出会いと別れ
お待たせいたしました。
「私は何を……」
ゼラとなった彼女はゆっくりと両手を見る。
両手には先ほどの戦いの感触が残っていた。
特に右手には彼の顔面を殴りつけた感覚がハッキリと。
「な、なんて事をしてしまったんだ!
くっジーク許してくれ。
私が悪い…私が悪いんだっ……」
ゼラはそのまま力無く地面に両手を着く。
やってしまった、彼を殺してしまった。
結局、最後の最後まで彼を信じることは出来なかった。
今だってそうだし昼だってそう。
裏切ったさっきだって彼は私を助けようと必死に説得してくれた、告白だってしてくれた。
なのに自分は……。
「ジークッ!!」
ゼラは紫の瞳に大きな涙を湛え地面を濡らす。
もう彼と話すことができない、彼と笑うことができない、彼と抱き合うことができない。
今思えば短い間だが彼は私の支えになっていた。
しかし彼はこの世から去ってしまった。
……そう思うと悲しくして悲しくて仕方がない。
結局、何をしたかったのだろうか。
初めは魔人に襲われかけた人たちを助けていた。
しかし徐々に他の魔人に怪しまれるうちに、バレないように目立たないように同化するようになってしまった。
その結果がこれでありもう引き返すことは叶わない。
何より他の魔人や悪魔のように人を騙し殺した自分も立派な悪魔だ。初めの頃の自分が今の姿を見たらなんと言うのだろうか。
ゼラは力無くうなだれる他なかった。
すると、外から大きな音が聞こえくる。
そして。
「……お前かっ!!」
「な、なんだ…」
何かがこちらに突進してくる。
ゼラはそれを反射神経だけで避けた。
急いでそちらを確認すると一人の獣人の少女が先ほど自分がいた位置に立っている。
それはちょうどジークと一緒にいた少女。
「許さない…お前がジークを傷つけたんだな!?」
「………」
「前からジークに擦り寄ってきた気持ちの悪い魔人め、お前のせいでジークが……!!
お前だけは殺す!!」
ラフィーは瞬く間にゼラの腹部に強烈な一撃を放つ。
「ぐはっ!?」
本来避けれた攻撃だが度重なる精神疲労で身体が重くなっていたゼラには避けることができない。
そのまま吹っ飛ぶと壁に叩きつけられる。
「お前さえいなければ私とジークはずっと幸せに暮らせたんだ!!お前さえ…!!」
ラフィーは目にも留まらぬ速さで乱撃を放ち、ゼラはサンドバックのようにただひたすらに打ち込まれていく。建物が振動し床が崩れていくが、連打は止まらない。それほどまでにラフィーの怒りは凄まかった。
しかしいつか終わりが来る。
ただそれが終わった頃には建物が半壊してゼラは血を吐いて床に倒れた。
「……すまない、私が彼を殺したんだ。
私は取り返しのつかないことをしてしまった…」
「じゃあお前は死ね!!」
「確かに私はここで死ぬべき存在なのだろう…。
だけどここまで来たからには引けないのもまた事実。家が滅んで彼を殺してしまったのに私がここで死を選んだら彼の死を軽視することになってしまう。
だから…宿望は諦められないっ!!」
ゼラはこれまで以上に無いほどの意志を灯してラフィーを睨みつけると無詠唱で転移魔法を発動させる。
白い光が彼女の全身を包み込み始めた。
しかしそれはラフィーが許さない。
ラフィーは全力と恨みを込めた一撃をゼラの身体へ叩きつけようとする。
しかしその前に彼女は光の粒子となって消えていった。一戸建ての建物は見事に崩壊していく。
「もうっ!!」
家が壊されながら一人残されたラフィーは握り拳を作ることしか出来なかった。
△△△△
「ははは…いてて」
一体いくつの家を壊してしまったのだろうか。
ゼラに吹き飛ばされた以上、これは過失であり不可抗力なのだが破壊してしまったのは自分自身。
いや正確に言えば自分の身体というべきなのかもしれない。
硬いレンガを枕にして家の中を見る。
少し前まで誰かがいたような生活感漂うごく普通の家だ。幸い人が巻き込まれたというわけでもない。
しかしそんなことよりも。
まさかというかやっぱりというか…。
これでゼラさんが犯人なのは確定なんだけど、あれだけ苦しめられてたのを見るとね……。
ただの悪人ならば簡単に裁ける。
しかしその悪人の過去を見てしまったらどうだろう。
とかくその犯人が何かで苦しんでいてやむを得ず犯行を行なってしまった場合、腹立たしさと同情でなんとも言えない気分になる場合がある。
今の自分の心情はそれに近かった。
「とりあえず起きるか」
「……ジーク、ジーク大丈夫!?」
気がつけばラフィーの声と共に彼女が猛スピードでこちらに向かってくる。
ゆっくりと立ち上がると彼女に手を振った。
「あぁ大丈夫、心の傷は置いといて」
「よかった、本当によかった…!!
ジークが死ぬなんて嫌なの!!」
「おっと!」
ラフィーは抱きついてきた。
そして顔をすりすりと擦り付けてくる。
そのまま優しく彼女の頭を撫でた。
「よしよし安心して俺はラフィーから離れない。
いつでも一緒にいてあげるよ望んでくれるなら」
「うん!!」
「それにごめんねラフィーのことを信じられなくて」
「いいの…全部あいつのせい。
あいつがジークをだましたから」
「そうだね…」
とにかく今はまず状況確認が先決だ。
頭を撫でるのをやめると、やはりというかその瞳はもっと撫で続けることを要求してきた。
しかしここは我慢してもらおう。
「この建物ももうじき崩れるな。
一回外に出て様子を見るとしようか」
「うん」
二人は崩壊寸前の建物から飛び降り辺りを見回す。
「なんだこれは…」
「………」
外は阿鼻叫喚の惨状。
冒険者、市民、衛兵、謎の魔物達が街路の至る所に死体が転がっている。一瞥したところ生存者はいないようでまさに最悪の事態。
自分はそのうちの二体の亡骸に近づく。
「………そうか、ダメだったか」
それらはアレンとリズの遺体。
二人の遺体は損傷が激しかった。
身体の至る所から出血しているのが普通じゃない。
剣とも槍とも似つかない、まるでかじった痕のように鋭い歯形の傷跡が付いている。
それにアレンはリズを守ろうとしたのだろうか、リズの身体を覆うようにアレンは転がっている。
彼らの顔は死んでもなお恐怖で凍りついていた。
全く酷いものだ。こんな事は許せない。
「正義の味方では無いけど流石に気分が悪い。
この仕返しは必ずさせて貰う。
もし彼女がいやあいつが、これを容認したり引き起こした一因だと言うのならもう酌量の余地は無い」
「そうジーク、連中は全員殺すべき。
ジークを裏切ったあの女も奴らも許してはおけない」
「そうだな」
ジークのドロドロとした怒りが身体から漏れ出るように黒いオーラとして流れていく。




