やたら電話が 2
サクラちゃんとの電話が終わった後1分もたたないうちに着信が鳴った。ミノリちゃんだと思ったのにツブツブだった。
ツブツブ!まさか電話くれるとは。
…なんかちょっと出たくないんだけど。何喋ればいいかわからないから。
どうしよう…出るの止めようか…
出てしまった。
出ないときっと明日気まずいし。
「薫ちゃん」と呼ばれる。
「はい」
「何かうれしいな。『はい』って答えられるの」
「…」
「ごめん。変な事言って」
「ううん」さっきハヅキモエノも同じ事言った。
「メール見たんだけど…やっぱちょっと心配だったから」
「ありがとう」
「今日はずっと先生たちにもからまれ気味だったみたいだし」
「…うん」
「帰りヤグチと一緒だったんだね」
「うん。でもハヅキさんも一緒だったよ」私は強調するように言う。
「オレね、薫ちゃんはヤグチとか、ちょっと苦手なのかと思ってたよ」
「うん。そう思ってた時もあったけど…」
言いながら私は、ヤグチとこの部屋に二人きりになった時にも、ヤグチの声を耳元で聞いた時にも、さほど気にならなくなっていた2回のチュウの事をまざまざと思い出した。
それで慌てて言わなくても良い事まで付け足してしまう。
「向こうも中学の時、私がずっと睨んでたと思ってたんだって。私睨んだりしてないのに」
「そうなんだ。中学の時から薫ちゃんの事気にしてたんだね。でもヤグチ、今よりもっと派手でやんちゃな感じだったよね」
「…うん」
「ヤグチ…薫、って呼んでたね」
「…うん」
ヤバい。『ヤグチ』ネタから話を反らしたいが何も思いつかない。
どうしよう話が途切れる。
「ハヅキさん…と私今日初めていろいろ話をしたよ」
よりにもよって元カノ、ハヅキモエノの話を振ってしまったのはどういうわけだ私。
「イメージ的にあんまり誰とも話すのが好きじゃない感じかと思ってたけど
そうじゃないのかも。今日いろいろ助けてくれた」
「そうなんだ」
うわ、ツブツブの方も話途切れそうな感じがするけど。
「ハヅキさん…」私は何だってハヅキモエノの話題を掘り下げる!
「さっきも電話くれたんだよ」
「ハヅキが?」
「うん。心配してくれて」
私はツブツブがメールしてると言っていた「お姉さん」が、本当はハヅキモエノなんじゃないか聞きたい衝動に一瞬駆られたが、もちろん聞きはしない。
「そっか…ハヅキはきっと薫ちゃんの事が…薫ちゃんが困ったら悪いから
言おうかどうか迷いながら言うけど、凄く好きなんだろうな。その…友達っていうよりは…人間として?」
「うん」私はちょっと笑ってしまう。「まさにそう言われた。困らなかったよ。嬉しかった」
「そっか、言ったのか。いいな、ハヅキ。嬉しかったとか言われて。もしオレが同じ感じで…」
「あの!ありがとう」話を遮るように私はお礼を言った。「ユウリ君も電話くれて、ありがとう」
「いや、本当は一緒に帰りたかったから、今日も」
私は少しドキドキする。ツブツブに好きだと思われていたら嬉しいんだけど、、でも今好きだとか言われたらどうしていいかわからない。
だってヤグチにチュウされたのに。そしてそれが嫌じゃなかったのに。
続けて聞かれる。「明日は?用事ある?」
「明日も居残りなの。桜井先生に言われたやつ、今日終わんなかったから」
いつ終わるのかわかんないけど。
「保健の時間にも言ってたよね。ヤグチと一緒にどうの、ってやつ。アレ関係あるの?」
「あ、うん、でも3人で!ハヅキさんとヤグチ君と3人で居残りなの」
「…そっか、オレが薫ちゃんの前の席だったら良かったな。出席番号、オレが薫ちゃんの前だったら」
その後ミノリちゃんからも電話が来た。
一晩にこんなに電話をもらったのは生まれて初めてだ。
「薫ちゃん?」心配そうなミノリちゃんの声。
「メールありがとう」と私が言うとやっと安心したように話し始める。
「電話くれてたから何回か電話するのに薫ちゃん電話中だ、し今日は何ちょっと薫ちゃん、雰囲気違ったから心配したよ~」
「ありがとう」本当にありがとう。「今電話来てたんだ。サクラちゃんと、後ハヅキさんとかから」
「そっか~。サクラも心配してたもんね。良かった。声聞いたら安心したよ」
そう言ってくれて私の心はとても温かくなる。
と、同時に私はとても怖くなる。私が今置かれている変な状況をミノリちゃんとサクラちゃんが知ったら、私が放課後に見た私の暗くてどうしようもない心の闇をミノリちゃんとサクラちゃんが知ったら、
…どうするんだろうか二人は。




