娘達
この国では、子どもは5歳で学校に入る。12歳で終わる。
8年間の間に、すべてが詰め込まれる。
私(紫、12才)は、豆と野草のクロレラシチューを最後の一口まで飲み干した。雑穀パンも残さない。残したところで、明日の給食が増えるわけでもない。
隣で茜が匙を置く。向かいの緑はもう食べ終わっていた。
響子だけがまだ食べていた。ゆっくり、よく噛んで。
「響子、遅い」
「噛んだ方が体にいいんだって」
それだけ言って、また噛む。
この四人の中で、本当に頭がいいのは響子だけだと思う。私には絶対わからない種類の頭の良さだ。
放課後、四人で教室に残った。
黒板には今日の宿題が書いてある。
2元2次連立方程式、100問。
「先生は魔王か」
緑が呟く。誰も否定しない。
「子どもがいないから私たちがその代わりって、冗談じゃないよね」
しばらくして、茜が鞄の中をごそごそと探り始めた。
写真だった。
男の人だ。十五、六歳くらいかな?
「おばさんの部屋から持ってきた」
「怒られるだけじゃ済まないよ」
私は小声で言った。
四人とも、黙って写真を見ていた。
響子が静かに言った。
「優しそうな顔してる」
誰も何も言わなかった。
廊下で先生の足音がした。茜が素早く写真を鞄の奥にしまう。
四人とも、何事もなかったように鉛筆を動かし始めた。
来年になれば、私たちは離れ離れになる。
農村で、森で、工場で。
響子だけは上の学校に行けるかもしれない。
私は無理だ。茜も緑も、たぶん無理だ。
だから今年だけだ。こうして四人で、宿題をしながら、怒られそうになりながら、くだらない話をできるのは。
私、茜、緑の3人は3子姉妹、産んだのは茜のお母さん。3人の母親同士は従妹。響子だけ違う。
よくある話だ。子どもを産めるのは珍しいことだし、自分だけで何人も育てるのは大変だ。
そして、私たちも同じ約束をしている。誰かが子供を授かったら皆で一人ずつ育てると。
鬼女訓練校
ゴム刀がアヤナの手首を打った。
じん、と痺れが走る。アヤメの小手が決まったのだ。
アヤメがゴム刀を下ろす。
アヤメは手首を押さえうアヤナに言った。
「2つ前にそのまま顔打ってたらアヤナの価値だったよね」
「ごめん。」
「アヤナはいつもそう。技術も眼も良いのに、手加減出来ない時は打たないよね」
「だって、こわい。アヤメが怪我したらいやだ」
「実戦だったらアヤナが死んじゃうんだよ。ゴム刀なら大けがしないから」
「戦うの好きじゃない」
隅でユキが防具を外しながら、話題を変えて聞いている。
「もう少し、男の人が増えたら私たちにも機会あるのかな」
アヤメが遠くを見るような顔をした。
「無理でしょ、名家の姫とは言わないけど。せめて普通の娘に生まれたかった」
「護衛任務なら男と会えるかな」
ユキが呆れた顔をした。
「またそれ。私たちが男の人の護衛なんて、国が終わる時よ」
「でも、チューぐらいしたいじゃん」
「男の人とお肉ならどっちがいい」
「どっちも」
「男の人が作ってくれた肉料理食べてエッチする。死んでもいい」
「夢みたいなこと言わないでよ」
「そんなのあるわけないでしょ」
「死ぬまでにやりたい十のことの、十一番目だわ」
「一度でいいから恋がしたい。触れ合いたい。お肉は我慢できる」
藤堂家の応接間。
年配の女性が、四人の若い女性を前にして話している。
「皆さん、国はどうして滅びるのかご存じですか」
誰も答えない。
「男性が少ないから滅びるのではありません」
「私たち名家の女が、子を産むことをためらった時が、滅びの始まりなのです」
四人は黙って聞いていた。
「歴史を思い出しなさい。朝鮮、ビルマ。男が産まれないから滅びたのではありません」
一呼吸置く。
「男を産まないから滅びたのです」
名家の女は1/3が出産で死ぬ。
静香
(名家の姫に生まれた者の義務なのだ。お母様が命と引き換えに私を産んだように。)
名家に生まれるとは最も過酷な運命なのだ。




