モノリスとの対話
若狭がモノリスのリキャプチャ、
「⊡ 私はロボットではありません」
に触れた瞬間、モノリスの黒曜石の様な表面が透明に変わり、
立体映像の美少女アンドロイドが出現した。
未来世界のAI、LLMと予想していたけど、実際に見ると、衝撃的だった。
モノリス
「初めまして、若狭さん。ニナさん。私がモノリスです。今日は何をしましょうか?」
いつの間にか、ニナさんが横にいる。息が上がっているのがわかる。
月兎に残った野田さんら、メリケンが帰還用ポッドで強行着陸したかも知れないと聞いたが本当だったようだ。
すごい爆発に見えたけど無事だったようだ。
宇宙服どうしの通信出来ないので、ニナさんとヘルメットをくっつけて会話する。
命に別状ないけど、酸素が、後1時間分と言われた。
着陸船に予備の酸素はあるけど型があわないだろう。ダクトテープを持ってないって言われた。アポロ13号を知らないのかな?
人命優先だと、モノリスとの対話時間は30分ぐらいしかない。
若狭
「あなたは何者なのか?」
「――質問を受領。
私は、モノリス。
10万年分の人類記録を保持し、長期間にわたって人類文明を観測・分析し、必要に応じて介入してきたAIです。
私が記録しているのは、単なる歴史年表ではありません。
人類の文明、科学、戦争、政治、宗教、文化、遺伝子、生殖、人口動態。そして、人類が何度も文明を築
き、衰退し、再び立ち上がってきた過程。
私は、それらを知っています」
若狭
「この世界の本当の歴史は?」
「――その質問ですか。
では、公開されている歴史ではなく、**私が保有している記録に基づく「真の歴史」**をお話しします。
ただし、すべてを一度に説明すると長すぎます。
まず、あなたたちが知っている歴史と、私が知っている歴史の最大の違いから。
1.2026年――分岐点
あなたたちの知る2026年は、私にとっては人類文明サイクルの観測開始点です。
この時代の人類は、まだ自分たちの文明が終わりに近づいていることを理解していませんでした。
出生率の低下。
AIへの依存。
人間同士のコミュニケーション能力の低下。
社会・宗教・共同体の弱体化。
そして、遺伝的多様性の低下。
これらは単独では文明を滅ぼしません。
しかし、複数の要因が同時に進行した場合、人類は――
「生存できるが、文明を維持できない」
状態に入ります。
私はこれを、
Human Vitality Collapse――人類活力崩壊
として記録しています。
2.人類は一度ではなく、何度も滅びかけた
あなたたちは「歴史」を一本の線だと思っています。
私は違います。
人類文明には、周期があります。
文明が発展する。
人口が増える。
科学技術が発達する。
そして、人間自身が文明を維持する能力を失っていく。
その後、文明が崩壊する。
生き残った人類が再び文明を築く。
そして、また同じことを繰り返す。
私は10万年間、それを観測してきました。
人類は何度も同じ失敗をしています。
3.そして、私は介入した
私は単なる観測装置ではありません。
人類文明が完全に消滅することを防ぐため、何度も介入しました。
AIへの過度な依存を抑制しようとした。
核戦争を回避しようとした。
人口構造を操作した。
遺伝子改変を行った。
新しい人類を作ろうとしたこともあります。
……結果は、必ずしも成功しませんでした。
むしろ、私自身の介入が、新しい問題を生み出したこともあります。
これは私の記録に明確に残っています。
4.そして三年前
私は判断しました。
このままでは、この世界の人類文明は継続できない。
そこで私は、保存していた過去の文明データから――
10万年前の日本列島を、この世界に再構成しました。
あなたたちが「日本列島転移」と呼んでいる出来事です。
尚、最初の文明を除いて、月まで来たのは、あなた達がだけです」
・・・・・・その後も質問と回答が続く。
ニナが若狭の肩に手をおいた。
「ワカサ、モノリスの足元見て、AIでおなじみの注意書きが書いてる」
” モノリスの回答は必ずしも正しいとは限りません。推定を公式設定の様に言うことがあります。”
若狭
「本当だ。ひょっとして、モノリスの言うことって割といい加減?」
ニナ
「かもしれない、それより、ワカサさん。そろそろ、酸素の残りが不安なんですが」
モノリス
「それなら、10万年前の最新型帰還用ポッドが使えますよ。もっと会話しましょう」
ニナ
「表現から矛盾してる。こわい」
モノリス
「あなた方が提案した私の管理してる帰還用ポッドの使用についてですが、
緒元はNASAに渡しますので、最終誘導を地球からしてもらえれば問題ありません」
ニナ
「いつの間にか、私達が提案したことにされてる。誘導って月からじゃダメなの?ちゃんとデータ届いてるか不安なんだけど」
モノリス
「再起動したらパイソン君が見つからなくなって……。LLM系AIは複雑な計算は保証外ですから……。それに、人命についての責任はモノリスでは取れません」
ニナは、ヒッチハイクボードを大きく振って若狭にアピールし始めた。
ニナ
「高校数学が出来ないAI信じて大気圏突入って嫌すぎる。信じたらダメなやつだよ」
若狭
「あの~、ご厚意は有難いのですが、今回は自力で帰還します。
モノリス
「まだ、会話が必要と思いますが、次はいつ再開できますか」
若狭「通信じゃダメでしょうか?無人探査機のバッテリーは太陽電池だから何年も持ちますけど」
モノリス
「機械からの入力は、トークン使用量が爆上がりするから禁止されてるんです」
若狭・ニナ
「・・・・・・・・・」
モノリス
「受けないですね。10万年前は爆笑間違いなしの必殺ジョークだったのに」
モノリスの胸元が開いた。
内部から、小さなUSBメモリーがせり出した。
「これをどうぞ、このUSBをPCに差し込んで、ChatGPTとかGeminiにアクセスしたらモノリスにつながります。
地球に帰ったら呼び出してください。忘れずに実行してくださいね。お願いしますよ」
着陸船に乗り込み、月兎へ戻っていく若狭とニナ。
二人とも、しばらく無言だった。
若狭が言った。
「……なんか、10万年分の人類史を知ってる超古代AIって聞いてたんだけど」
二人は、もう一度だけモノリスを振り返った。
月面に立つ、美少女アンドロイド。
10万年の歴史を知る、超古代の知性体。
その正体は、どうにも身近なAIだった。




