暗闇の中、呼ぶ声に導かれて
本作を開いていただき、本当にありがとうございます。
この物語は、前作『15の春 未来を奪われた俺達が絶望の中見つけた希望は○年後に花開く』のヒロインである「真奈」の視点から描かれる、もう一つの対の物語です。
前作を読んでくださった方には、あの日の裏側にあった真奈の葛藤や想いの答え合わせとして。本作から初めて読んでくださる方にも、一つの独立した「震災からの再生の物語」として、単体で最後まで安心してお楽しみいただけるよう作ってあります。
――すでに【完結まで全編執筆済み】です。
本日から毎日、定時更新で一気にお届けしていきますので、少年少女たちの止まった時計が再び動き出す瞬間まで、どうか一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、第1話をお楽しみください。
――体が重い……頭がぼ~っとする……私、どうしちゃったんだろ?――
「桜井さん。お母さんがお迎えに来たわよ。明日の卒業式に参加したいのなら今日は大人しく家に帰って、安静にしてなさい」
保健の安田先生が優しく笑いながら私にそんな言葉をかけている。
あぁ、そうか。卒業式の練習で体育館に行こうとしてた所を、担任の杉崎先生に無理矢理保健室に連れて来られたんだ。
そうか、私、中学の卒業式を明日に控えた大事な日に風邪をひいて……早退するように言われたんだ。
そしてお母さんが丁度迎えに来てくれたんだ。
「さぁ、真奈。行きましょうか」
お母さんの言葉に私はコクンと頷くと、ヨロヨロと覚束ない足取りでお母さんの背中を追いかけた。
「……お母さん?」
前を歩くお母さんの歩みが早い。
一生懸命追いかけても、なかなか追い付けない。
「待ってよお母さん。私、体が重たくて……そんなに早く歩けないよ……」
私は必死に前を歩くお母さんに訴えかけた。
けれど、お母さんはそんな私を心配して振り返る気配はなかった。
「…………お母さん?」
お母さんの様子がいつもとどこか違う?
そんな気がして私は歩みを止めた。
「お母さんっ………」
再度呼び掛ける。
何度目かの呼び掛けでお母さんはやっと立ち止まって、こちらを振り返る。
ニッコリと浮かべられた優しい微笑みに、あぁ、いつものお母さんだと安堵した。
様子がおかしいと思ったのは、自分の気のせいだったのだと、私はまた一歩踏み出しかけた時――
「真奈っ!」
後ろから、私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がして振り返る。
「……あれ?」
振り向いた瞬間、さっきまで学校の廊下を歩いていたはずの景色は、何故か急に薄暗く、何処か不気味な景色へと変わっていた。
「ここ、どこ?」
私はキョロキョロと辺りを見回す。
よくよく目を凝らしてみれば、目の前の薄暗い空間に、一本の細い道がぼんやりと白く浮かんで見える。
どんなに辺りを見渡してみても、その道以外は何もない。そんな不思議な空間。
不意に“薄気味悪い”、そんな感覚に襲われて、お母さんの後を追いかけていた足がすくむ。
「真奈っ!!」
そこに再び聞こえてきた私を呼ぶ声。
この声は……誰?
声は聞こえてくるのに、いくら辺りを探しても誰の姿も見当たらない。
やっぱり気のせいなのだろうか?
仕方なく私は、声の主を探す事を諦めて、再びお母さんの後を追いかけようと、また一歩足を踏みだしかけた。
その時――
「行くなっ!」
「……え?」
強い口調で、再度後ろから呼び掛けてくる声。
私はびっくりして、踏み出しかけていた足を再び止めた。
「行っちゃダメだ。行くな、真奈っっ!!」
誰? 私を呼び止めるこの声は――
「……浩太?」
声の主として思い浮かべたのは、私が想いを寄せていた幼なじみ、佐々木浩太の顔だった。
なんて、ううん、まさか。そんなはずはないか。
だって私は、今年のバレンタインに告白して、一度浩太にフラれたのだから。
あの日からずっと、浩太に避けられ続けているのだから。
思い浮かんだ声の主に、浩太であるはずがなかったと、自身を納得させようと首を振る。
「真奈っ!」
なのに……もう二度と浩太が私の名前を呼ぶ事なんて、ないはずなのに……やっぱりこの声は浩太の声だと心が叫んでいた。
「浩太? ねぇ、浩太なの? いったいどこにいるの?」
キョロキョロと、辺りを見回すと、再びぼんやりと学校の廊下が見えてきて、その廊下から必死に私に向かって手を伸ばす人物の姿がぼんやりと見えてきた。
その人の姿を視界に映した私の心臓がドクンと大きく跳ねるのを感じた。
あぁ、やっぱり、声の主は浩太だったのか。
でもどうして? どうして浩太はそんなに必死になって私を呼んでいるの?
理由はどうあれ、また浩太が私の名前を呼んくれている。その事実がうれしくて、思わず笑顔が零れた。
そして、浩太が必死に差し出してくれる手に向かって、私もまた、手を伸ばした。
手を伸ばしながら「浩太」と彼の名を呼んだ瞬間、目の前が眩しい程の光に襲われて――
「先生っ! 先生見て下さい! 患者さんの意識が……」
(……ここは?)
先程までの薄暗く、気味の悪い空間はもうどこにもなく、眩しいほどの照明に照らされながら、見知らぬ人々が数人で私を見下ろしている。
(……だ……れ?)
その記憶を最後に、私は再び記憶を手放した。




