なんかスムーズにいかない 3
女子の3分の1くらいは化粧をしているけれど、それは結構派手めな女子だけだ。ヤグチを好きなエダノノカとか、エダノノカと同じくらい派手なトリゴエユカとか。
ナナダハルミは本当に全然化粧なんかしてません、そんな事するの嫌なんです、ってキャラを押してそうなのに、うっすらわかるかわからないかの化粧をしている。
他の女子がそういう感じだったら、エダノノカとかトリゴエユカに少しキツく当たられるんだろうが、ナナダハルミの事はしかとしている。
たぶんちょっと怖い感じがするのを、女子の本能が感じ取っているのだろう。おとなしい感じなのに、大人と渡り合って行けそうな、したたかさを持っている感じのナナダハルミに。
「ねぇねぇ山根さん、」
ナナダハルミが生物の教科書類を胸に抱えながら聞く。「いつもどんな本読んでるの?すごいな山根さん。水本先生に褒められるなんて。他に好きな作家は誰?」
そんなにすごいか?水本に褒められるのが。思った通りナナダハルミは面倒くさそうだ。
サイトウの時のように、すぐにヤグチが話に入って来るかと思ったのに
ヤグチはこちらをチラとも見ない。
「私そんなに読まないよ」私は答える。
「え~うそうそ」ナナダハルミは嫌な感じで笑う。「夏目漱石で水本に褒められたのに?」
だから水本に褒められるのはそんなにすごいのか?
ナナダハルミは水本を好きなのか?
なんかあり得るな。
「どんな本読んでるの?普段」
しつこいなナナダハルミ。「あんまりちゃんとした小説なんか読まないよ」
私は冷たい感じで言ってしまう。
「ほとんど漫画ばっかり。さっき先生が言ってたのはたまたま家にあったからあれにしただけ」
「ふ~ん。ねぇ山根さん、帰りもオオツブライ君と帰るの?」
「え?」
急に話を変えたナナダハルミに驚く。私の声と同時にヤグチもこちらを振り向いた。
「ううん」私は首を振る。「約束してないけど」
ていうか何でそんな事を聞くの?
「約束してないけど帰るかも?」
そう聞きながらナナダハルミが私の顔を覗き込む。
さらにすごく嫌な感じだなナナダハルミ。
「わかんない」ぶっきらぼうに私は答える。
それにあんたには関係ない。
さっきより格段に冷たい感じを出したのにも関わらずナナダハルミは言った。
「帰るんなら私も一緒に帰りたいんだけど」
何それ?
ナナダハルミは水本じゃなくてツブツブが好きなのか?
「オオツブライ君もいっぱい本の話とか映画の話とかできそうだよね?
私も一緒にそんな話したいんだけどな」
相当気持ち悪いなナナダハルミ。
何て言うか…大嫌いだ。
「あ、いやゴメン!私今日は放課後、桜井先生のとこ行かなきゃいけないんだ」
「薫」とヤグチが呼んだ。
へ?私?私の事を今、薫、って呼んだ?
「ホラ、さっさと生物室行くぞ」
ヤグチは私が机の上に出していた教科書とノートを取って先に行くので、私も慌ててペンケースを持って後を追う。
「さっきも言ったじゃん!」
私はヤグチに文句を言う。
「邪魔しないでよ。さくっと話聞いちゃいたいんだから」
「え~でもお前すげぇ嫌そうだったけど?しかも話ってか逆にいろいろ聞かれてたじゃん」
「嫌でもさくっと終わらせたいの」
「悪かったな」ヤグチはすんなりと謝った。「でもオレ、何かイラついたし」
「嫌なら聞こえない振りしてよ。それか席から離れて」
「お前本当に冷たいな」
「けどさ」ヤグチは言う。
「もっとうまく相手が話したい事だけ聞いといて、自分に嫌な事を言われたら、そん時だけシカトすりゃいいんじゃね?」
そうか…っていうか私にダメ出しか!
「はいはい聞いといて適当に3,4人選べばいいんだろ?」
桜井と同じような事を言う。
「それで今日もオオツブと帰んの?」
何でヤグチもそれを聞く?
「…今日は桜井先生のとこ行く事にしてる」
「じゃあオレも行く」
「いいよ来なくて」
「何でだよ?」
関係ないから、と言おうとしてそれは止める。ちょっと酷い言い方のような気がしたからだ。
関係なくはないし。
けれど「オレたちコンビなのに」とヤグチが言うので、やっぱり言えば良かったと思う。




