後ろを見るヤグチ 1
「例えば3組は」とキタが言った。「ゴトウハルカって男子の見る夢を描かせたよ。結構3組も面白かったね。いい?みんな、絵はね、面白い方がいいんだよ。笑えるって意味じゃないよ?趣があるって意味だけど。絵の良し悪しはね、アレ?これ面白いなって思える事だよね。綺麗だ、とか、うまい、じゃないんだよ。面白いかどうかが一番。なんかホラあるでしょう?いろんな賞とかがさ、僕はあぁいうのは嫌いだな。だって審査員の年寄りが
良いって思う絵を選ぶだけのような気がするから。だいたい日本の賞をとったやつの絵を見ると全然、全く、これっぽっちも面白くないんだよね。良い絵かもしれないけど面白くないんだよ。特に地方のなんかはさ。何か卒のない、当たり障りのないうまい絵が賞に選ばれるんだよ。自分の老いた感性ごり押ししてくんなって話だよ」
いつになく毒舌のキタ。
賞を取れなくて悔しい思いでもしたのかな。
「そんなさ、くっだらねぇ賞を、普段とは違う感じの老人好みの絵で受賞してさ、まんまとフランス留学1年とか行った元同級生がいたんだよ。くだらねぇっつの、ホント」
美術室がしんとした。
いつにないキタの熱のこもった愚痴に結構みんな引いている。
キタの愚痴よりゴトウハルカの夢の絵だ。
ちょっと見てみたいな。3組の人たちはどんな風に描いたんだろう。
もし私だったらゴトウハルカを見ながらどんな風に描いたんだろう。
うっとりと考えているとヤグチが振り向いた。
「お前アレ渡したの?」
「…」
「ゴトウハルカに頼まれてたやつ」
「ヤグチ君に関係ないでしょ?」
私が強い口調で言ってしまったので
ヤグチばかりか、隣のモチダタケトもチラッとこっちを見てくる。
「渡したよ、ちゃんと」私が答えると「それで?」とヤグチがさらに聞く。
ほんと、関係ないじゃん!
「どうもしないよ」と私は答える。
実際どうもしなかった。ただサクラちゃんに渡しただけだ。
「嫌だったんじゃねぇの?」ヤグチが覗きこむように聞いてくる。
ところがそう嫌じゃなかった。嫌じゃなくて寂しいような切ない気持ちになったのだ。
「お前偉いじゃん」ヤグチが言う。
何がだよ?
「ちょっと嫌かも知れなかったのに偉かったじゃん」
何だそれ?同情か?しかもヤグチはニッコリと笑っている。
励ましか?いらないぞそんなの。
「ヒカル!」声がして私まで見てしまう。
エダノノカだ。
「ヒカル~」エダノノカが甘えた声を出した。「今日は私に付き合える?」
「何が?」と言ったヤグチの声はとても冷たい。
ヤグチは私の方を向いたまま、私のペンケースを開けて中を見はじめた。
エダノノカは押しが強い。
「え~昨日言ってたやつ、ヒカル~放課後今日は付き合ってよ」
「無理」昨日と同じように即答のヤグチ。
私はペンケースを取り戻したいがエダノノカの手前、何のリアクションも起こしたくない。2人に全く関係ない、もういるかいないかのように気配を消す。
「え~~何で~~いいじゃ~ん」
エダノノカもひるまずに甘えた声を出し続ける。
怖いなエダノノカ。
いくら巨乳が魅力的でもあんまりしつこいと、私が男子だったら逃げてしまうな。もっとツンデレな感じか小悪魔的な感じでいかないと。
エダノノカ、せっかくの巨乳が台無しだよ。




