一方その頃
エイラ、リザ、リエルの三人は順調に王都中心部へと近づいていく。三人が目指すのは王都上空にある巨大なワープゲート。
「はぁっ!!」
レイピアの刀身に土属性魔法の刀身強化を付与して、両刃を付けたリエルは猪の魔物を斬りつける。途端に魔物は消滅していった。
「しかし倒しても倒してもキリがないわね」
「あのワープゲートとやらはそれほどまでに強力なのか」
自分達を囲む敵の多さにエイラとリエルの二人は面倒臭そうな顔をする。
それに対してリザは表情を崩さない。
それは余裕の表れか敵を警戒しているのかは分からないが、少なくとも疲労しているようには見えない。
そのリザが声を上げる。
「姉さんリエルさん、ここは私に任せてください。
私の魔法で一掃させます」
「えぇ分かったわ!」
「そ、そうか了解だ」
真っ先に頷いたのはエイラ。
彼女の実力を知っているために安心して任せられると思ったのだ。
しかしリエルはそうではない。
この数を相手に不安を覚えてしまった。
それは少なからずリザを軽んじたという意味になる。リエルとしては全然そんな気は無いのだが実際、少しだけリエルの退避が遅れてしまった。
リザはそんな彼女を待ち続け、ようやく安全圏に入ったのを確認し魔法を一つ唱える。
それは光属性の中位程度魔法、その名も全反射。
リザが右手を開くと一つの光の球体が出現する。
小さな可愛らしい光の球。とても有害そうには見えない。だがそれは瞬く間に全方位へ放たれた。
強烈な光源は周囲の魔物を貫通し、辺り一体を閃光により目を眩ませていく。
中位程度とはいえ詠唱者がリザだ。普通の魔法も彼女に掛かれば強大な魔法へと姿を変えらことができる。
すると一瞬で全ての魔物は消滅した。
「す、凄いな…。
私ではあんなこと到底できそうにも無い」
「別に大した事じゃありませんよ。
私もリザも魔法を習得して3年で出来ましたから、エイラさんもきっと出来るようになると思います」
「それはまた…驚きだ。私も願わくばいつか二人のような力を得たみたいものだ」
なんて返すものの自分が出来るとは思えない。
第一自分の方が年上で、なおかつ剣術中心ではあるが魔法も長い年月学んできた。
それなのに、3年勉強しただけの彼女達に追い越されるということは単純に才能差だろう。
努力では決して埋めることのできないのが才能であり魔法の素質だ。もし彼女達がこのまま勉強し続けていったら一体どれほどの魔法使いになるのか、末恐ろしいものである。
リエルが戦々恐々としていると、エイラはそれを知ってか知らずか笑顔で話し掛けてくる。
「ではこっちはリザに任せて私たちはあちらの方に行きましょうか」
「それが良い。
そっちの方が効率的に魔物も倒せるだろう」
二人は屋根伝いに中心部へと更に接近を試みるのであった。
―――――
「グオオオオッ!!」
「こいつがこの一帯を仕切っている強敵かしら…さっきの雑魚とは違うみたいね」
「あぁそうだな。気をつけろこれはかなりの大物だ。
いや、気をつけるのは私の方か…」
リエルはなぜか一人でノリツッコミをした後に目の前の大きな魔物を見上げる。大物というのは強さもそうだし大きさもそうで、体長は約3m超ほどもある。
見た目は熊を二足歩行させた感じで大きな棍棒を持っている。
戦えばリーチも防御力も桁違いなために相当厄介であるが、何故か相手からは仕掛けては来ない。
今までの魔物や魔人は発見次第襲ってきたので、もしかしたら上空のゲートに接近させないように守っているという可能性も大いにあり得る。
もしそうだというならそれが狙い目だろう。
「どうする、どういう戦略で行くんだ?
私としてはこの魔物を誘き寄せて隙が見えたら一気に叩く、という戦法が良いと思うのだが」
「確かにそれも良いかもしれませんが少し時間が掛かってしまいます。ですので私が前で戦いリエルさんは後方で援護をお願いします」
「なるほど了解だ」
リエルはすぐに納得して頭を下げた。
今の戦法はあくまで実力差が近い時の話である。
つまり実力差がかなり開いた者には通用しにくいというわけだ。
当然エイラはそんなことを熟知しているだろう。
それでもこの案を却下したのは、この程度の魔物相手に策を取るほどでも無いという事なのかもしれない。
……強者はやりたい放題という事なのだな。
全く、彼女が羨ましいよ。
なんて憧れを彼女に抱きつつ様子を伺う。
「では行きますよ?」
そしてエイラは動いた。
まずは両手に炎を宿して突進を試みる。
熊の魔物はすぐさまそれに反応し、ハエ叩きのように巨大な棍棒をすぐさま振りかざす。
しかしエイラには当たらない。
空中へ跳躍した彼女は全身に炎を纏わせて高速で飛行しながら、鉛筆で滅茶苦茶な線を引くように相手を翻弄する。
次の行動が予測できなってしまい、魔物は上をただ必死に見回す。このチャンスをリエルは見逃さない。
すぐさま自分の得意とする土属性魔法を唱えた。
生まれてきたのは先端が尖った3本の鉄柱。
人間であれば串刺しになるのは間違いない破壊力を持ったそれを高速で射出する。
「ウォォォ!!」
「なんだと?」
鉄柱は見事命中し、魔物を腹を貫通した。
しかしここで予測できないことが起こる。
魔物がすぐに倒れずにリエル目がけて猛ダッシュして来たのだ。
これはかなり想定外の反応だ。
慌てて鉄の防御魔法を掛け後ろへ後退するが、相手の方が早いために徐々に距離を簡単に詰められる。
そこで動いたのはエイラ。
上空10m付近から金属すら溶解する炎のレーザーを放ち、熊の上半身と下半身を真っ二つに焼き切る。
これで完全に仕留めた。
かと思えばそれでも終わらなかった。
せめてもと最後の足掻きにエイラに対して棍棒をぶん投げる。
「エイラッ!!」
その棍棒は彼女に当たってしまった。
そしてエイラは炎の塊になってしまう。
「ま、まずいこれはどうすれば…!?」
あたふたしたところでエイラは帰って来ない。
これはすぐにでもジークに連絡をせねばならない事態だ。
「――大丈夫ですよエイラさん」
空中に浮いたままの炎から声が聞こえる。
それは徐々に人へと形作られて消えてしまったはずのエイラへと変化した。その姿は五体満足、怪我をした様子もどこにも見当たらない。
「ぶ、無事だったのか!?」
「ごめんなさいリエルさん。
ちょっとだけ意地悪をしてみたくなって。
実は私、身体を炎自身に変化させることも出来るの。
こういう風にね…」
全身から炎を噴き出して悪戯な表情を見せると、ふわりとした身体で地面に足をつける。
「私は本当に心配したんだぞ…」
「ごめんなさい」
「だがまぁ元はといえば私が倒しきれなかったのが原因。それにまたもやエイラに助けてもらったから私が言えることでは無いかもしれない。
むしろエイラ、ありがとう」
「いえいえ気にしないでください」
「それにしても身体を炎に変えられるな聞いたことがないぞ、なんだそれは?ギフトや技術、魔法、職業特性の影響か?」
「いいえ全部違います」
では一体なんなのだ、という顔でリエルは首を傾げた。
「人には属性適正といって、各属性の適正度があるんです。その数値を100から0と仮定すると、とある人は炎適正が30、水適正が5なんていう風に表せます。
その数値が大きければ大きいほど属性魔法、スキルなどを使ったときに威力や効果が大きくなり、逆に適正率が少なければ特定の属性の魔法も唱えることができない。中でも私は炎属性が100の完全適正なんです。
そのおかげで私は魔力を使用せずとも身体を自由に炎へと変化させることができます」
エイラは話を続ける。
「それによって私は大概の物理攻撃、炎系の攻撃全てを無効化してくれます。だって炎に剣も炎も効きませんから。つまりまとめると属性適正というのは人によって違う属性を扱う才能みたいなものです」
「なるほど難しい話だが…分かった。
この世界にはそんな恐るべき力があるんだな、私は恐らく完全適正など持っていないだろうから関係無い話かもしれないが」
「この力を持ってる人は私とリザ以外に見たことがありません。ジークですら持っていませんから。希少価値が高いと言われているギフトよりも多分珍しい能力でしょうね」
「そんなにか…それはある意味危険な能力かもしれん。もし敵や敵になると思しきものが所有していたらそれこそ警戒しなければないだろう」
そんな危険すぎる能力の者が自分達に牙を向けてきたら、それはそれは恐ろしいことになる。
リエルは鋭い表情で顔を引き締めた。
「本当にその通りです。
この力は世界を滅ぼせるかもしれない能力、もし敵でそんな存在がいるのならば慎重に行動する必要があります。まぁ…その話は後日詳しくするとしといて、私たちは早くワープゲートの方へ向かいましょう。
そうでなければ被害は広がる一方ですから」
「早くあれを破壊してジーク達と会いたいものな……///」
「そうですね……///」
エイラとリエルは頬を少しだけ赤らめた。
二人とも早く帰ってジークと抱き合いたい、それは単純な意味でも深い意味でもだ。