美術の時間 3
美術室中がざわめいたままだ。
みんな私からなんて何もイメージできないって。
そんなざわざわしている美術室から、キタが隣の美術控室へ消えた。
おきざりか!
緊張で手汗をかいてしまって気持ち悪い。もちろんみんなの顔なんて見回す事はできない。ずっと誰とも目を合わせないように、私は細心の注意を払っている。
嫌だ、脇汗が出てきてそれから何かをイメージされたらたまらない。
私は急きょ心を空にして平常心を取り戻す努力をする。
大きく息をして。すーーーはーーーすーーーはーーー…
頑張って美術室を見渡してみる。
あぁみんなの顔がはっきり見える。
…やっぱ見なきゃ良かった。あからさまに嫌な顔をしながらクロッキー帳を広げる子もいるし、困惑してる子が多いけど、サクラちゃんとミノリちゃんがニッコリと笑いながら、2人離れた場所で同時に小さく手を振ってくれた。
可愛いなぁ。手を振り返したいけど今は無理だ。
それでも私は二人の顔を見たおかげで少しだけ落ち着いてくる。
ツブツブももちろん見ていてくれている。でも私はツブツブと目を合わせたくない。
せっかく少し落ち着いたのにまた恥ずかしくて仕方なくなる。
自分の席に戻りたい。
自分のいた席に目をやってしまうと、当然のようにその前の席にいるヤグチと目が合った。ヤグチがいつになく真面目な顔で私を見つめているので
思わず私もじっと見つめてしまった。
ガタッとヤグチが立ち上がる。
ダメだ!こっち来るの止めて欲しい。
そう思ったにも関わらずヤグチは私の方へやって来たので、美術室中がざわついた。
何?何?何をする気?みんなの前で必要以上の注目を集めるのはもう嫌だ。
「椅子」とヤグチがみんなにも聞こえるように言った。
「へ?」間抜けな感じで腰かけたままヤグチを見上げてしまう。
「もうちょい後ろに下がって。黒板の近くに」
ヤグチが左手で椅子を右手で私の肩を優しく掴む。
ヤグチが後ろに椅子を下げてくれて、私はその間ずっと肩に手を置かれている。そしておかれた手でポンポンと優しく肩を叩かれた。
「大丈夫だから」ヤグチが私にだけ聞こえるように言った。「描かれてる間目ぇつぶっとけば?誰もいないと思えばいいから」
そして下げた椅子に私をまた腰掛けさせた。
「…ありがとう」
「おぉ」
ヤグチが席に戻るのを見届けてゆっくりと目をつむる。
目を開けないでおこう。ヤグチが言ったように。みんなが描き終わるまで。
ざわざわというみんなの声は聞こえるが気にしない。
今音楽聴けたらいいのにな。そしたら何も考えなくてもすむのに。
「何してんのみんな」キタの声がした。
思わず目を開けそうになったが、誰かが開けろと言うまでは目は開けないでおこう。
「早くはじめてよ」キタが言うのでやっとみんなが静かになった。




