美術の時間 2
「え~~と」
と、前に出た私の肩を掴んでキタは私をみんなの方へ向かす。
そしてその横で話しはじめた。
「今日はデッサンをしてもらいます。みんな6B持ってるよね?じゃあ山根?教卓の上に立てる?」
私がモデルか!しかも教卓の上って!
「教卓の上はちょっと…」
「いや?」
「…はい」
「仕方ないな。じゃあこの机を一緒にどけて。あぁみんなはクロッキー帳と鉛筆用意しといてよ」
私はキタに教卓を一緒に持たされ、それを教壇の端に移動する。
「はい、じゃあこの椅子にかけて。みんな~、今日のモデルは山根です」
ああああぁ、と思う。
今日の呼ばれた中で最低最悪。
みんなの前で椅子に腰かけさせられあろうことかデッサンされるなんて。
自分の顔が紅くなるのがわかる。
誰の顔もはっきり見たくなくて誰とも焦点を合わせない。
「先生、」手を上げたのはハヅキモエノだった。
「横顔描きたいんですけど移動してもいいですか?」
私の横顔を描きたい?
なぜそんな事を言い出すハヅキモエノ。
が、キタは首を振った。
「あ~違うんだよ。山根を見ながらデッサンするんだけど、山根を描くわけじゃなくて、山根が見る夢をイメージしてそれを描く。きっかりイメージして描く。いい?」
良くない良くない。
みんなも「え~~」とあちこちで非難の声を上げる。
「先生」と今度キタを呼んだのは優等生のササキイズミさんだ。
イズミさんは53点。
ごめんイズミさん。優等生なのに低い点数付けて。
「先生」イズミさんは言う。
「デッサンて目に見えるものを描く事ですよね?」
「あぁそうだね」とキタが言う。
「山根さんが見る夢をイメージして描くんならそれはデッサンじゃないんじゃ…」
「デッサンなの」キタがいつになく強気で返した。
「抽象的な絵でもいいんですか?」
イズミさんはキタの強気なんか何とも思わずまた質問した。
「今の質問、」キタがみんなに向かって言った。「目に見えるものっていう事についてなんだけど」
美術室を見まわすキタ。こんなに喋る事も珍しい。
「そこに存在しているものが実際目に映ってものいると本当に同じわけじゃないんだよ。わかる?目に見えているものが、必ずしもそこにあるものだとも限らない。君たちがこれから描かなきゃいけないのは、『山根を見ながら君たちの目に見えたもの』って事だから」
キタの説明でより一層ざわつきは酷くなった。
止めて下さいと言う目でキタを見つめたが、キタは私の事を見てはいなかった。
「じゃあ始めてね」




