高森の生物の時間 2
「私さ、」とハヅキモエノは言う。「ああいう濁った感じの水槽とかさ、
何かめちゃくちゃにかき回したくなるんだけど」
「え?」
「長めの棒でさ、かき回したくなるの」
急に何を言い出すんだハヅキモエノ。
同じグループの私達の前に腰かけている男子が、聞こえていない振りをして聞いているのか、こちらは見てはいないが3人とも動作を止めた。
「あ~そうなんだ」とつまらない返事をしてしまう私だ。
「あ~~」とハヅキモエノが言う。「かき回したい」
「止めた方がいいよ」と私は止める。
止めると言っても、本気で今ハヅキモエノが立ち上がって水槽をかき混ぜに行くとは思っていないけど。
「あの水槽、大きなカエルが入ってるらしいから」と
私は教えてあげる。
「カエル!」
ハヅキモエノが結構大きな声で言ったので、ざわざわ喋っていた他のグループの子たちがこちらを向いたがハヅキモエノは全く気にしない。
「見たの?」と私に聞く。
「見てないけど高森が言ってたのを聞いたの。黒い牛ガエルがいるって。卵産んでるって」
「うっわ、かき混ぜたいな~~」
ダメだよ。今卵産んでるって言ったじゃん私。
でもこんな風に「かき混ぜたい、かき混ぜたい」って、口に出していう子もめずらしいと思うけど。
「何か他にもかき混ぜたくなる?」と私もわけのわからない質問をしてしまう。
「なるなる」ハヅキモエノは目をキラキラさせる。
「ご飯の時とかさ、人の食べてる弁当とか、あとマック行ったときとかも人の飲んでるシェイクとか」
そうなのか…変な子だな。面白いけど。
だいたい濁った水槽と他人の弁当はつながらないように思うし。
「濁った池とかは?」と私は聞いてみる。
ハハハ、とハヅキモエノがまた結構大きな声で笑ってクラスの子たちがこっちを見て来る。
同じグループの男子3人もはっきりと興味を示し始めていた。
「山根さんて面白いね」
いいえ、あなたの方がよっぽど。
「山根さんて私の中では今88点になったよ」
「え!?」
「88点。私、山根さんの事好き」
前の男子が、特に理系の男子がピクッと反応したのを私は感じた。
ていうかあんたも点数付けてんのかハヅキモエノ!
私は頭の中で、自分の部屋の机の一番下の引き出しに入っている名簿を取り出し、ハヅキモエノの欄に記入する。
「ハヅキモエノ 汚い水槽をかき交ぜたくて
私のように女子に点数を付けている。」
偶然にも私がハヅキモエノに付けた点数と、ハヅキモエノが私に付けた点数が同じだ。ちょっと嬉しい。
というかだいぶん嬉しい。
いや女子だけじゃないのかも。
ハヅキモエノは男子にも点数付けてんのかも。
…どうでもいいな、そんなのどっちだって。




