「田代先生たちはね、足田先生を追って来たんだよ」
「「どこから!!」」
「ん~と、…とある…空間から?」
ヤグチと私は顔を見合わせる。ヤグチはずっと眉間にしわを寄せたままだ。
「宇宙人て…事ですか?」
質問しながら自分の質問のダサさに声が小さくなる。
宇宙人て何?って話だ。
いや、私とヤグチの置かれた状況は十分におかしいから、そりゃ宇宙人だって当然のように出てくるだろう。
でもだ。まさかクラス担任に、美術と保体の教師の事を「宇宙人ですか?」って質問する日が来るなんて、こんな状況に置かれても今の今まで考えもつかなかった。
そしてその担任の肩にはフクロウだ。シュールなコントみたいだな。
いや、…考えるべきだっただろう。そりゃ宇宙人も出てくるよ。
だって現実に自分のいる空間が伸びたり縮んだりしてるんだから。ほら、こんなに渡り廊下が長い。…現実に…
現実?
「宇宙人て言うか…」桜井がフクロウに振動を与えない程度に首をかしげて答えた。「まぁ言ってしまえば私達も宇宙人だしね…って答えるのはベタ過ぎて私もどうかなと思うんだけど、山根、『時』と言うのはどういう風に進んでると思う?」
「…」
時?時がどんな風に進むか?
わからない。
時はどんな風に進むか?
「それはどういう…」
私はまた質問しかけたがヤグチが私の手を強く引いて歩き出した。
桜井の脇を通り過ぎ、そのまま長い長い渡り廊下へ進む。
私はどうしたらいいか分からず、手を引かれたまま桜井を振り向いた。
桜井も振り向いてこちらを見ているし、フクロウも首を背中まで回してこちらを見ている。
「ヤグチ」と桜井が呼び止めるがヤグチは立ち止まらないから私も立ち止まれない。
私は不安だ。このままヤグチに手を引かれて進むのも、進まないのも。
「ダメだよ」桜井はなお呼び止める。「山根を帰らせてやりたいんだろうけど山根にはまだ仕事が残っているからね」
「関係ねぇよ」ヤグチが静かに言った。
「オレはこいつを連れて帰るの!」
桜井が目を見開いた。「かっこいいねぇ、ヤグチ」
「うるせぇよ」ヤグチは私の手をぐいっと引く。
「そうか…」相変わらず淡々とした桜井が言った。「山根はヤグチと誰を選ぶ?」
ヤグチがムッとしている。
「オレと誰ってどういう事だよ?」ヤグチが声を荒げた。「山根が選ぶのはオレだけだって!」
そうヤグチが言った途端急にだ。急に私達の目の前には校舎が現れた。
私達の教室2年4組がある校舎。渡り廊下が普通の渡り廊下に戻ったのだ。
それはきゅううんっ!て感じでも、しゅうううん!て感じでもない。今までここはこのままでしたよ、という感じで私達の目の前に現れ、私達は元の、本来の、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下にいた。
フクロウを肩に乗せた桜井もすぐ私達の後ろにいる。
戻った!…元に戻った!
校舎の中に今、人の姿も見えた!
が、そう安堵する私に桜井は笑った。
「山根、元の、とかそういうのは、ないんだよ。『時』と言うのはね、過ぎて行くものだから、過ぎ方もまぁいろいろあるんだろうけど、それでも、まるきり元に戻るなんて事はないんだよ。例えばタイムワープなんかにしてもね、そのタイムワープして行く人間がいる時点でそれはもう元の時間とは違うものなんだよ。そういうの、SF小説で読んだ事はないの?山根もヤグチも。それで今のヤグチの言葉には山根はどんな気持ちなんだ?」
「え?」間抜けに聞き返す私だ。
「聞いとらんかったんか!信じられんな山根。ヤグチがせっかく…ヤグチ…山根にはなかなかヤグチの気持ちがストレートに通じんな」
桜井がヤグチを憐れんだ目で見てから続けた。
「止めろって!」というヤグチの言葉も全く無視だ。
「いいか山根。先生がリピートしてやるけど『山根が選ぶのはオレだけ…』…」
「止めろ!!」
ヤグチがすぐ叫んだが桜井はまだ続ける。「…ってヤグチがむやみに叫んだろ?」
ヤグチと誰を選ぶか…まず私はそう聞かれたのだ。
桜井に言われた私の仕事だ。誰かの夢に出る3,4人を選ぶ。2人では少なすぎるし、5人では多過ぎる…でも…
「でも先生、私はまだほんの何人かの話しか聞いてないんです。それだってみんなが、本当に私にわざわざ話しに来てくれてたことなのかもよくわかんないし。クラス全員から話を聞くとなると、もうあと何日かかるかわかんないです。もう私全然…」
「もういいよ」飄々としていた桜井が急に吐き捨てるように言った。
「だいたいわかってるんだよ。私はほら、担任の先生だから。それにまたみんな、おいおい話しに来るから」
私はヤグチと顔を見合わせる。
「どう言う事なのか、もっとちゃんと言えよ」
ヤグチが桜井に言ってくれた。




