大丈夫な事なんて少しも 2
ツブツブと並んで廊下を歩くけれど、ツブツブは何も喋らない。私の夢の絵に何を描いたかも話してくれない。
まぁ私が何も聞かないからだろうけど。
私の斜め後ろをヤグチが歩いている。
ヤグチが後ろからわざと私を、「薫」と呼ぶんじゃないだろうかとビクビクしていたが、ヤグチも私を呼ばない。
いたいたまれなくなって私はツブツブに言った。
「ごめん、ユウリ君。私トイレ!」
私は廊下を駆けた。ちんたら歩いているクラスメートを何人も追い越す。
サクラちゃんとミノリちゃんもいたが追い越して、ハヅキモエノに「山根さん!」と言われるが、「ごめん、私トイレ」と行って美術の道具を持ったままトイレに駆け込んだ。
取りあえずそんなにしたくなかった用をたして水を流す。
水が流れるのをじっと見てため息をついた。
それにしても長いな、今日の一日。毎時間違う教科で、違う教師に呼ばれて、変なカミングアウトを聞かされる。
もちろん変だし、他の、ヤグチ以外の誰もが特に変だとも思ってなさそうなのもどうかと思う。
水が流れてしまうのを見届けてから個室を出ると、洗面所の鏡の前にはハヅキモエノがいた。
ギクリ、とする私だ。
「大丈夫?山根さん」ハヅキモエノはにっこりと笑った。「顔色悪いね」
「大丈夫だよ」と私は一応答えてから聞く。「さっきのさ、あの絵なんだけどハヅキさんが描いたやつ」
「うん」
「私が描いた絵とかぶってたよ、かなり」
「ホントに!すごいなそれ」
「それで…ヤグチ君が描いてたのともかぶってた」
「え?3人同じような絵を描いたって事?」
3人同じような絵を描いた…
そうか!もしかしたらまだ他にも、私の描いたのと同じような絵を描いた子がいたのかもしれない!
…けどそれが何だっていうんだ?
私の仕事はクラスの子たちが私に話に来る事をただ聞いて、誰かの夢に出る3,4人を選ぶ事だ。
それにたいして誰も私に話をしに来てくれていない。桜井の言っていた話と全然違う。
桜井は私に聞く気がなくったって、みんな私に話をしに来るんだって言っていたのに。
今日だってサイトウとゴトウハルカは結局告るのを手伝うだけだし、双子の兄弟姉妹がいる3人も、田代ミカとリカに言われて無理矢理兄弟について話しただけだ。
「すごいな」とハヅキモエノがまた言った。
「ヤグチ君と薫ちゃんの絵がかぶるのはわかるけど、席が離れてる私まで同じような絵を描くってなんかすごいね」
全然すごくないよ。すごいのかもしれないけど私はすごいなんて認めないよ。
「ちょっと、っていうかだいぶ嬉しいな私」
本当に嬉しそうにハヅキモエノはそう言った。
「私さ、」ハヅキモエノがキラキラした目で言った。「山根さんと友達になりたい」
急に言われて驚く。場所も女子トイレの中だし。それに…私もそう思ってたし。
「あ、ごめん」とハヅキモエノが言う。
「え、ううん…」
私が驚いたから気分を害しちゃったかな。
それでもハヅキモエノは続けた。
「無理して誰かと仲良くするのは嫌だから、急にこんな事言ったりは、私絶対嫌なんだけど、でも山根さんともっと話がしたい」
ダイレクトに告白されたて紅くなる私だ。ハヅキモエノも少し紅くなっている。
同じ学年で違うクラスの良く知らない、トイレにはいっていた女子が
私達の事をちらっと見て、そして手を洗ってまた鏡越しにほんの少しだけ見てトイレから出て行く。
「ありがとう」と私は取り合えずハヅキモエノにお礼を言った。
ハヅキモエノはニッコリと笑って私を見つめる。
この人やっぱり綺麗だな…
ハヅキモエノが言う。
「私がいろんなバカみたいな事言っても、山根さんならちょっとバカにしたり、すごくバカにしたりしながらちゃんと聞いといてくれそうな気がする。
普通の女の子だとそんな風にはいかないこと多いから」
「そんな事ないよ」と私は即答した。
私は普通の女の子だよ。
ハハハ、とハヅキモエノは笑った。
「そういう答え方を抑揚のない声で返すところもすごく好き。たぶんね…ヤグチもそうなんだと思う。山根さんのそんな感じのとこが好きなんだと思うよ」
私のそんな感じって、よくわからないよ私には。




