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15の春 未来を奪われた私達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く ―真奈side―  作者: 汐野悠翔


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22/22

電話越しの再会

「真奈、お前のスマホ鳴ってない?」


「え?」



10時を過ぎた頃、工場の隅に置いていた鞄から、着信を知らせるメロディーが流れてくる事に気付いて、慌ててスマホを取りにいく。


ディスプレイに表示された名前を見て、私は鼓動が早くなるのを感じた。



「………すみません。ちょっと、電話出てきて良いですか?」


「ん? あぁ、行っておいで」



私の反応から何かを察したのか、橘さんは優しい笑顔を向けながらそう言ってくれた。



「ありがとうございます」



私は橘さんに軽く頭を下げると、賑やかな機械音が響く工場から、静かな事務所へ向かって駆け出した。



「もしもし……」


『あ、俺、祐樹だけど』


「………沢田君」


『ゴメンな、こんな時間に。もしかして、寝てた?』


「ううん、大丈夫だよ」


『……そっか。なら良かった。俺、今桜井からの留守電聞いたんだけど、それ聞いたら、居ても立っても居られなくなって』


「折り返してくれてありがとう。本当はね、直接会って伝えたくて、東京駅まで行ったんだけど……」


『えぇっ?』


「間に合わなくて、それで留守電に入れたの」


『桜井、来てくれたんだ。そっか……来てくれてたんだ』


「あの留守番電話の言葉がね、今の私の精一杯の気持ちなの。ゴメンね、今は行けなくて……。だけど、いつか必ず……」


『待ってる。俺達は、待ってるよ。桜井の事、信じて待ってる』


「沢田君……私の事、もう一度信じてくれるの?」


『信じるよ。大丈夫。君ならきっと大丈夫。根っこの所は何も変わってない』


「……え?」


『馬鹿みたいに真面目な所。真面目だからこそ自分に厳しい所。そんな君だからこそ、俺達は信じて待ってる』



優しい沢田君の声。

その声に混ざって、遠くからざわざわと数人の騒がしい声が聞こえて来た。



『おい沢田。こんな時間に彼女に電話か~?』


『お前ら?! どうして……』


『祐樹の怪しい行動が気になって。お前、彼女出来たならちゃんと俺達に報告しろよなぁ』


「? 沢田君? どうしたの?」


『ゴメン。うるさい奴らが来たから、電話切るな』


「え?」


『ちょ~っと待った! そうはさせるか! その電話、俺達にも代われ!』


『何言って……』


『お前の彼女に、俺達も挨拶しないとな』


『彼女じゃないから。 挨拶もしなくて良いから。酔っぱらいどもはあっちで大人しくしてろ ……って、あぁ~、コラ、 返せ、俺のスマホ返せー!』



沢田君の焦ったような怒鳴り声が、電話越しに遠くに聞こえた。


かと思うと――



『どうも~祐樹の中学時代の友人で、安藤って言います~、宜しく!』


「っ……」



電話口から聞こえて来た懐かしい名前に、私は思わず息が止まる。



『もしも~し。あれ?』


『安藤! お前、いい加減にっ』


『なんか、無言になっちゃったんだけど』


『そりゃ知らない奴が急に電話に出たら誰だって驚くだろ!』


『そうか?』


『そうだよ!ったくお前等は……良いから早く電話返っ………いやちょっと待て』



不意に電話の向こう側が静かになる。



「……沢田君?」



不安になって沢田君の名前を呼ぶ。


けれど、返ってくる言葉はない。



「???」



どうしたら良いのかあたふたしていると、急に“プツン”と電話が切れた。



「……え?」



私はわけが分からず暫く呆然と立ち尽くした。



「真奈? まだか~?」



工場から橘さんが私を呼ぶ声が聞こえてはっとする。



「あ、はい。今行き……」



橘さんの催促に、そう返事をしようとした時、また私のスマホが着信のメロディーを奏で始める。



「すみません。もう少しだけ。終わったらすぐ行きます!」



改めて工場に向かってそう叫んだ後で、慌てて電話に出た。



「もしもし」


『あ、ゴメン。さっきは突然切って』


「ううん、大丈夫。それより、安藤って……あの出席番号一番だった安藤君? もしかして今って、皆そこにいるの?」


『うん、いるよ』



沢田君から帰って来た言葉に、心臓がドクンと大きく跳ねる。



「あのさ、今から皆と電話代わっても良いかな?」


「えっ?! そんな、私……まだ心の準備が……」



沢田君からの思いもしなかった言葉に戸惑う私。



『大丈夫。電話の相手が誰か、あいつらは知らない。君は何も話さなくて良いから。ただ、皆の声を聞いててくれるだけで良いから……。それでも嫌か?』


「…………」


『……』



もしここで断ったら、今までの自分と何も変わらない。


この先ずっと、弱虫なまま、何も変えられない。


そんな気がして、私は覚悟を決める。



「分かった……」


『ありがとう』



その言葉を最後に、沢田君の気配が電話口から消えた。



怖い……


怖い…………


皆の声を聞くのが、怖くて仕方ない。


不安と恐怖に心臓が早鐘を打って、今にも逃げ出したい気持ちで泣きそうになった。


そんな私に



『大丈夫だよ』



電話の向こうから聞こえてきたのはそんな優しい声。



『大丈夫』


『大丈夫、大丈夫!』



懐かしい旧友達が、代わる代わる紡いでいく『大丈夫』の短い言葉。


でも、この短い言葉が私の中で力強い言葉として心に響く。


そして聞こえてくる声に、一人一人の中学時代の顔が自然と頭に思い描かれて、気付くと私の頬に一雫の涙が流れ落ちていた。


皆、5年前と変わってない。優しく、温かくて……


私は、そんな皆が大好きだった。


皆と過ごしたあの町が、大好き。


会いたい。


また皆に会いたいよ。


会いたい……


頑なに隠してきた私の本音が、素直に溢れ出す。


会いたい……



『もしもし』



その気持ちにとどめをさすかのように、私の耳に聞こえてきた懐かしい人の声。



『詳しい事情は何も分かんないけどさ、強くなりたいって苦しんでるって、祐樹に聞いた』



……浩太?



『そんな君に、俺のモットーを教えてあげる』


「……」


『今を全力で楽しめ!』


「……」


『色々と難しく考えないでさ、自分の素直な気持ちに従えばいいんだよ。今っていう時は一瞬しかないんだ。その一瞬一瞬を後悔のないように、全力で向き合うんだ。そしたらさ、自ずと結果はついてくるんじゃないかな。大丈夫。怖い事なんて何もない。大丈夫、大丈夫!』


「…………」



久しぶりに聞いた浩太の声は、私が知っているものよりも少し低くて、それは大人の男の人のものだった。


けれど、浩太のモットーだと教えてくれた言葉は、あの頃の浩太の姿と重なる。


変わってない。


浩太もまた、何も変わってない。


あの地震で浩太だってきっと、辛い思いを沢山しただろうに、浩太は何も変わってない。


昔の、まっすぐな浩太のまま。


あぁ、やっぱり私、浩太のことが好きだ。


能天気で、自信家で、眩しいくらいまっすぐな浩太の事が……今もまだ、あの頃と変わらないくらい大好きなんだ。



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