↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
116/130

次の瞬間 2


 全部が全部、全てが夢なのだ。覚めればいいだけの話。

 でも今、私はこの夢から目覚める事は出来ない。何も思うとおりにもできない。うさんくさい。全部うさんくさい!

 ずっと腹は立っていたのだ。放課後に桜井の話を聞いた時からずっと。たかだか出席番号が最後だからって桜井に呼ばれ、キタにも目を付けられ、こんなわけのわからないことに巻き込まれて…

 ヤグチ…なんで来てくれなかったんだろう。今どこにいるんだろう。

 どこか別の夢に出ていて、私の事なんて全然考えていてくれてないのかもしれない。

 それか、夢さえ全然見ていないかもしれない。



 真っ暗闇の中、それでも首を左右に振って、本当に真っ暗闇であることを再度確認する。もちろん足元も、頭上も。

 夢だとわかっていても相当怖い。覚めない夢だから余計怖い。委縮する。うずくまって丸くなる。自分の手さえも見えないから、まるで私はただの『点』になってしまったように感じる。

 私の気持ちだけが真っ暗闇の中、点になって存在しているのだ。



 あぁもう…みんな大嫌いだ。

 ヤグチだけじゃない、ハヅキモエノも。それからツブツブも嫌い。

 桜井も嫌いだし、高森も気持ち悪い。フクロウが一番ムカつく。後、田代姉妹…

 桜井に聞いた話では、田代姉妹は戦士だって。暗い穴を持つものを助けるために戦ってくれる戦士のはずじゃないのか?

「田代せんせぇ~~~~」

顔だけを上げキョロキョロしながら声を張り上げてみたが、恐ろしい事に私の声は、私の前方2メートルくらいの所で、パタッと消えたような気がした。



 自分の声の行方を気にする私に、うなじに息がかかるくらいの距離で

「山根さん」と突然真後ろから声をかけられ、「ぎゃっっ!」声を上げてしまった。

「山根さん?大丈夫?」もう一度呼ばれる。

が、私は動けない。

「山根さん?」

もしかして…「ムラヤマさん?」

「うん」

やっぱムラヤマさん!この穴の中にいた!


 「大丈夫?」とムラヤマさんに聞かれる。

大丈夫じゃないよ!

「…大丈夫じゃない…けど、…ムラヤマさんは?」

「私はいいんだけど妹が…見たでしょ?山根さんも」

「…うん」

 「はぁ」とムラヤマさんのため息が聞こえ、私はやっと後ろを向く。が、もちろんムラヤマさんの姿は見えない。真っ暗闇だから。

「私の本当の妹は車いすにも乗れないの」

「え?」あの時確かに車いすに乗っていた。

「あれは願望なの私の。妹のあの、車いすに乗った姿は。妹は身体がとても弱いから、車いすに例え乗ったとしても自分であんな風に漕ぐ事はできないの。たぶんながい事ちゃんと座っとく事もできない。あの子は自分から穴に落ちる事も出来ない」


 私はムラヤマさんの妹が穴に落ちるところを頭の中で何回もリフレインする。

 ためらいもなく暗い穴に落ちて行く、車いすの小さい妹。

「私、妹の事が怖い」ムラヤマさんの声が私に言う。「妹はきっと平気だと思ってる」

「平気ってなんの事?それよりも」私は気にかかっている事を聞く。

「ムラヤマさんは私の事が見えてるの?」

「見えないよ、真っ暗だから」

「…なのに…なんで私だとわかったの?」

「見えるから」

「真っ暗って言ったじゃん」

「でも見える」

怖っ…

ムラヤマさんの前から消えたいな。

「怖い?」と聞かれビクッとする。

「…怖いよ」

「そっか」

何かしみったれた会話だ。

私は聞いてみる。「それは目が慣れてきたから見えてるって事?」

「ううん。感覚で」

怖っ!

 もしかしたら「ムラヤマさん」なのはこの声だけで、ムラヤマさんはここにはいないのかもしれない。



 ヤグチっ!!と私は心の中で叫ぶ。助けて!

「山根さんももしかして見えないの?」暗闇の中で聞かれる。

「…見えないよ」声が震えてしまう。

「そっか。山根さんて兄弟いるの?」

ムラヤマさんの声はいつも通り落ち着いている。

「…いない。一人っ子なの」

「…そっか」

 私は保健体育の時間にムラヤマさんが話した事を思い出す。

 身体に生まれつき疾患のある双子の妹がいて、それをムラヤマさんは自分のせいじゃないかって思ってたけど、もしかしたらそうなるのが自分だったかもって思ってて、でも自分は今自分でいる事が不思議な感じがするって。

それで、普通でいられる事が幸せだと思っているって。そういうような事を言っていた。

 私はそれを聞いて泣きかけて、田代姉妹は実際ぐすぐす泣いていた。田代姉妹はムラヤマさんの心を知っていたからだろうか。



 「山根さん…私自分だけここから出たい。妹の事なんてどうでもいい。実際ちゃんと話をした事もないし。生まれた時からずっとしゃべれないから」

そんな事言われても本当に何て答えればいいのか分からない。

 私だってここからすぐ出たいよ。自分だけ出たい。ムラヤマさんもムラヤマさんの妹の事も『知らない』で済ませたい。


 あっ…

 私は見つけたくないものを見つけてしまった。

 ムラヤマさんがいるはずの、その向こうの方に赤く鈍く光る点が2つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。