保健の時間は終わらない 3
パン、パン、と体育館に響き渡るくらい手を打って、田代姉妹が静けさを取り戻させる。
「なかなかな、体で感じた事は心の奥までは届かない」
もう一人も言った。「大事な事に気付いたら、その大事な事はもう何の役にも立たない、なんて事もたくさん」
2人とも話し方が急に変わった。語尾を延ばさず淡々と話す。まるで別人になったみたいに。
「後になってな、あ~あれがあったのは後でこれがあったためのものだったのか、とか気付く事もあるし、気付かない事もたくさんあるたぶん。何しろ気付かないんだから、それがどれだけたくさんあるかはわかんないけどな」
2人は交互に喋る。
「でもな、あぁしとけばきっとこうなったのに、とか、何であの時自分あぁ出来なかったのかって、くよくよ悩むような事がこの先あってもだな、それはもうどうしようもない事なんだ、と思って先に進め。実際どうにもならないし、お前らがいる今はすぐ次の今に行かなきゃもう今じゃなくなる」
「起こった事はもう起こった事で何かが出来なかったのは、その時どうやったったってできなかったんだ。自分に高望はするな」
「高望したいなら、普段から気を付けて常に最善を尽くせるようにする。
まぁそれはかなり難しいから、」
「やっぱりどうしても後になってあぁしとけば良かった、こうしとけば良かったって思うわけだ」
2人は交互に、まるで一人で喋っているかのようにしゃべる。
「それもまぁしょうがない。しょうがない事はこの世にはたくさんあるからな」
そこでチャイムが鳴った。
「何か深かったな」ヤグチが言った。「ていうかダンスがマジすげぇ。
ビックリだよな。田代リカとミカ」
私はそれには答えずムッとしてヤグチに言う。
「何であんな余計な事言うの?みんな私がどうこうしなくても、私の所に話をしに来るって桜井先生言ってたし!なんでみんなにあんな事わざわざ言うの?逆にみんな絶対私のとこに来にくくなったって」
どうしてくれるんだ全く。
「でもオレ部活もあるし」とヤグチが言う。「早く済ませたいじゃん。そうそう部活休めない」
「休まなくていいって!」
視線を感じて前を向くとツブツブと目が合った。私を手招きしている。
「ちっ!」とヤグチが舌打ちした。
ツブツブのところへ行きかける私に、ヤグチは止めて欲しいような大きな声で言った。
「飯食ったら昨日の階段のとこな」
「何か、あんまり助けて上げられなかった」とツブツブは言ってくれた。「ごめん」
「そんな…」私は恐縮してしまう。「すごく心強かったよ。ありがとう」
ツブツブはゆっくり首を振る。
「オレ、バス通に変えようかな。学校の行き帰りくらいしかゆっくり話せないのにさ」
言われて私は嬉しくなる。
私とゆっくり話したいと思ってくれているんだ。
「オレが出席番号、薫ちゃんの前だったら良かったな」
そんな事まで言ってくれるのか!私だってそう思うよ。
「昼休みヤグチと約束があるの?」
ツブツブが静かに聞いたので私は慌てて答えた。
「さっき言ってた話を聞くってやつで…サイトウ君の話を聞く事になってるんだよ」
「そっか。じゃあメールするから」
ツブツブは体育館の入口の近くにいるコンドウ君たちの所へ走って行った。




