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次の瞬間 1



 助けてヤグチ…助けて…

 私は鞄からケイタイを取り出す。

 ヤグチの番号を出して発信の操作をするのに、私の指は急激にバカになって、なんどやってもヤグチにはかからない。

ずっと、ツー、ツー、と言い続ける。

 あるある、こういうの前見た夢でもあった。母さんにどうにかして連絡を取らなくてはいけないのにどうやっても途中でキーが押せなくなってしまう夢。

「嫌だ!」と叫ぶデガワさんをしり目に私はヤグチに発信するが、本当に何度やってもつながらないのだ。

 そしてケイタイの充電が切れた。



 デガワさんがドアに向かって駆け出した。

「デガワさん!」

行って欲しくないので叫ぶ。ここに一人にされたくない!

「待って!デガワさん!」

が、デガワさんがドアから思い切り叫んだ。「助けて!!」

 …そうだよね。助けを呼べばいいんだよ普通に。

 私もドアから思い切り叫ぶ。「助けて!!」



 私が待っているのは『次の瞬間』だ。

 今のこの場面、消えてなくなって!私は次へ行きたい!そう思った次の瞬間、デガワさんが消えていた。

 あぁ…

 絶句する私。一人になってしまった。



 振り向くと穴がある。若干、さっきよりも広がっているような気がする。

 そして私はこの場から逃げることが出来ない。

 なぜなら穴に吸い込まれそうになっているからだ。穴は広がったり縮んだりして、周りの空気もろとも私を吸い込もうとしている。

 そしてその吸い込もうとする穴の力は一挙に強まって、私は満身の力で教室のドアを掴む。

 ガシッッ!!

 が、非力なドアは大きな音を立てて恐ろしく簡単に外れ、瞬時にドアの脇の柱を掴み直した私よりも先に、あっという間に穴に吸い込まれて行った。



 「覚めろ!」と私は柱に抱きつきながら叫ぶ。「目ぇ覚めろって!!」

 ダメ!吸い込まれる!!

 スカートのポケットから、ここぞと思って何とか片手でフクロウの入った黒い箱を取り出して叫んだ。

「出て来てっ!出て来てフクロウっっ!!」


 が、箱はカタとも反応しない。

 片手だけではしんどいから箱を床に箱を叩きつけるように手放してしまう。

「出て来てっっ!!」

もう一度叫んだが、恐ろしい速さで、スワッ、と箱は一瞬で箱の中に吸い込まれていった。



 使えねえ!!

 あのフクロウ使えねぇ!ありえん、高森、あんなフクロウよこしやがって!



 バサッ!!

 …え?フクロウ?


 真っ黒な穴の中から灰色のフクロウが飛んで出て来た。

「遅いよ!」フクロウに向かってなじる。

フクロウが私のすぐそばを、穴の吸い込もうとする風に逆って、驚異的な力を見せて思い切り大きな羽をバタつかせて飛ぶ。

 羽根、強っ!!

 1回どこかへ行きかけて、また戻ってきて、私の前で一瞬小首をかしげるようにして目をクリっとさせてからそのまま廊下の向こうへ飛んで行ってしまった。


 …

 飛んで行ってしまった!!

 マジか!飛んでいくとかあり得ない!あり得ないし、ホントに使えない!

 あんなに使えないんなら、あんなゴツゴツした箱

スカートに入れとかなきゃ良かった。

 高森なんか信じなきゃ良かった!そんなに信じてなかったけど!



 また吸い込む力が増した。

 ことごとく教室中の机がガタンガタンと音を立ててぶつかり合いながら

真っ暗い穴に吸い込まれて行く。

「ヤグチぃっ!!」声を限りに叫ぶ。「ヤグチ!出て来て!ヤグチぃ!」私の声も吸い込まれていく。

「いやぁ…あぁ…!!」

 手が柱から外れた。


  

   ★     ★     ★     ★     ★



 3回だ。私は3回も一からやり直せたのに…

 結局穴の中に吸われてしまった。バカだ私。

 ヤグチもいないし、ハヅキモエノもいない。フクロウもどこか行ってしまったし、あんなに次の瞬間、次の瞬間、て変わったのに結局最後はこれか。

 真っ暗闇だ。



  ★     ★     ★     ★     ★



 ヤグチもハヅキモエノもいないけれど、ここにはたぶんムラヤマさんとムラヤマさんの妹がいる。…はずだ。

 私より前に落ちて行ってたし。


 …でもぶっちゃけた話、私は二人を捜したくはない。

 ムラヤマさんとはほぼ話した事はないし、ムラヤマさんの妹まで出て来て、穴に落ちて行ったのを見てしまったけど、、それを私がどうにか助けたりとか出来るものじゃない。

 私は非力なのだ。ここがすごく怖い。怖いし何も見えない。私には二人を助けることは出来ないのだ。自分さえも救えないのに。



 むかし、私が小さい頃お母さんが言っていた。

 人見知りでなかなか自分の意思を人に伝えられないから、人のいいなりになったり、仕事を押し付けられてたりする私にだ。

「自分に普通に与えられた仕事が滞りなくやり終えて、まだ力が残っているんだった人の手伝いをしてあげなさい。考えてごらん?どんくさいあんたより、たいがいの人は自分だけで自分の事はなんとかやり終えられるんだから。あんたよりよっぽどうまくね」



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