国葬の後で
国葬から三日後。
藤堂家のティールームに、十二人の名家の婦人たちが集まっていた。
全員、五十歳を超えてるはずだが、私より若く見える。どうなってるんだこの国。
父?――藤堂直樹の国葬からそんなに時間がたってない。
正直、かなり疲れていた。
弔問客が本当に十万人来た。
テレビ中継までされていた。
棺の前で泣き崩れる女性を見て、私は途中から感覚が麻痺していた。
父は有名人だった。
知っていた。
でも、あそこまでとは思っていなかった。
テーブルには日本から届けられた超高級スイーツの山。
そして、干し柿の山
帝国ホテルやヒルトンと同じぐらいかな。
「直樹様、干し柿好きでしたものね」
年配の婦人が微笑む。
別の婦人が懐かしそうに言った。
「私、一度いただいたことがあります」
「まあ、あなたも?」
「ええ。二十歳の頃でした」
そこから、一気に空気が柔らかくなった。
「私は羊羹でしたわ」
「私は柿羊羹」
「ずるい」
くすくす笑いが広がる。
静香(姉)はティーカップを持ったまま、ぼーとしていた。
国葬の後なのに。
みんな、思ったより暗くない。
いや、違う。
悲しんではいる。
でも同時に、どこか誇らしそうなのだ。
「本当に優しい方でした」
「ええ」
「話を聞いてくださるのよね」
「そうなの。あの方、ちゃんと目を見て聞くの」
「男の方なのに」
「そこ?」
また笑い。
静香(姉)は少しだけ救われた気分になった。
父の話を、みんな嬉しそうにする。
それが嬉しかった。
やがて、一人の婦人が扇子を閉じて言った。
「実は、初恋でしたの」
静香(姉)は危うくお茶を吹きそうになった。
「まあ、あなたも?」
「ええ。十八の時に一度だけ」
「わかります」
「わかる」
「わかりますわ」
同意が多い。
多すぎる。
「でも、行為は初体験だけでしたの。皆様そうでしたけど」
「他家の方が羨ましかったですわ。特に東北のあの方、強引に5回も」
「お子を成すまで引きませんでしたから」
「それ、かなり羨ましいですわ」
「私たちは直樹様の子では死ねませんでしたからね」
「他所の家なら伝えずに済みますけど、私たちはバレますもの」
静香が思わず顔を上げる。
「え?」
「ご自分の行為で、私たちが死んだら、悲しまれる方でしたから」
「最後は、美里さんが抜け駆けしましたけど。」
「あの方、30年こじらせてたから。初体験は直樹様って譲らなっかったし」
「私も行けばよかった。後悔してますわよ、今でも」
「私たちはマッサージだけでしたからね」
「代わりにお茶会はたくさんできました。肩も良く揉んでいただけましたし」
「私ならそちらの方が嬉しいかもしれません」
「直樹様、按摩がお上手でしたものね」
「お風呂、ご一緒するのにドキドキしたり」
何なの、この空間。
父の肩もみ性能について婦人たちが真剣に語っている。
静香は頭が痛くなってきた。
しかも全員、本気だ。
「写真みました。日本の前世の直樹様も素敵でしたわね」
「穏やかで、優しそうで」
「静香さんを大事にされていたのが伝わりました」
「本当に」
「娘さんも立派ですし」
「産婦人科。子を死なずに産める医術を修めておられるのですよね」
「本当に素晴らしい。亡くなられてまで、この様な素晴らしいご縁をつないでくださった」
静香(姉)は少し照れた。
静香(妹)が突然声をあげた。
「そうなんです。お姉さまはすごいんです。何でも知っているんです。生まれる前に男の子か見分けたり、子が生まれる時間を予測したり、痛くない様に取り上げたり、お乳のあげ方、赤ちゃんの寝かしつけ、体に良い食べ物、赤ちゃんが病気にならない薬……」
静香(妹)の独演は続く。
私は気恥ずかしくてお菓子に逃げていた。
この時、もっと真剣に聞いとくべきだったと後悔してる。
「やはり産婦人科病院は必要です」
「絶対に必要ですわ」
「出産を女性個人に任せすぎていました」
「衛生管理も、新生児管理も、遅れていた」
「死亡率が下がれば、出産忌避も減ります」
「男の子も病気にならないんでしょ」
「素晴しい」
「どれぐらいの大きさで建てましょうか」
「病室は100は欲しいわね」
「どれぐらい入院するの?」
「2か月以上で」
「だったら100では足りないでしょう」
「お部屋、住み込みも必要だから最低でも50,出来れば80㎡ほしいわね。」
「プールと温泉もあると嬉しいわ」
「ティールーム。最低でも5つくらいは」
「院長は誰が適任かしら」
「静香ちゃんが良いと思うの」
「若すぎないかしら」
「私も静香ちゃん。可愛いし。」
「可愛いは正義よね。静香ちゃんに私も一票」
「何かあったら私たちが助けになれるし」
――ああ。
これ、邪馬台国に新しく病院を建てる話なんだ。
とんでも無いスケールの話になっている。
御婦人方の悪のりがひどい。
静香ちゃんが泣きそうな顔でこっちを見ている。
日本で出産して以来、彼女は医療制度改革派の象徴みたいになっていた。
本人はそこまで大層なつもりはないのに。
でも、やっぱり、
可愛い。抱きしめてヨシヨシしたい。
静香(妹)
「お姉様。ごめんなさい。こんな大変な話になっちゃって。」
私
「大丈夫。私も手伝うから。皆で頑張ろう」
静香(妹)泣きながら抱き着いて
「お姉様、ありがとう。一人だと不安で、お姉様がいないと私だけじゃ不安で不安で…」




