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圧倒的強者

「どうした?

自分の魔法が効かなくてショックなのか?」


煽るように問いかける。


「ふ、ふざけるな!!

俺がお前程度に負けるはずがない。

これは何かのハッタリだ!!」


こちらのはらわたは煮えくり返っていた。


こんな格下に煽られる。

これほどの屈辱は味わった事が無い。


それにここは味方の面前。

早くこの者を始末して汚名返上しなければならない。そうでなければ示しがつかない。


ナイロは深呼吸を一つする。


落ち着け、大丈夫だ。

絶対にこの男には弱点があるはず。

身体能力だけで魔法を耐えられる訳が無い。

こちらが知らない薄汚い手を使って魔法を防いでいる。それを早く見切れば良いだけのこと。

もうすぐ絶対に絶対に判明するはず。


今はとにかく攻撃魔法を唱え続ける。

そうして攻撃していけばいつかチャンスが来る。

まずは相手に接近させないようにする事が大事だ。


俺ならやれる。

俺にしかできない事だ…。


言い聞かせるように、洗脳するように、自分の心を勇気付ける。


風の弾丸(ウィンドバレット)巌窟の柱(ケイブピラーズ)薔薇の束縛(ローズバインド)!!」


そして次々と魔法を放っていった。


高火力な魔法の連続攻撃。

一つでも当たれば即死するだろう。

そうでなくとも深手を追って戦闘不能になるほどの威力を持っている。

また当たらずともこの手数によって相手は接近する事もままならない。


普通はそのはずなのだが。



「くだらん遊戯だな」


フェンリルには全く効かない。


飛んできた風の弾丸を掴んで破壊する。 

続いて来た巨大な岩柱は身体をすり抜けていく。

最後に襲って来た強靭な薔薇(いばら)は暗黒の炎で簡単に燃やされた。


呆然とその光景を見る事しかできない。


「こんな事はありえないのに…」


勇気付けた心は簡単に崩壊してしまう。

いつも余裕ぶっている姿も、高圧的な性格も今は消えて無くなる。


自分の魔法がこんなに脆く無効化される。

こんなのを見せられてしまっては、心が壊れてしまうのも無理はない。


自分の魔法は、フェンリルにとっては所詮、(わずら)わしい程度に過ぎなかったのだろうか。

先程"遊戯"と言ったのは、その程度の存在という事なのだろうか。


そもそも、もしかしたら実は自分は弱かったのだろうか。


ナイロの気持ちは奈落の底へ沈んでいく。

今まで負けを知らないだけに、今ここで敗北した落胆は計り知ることができない。


そしてそれと同時に、プライドが許せないのも事実である。むしろそちらの方が強かった。


「そんな事は、そんな事は、そんな事は無い。

俺は最強の魔法使いなんだ!」


この現実を受け入れる事は出来ない。 

怒りと焦り、敗北感が頂点に達する。


「お、おいお前ら突撃しろぉぉお!!

コイツをぶち殺せぇぇ!!」


狂気に駆られて、先ほどの発言とは矛盾した命令を出す。一体一の約束を破って後ろの兵士たちを動員させたのだ。


兵士はその声に応じてすぐに動き出す。

数百人規模の軍団が一角が一斉にフェンリルを囲っていく。


フェンリルはそれをゆっくりと眺めながら焦る事はしない。むしろ神妙な雰囲気を漂わせていた。


そして口を開ける。


「お前は確か1人でも我を倒せると言っていたな。

それは嘘だったのか?

それともこの兵たちは人ではなく魔法なのか?

それだとしたら一体一とも言えなくはない」


「う、うるさい!!

元々全員で貴様を殺すつもりだったんだ。

一人で戦ってくれただけでも感謝しろ!!」


自分が約束を破った事は分かっている。

だがそんな事はどうでもいい。


結局は勝てばいい。

勝つことだけが全てなのだ。


もちろんこれを見た仲間はそう思わないかもしれない。少なくとも自分を過小評価するだろう。


だがそれでもいい。

後でこの男の強さを祭り上げて、仕方がなかった言えば納得してくれるはず。

少なくとも、これ以上無様を晒してウィルレオに失望される事だけは避けたいのだ。



満身創痍のナイロとは対照に、圧倒的余裕のジークは自分を囲んでいる兵士たちを観察する。


ふーん、なるほどね。


兵の構成はこの街の衛兵と組織の者。

それらはジリジリとこちらへ近寄ってくる。

相手が約束を破った以上、こちらも容赦はしない。


「我も兵士を作り出すとしよう。

兵士を作り出すと言っても、貴様の兵からだがな」


「それはどういう…」


我々の兵から兵を作り出す。

この男は何を言っているのだろうか。

ナイロは理解できない。


しかし分からなくて当然。

フェンリルは相手のために言ってないのだから。


そしてその意味を、ナイロは目でもって理解する事になる。


腐敗の風(ディケイウィンド)


フェンリルは(てのひら)で地面に触れた。


突如、手から闇の風が吹き荒れる。


その風は瞬く間に周囲に吹き抜けた。

それはまるで桶に入った水に水滴を垂らすみたいに、波のように広がったのだ。


そして異変は起きる。

その風に触れた兵士達が続々と倒れていった。


な、なんだ?


ナイロはそれを注意深く観察する。


そしてしばらくしてまた異変が起きた。


倒れた兵士たちが起き上がっていく。


しかしそれだけならばなんともない。

問題は、起き上がった兵士たちに生気が見られないことだ。


肌は青白くなっておりまるで死人。

中にはミイラになったようなドス黒い色の兵士もいる。


変化は兵士だけではない。

闇の風に触れたモノ全てが変わり果てている。

鎧や武器は長年放置されたようにボロボロと壊れ、石造りの地面は朽ちて粉々になっている。


ジークが使用した魔法、それは禁法。

その中でも特に危険とされ恐れられる魔法を使ったのであった。


効果としては、闇に接触した生ある者は全てアンデッドと変化させ、それ以外の建造物や生命のない者は朽ちらせるという効果。


その闇に当たって助かる者は皆無。

たとえアンデッドだとしても、これに触れればなす術もなく崩壊する。


全てを殺す禁忌の魔法なのだ。


者もモノも関係なく殺す魔法。


しかしその中で変わらない者が一つ。

それは魔法を発動したフェンリルであった。


「どうだ?即席の軍団だが悪くないだろ?」


誰も生きられない魔障の中でフェンリルは悠然と佇む。まるでそれはアンデッドを束ねる魔王のよう。


「では残りの生者狩りと行こうか。

アンデッドよ、この者達を殺せ」


大量のアンデッドは動き出す。

アンデッドにとって憎らしい人間達を殺すために。


「くっ、こんな事は…。

おいお前達、この化け物を始末しろ!!」


ナイロは後ろの兵士たちに命令を出す


「…………」


兵士達は命令が聞こえているにも関わらず、動かない。


いや動けなかった。

恐怖に支配されて動けなかったのだ。


それもそうだろう。

目の前で仲間達がアンデッドに変えられるような光景を見せられて、おいそれと行ける者などいない。

自分達が先程の集団のように動いたら、あの男が何をしでかすか分からない。

それこそ、自分達もアンデッドに変えられてしまうかもしれない。


その事を分かっているから動けないのだ。


「おい、何をやっている!?

いいから早くこちらへ来て戦え!!」


ナイロは恫喝まがいの再命令をする。

ようやく兵士たちはハッとしたのか、動き出した。


それでもやはり怖いのだろう。

集団の動きが若干鈍い。


アンデッド達と兵士は戦いだす。

ナイロの全方位で剣の音やアンデッドの呻き声が聞こえる。


ナイロはそんな戦場のど真ん中で頭を抱える。


「どうしてこうなった……。

俺たちは騎士団を倒して戻るはずじゃなかったのか?あんな男一人に瓦解(がかい)されるなんて聞いてない」


周りで兵士が次々と死んでいく。


しかしそんな事などどうでもよかった。

どうせどちらかが滅びようとも自分達の追い込まれた窮状は変わりもしないのだから。 


少なくとも、今目の前にいる男を倒さなければ状況は好転しない。


何故これほどの力を持った奴がこの街にいるのか。

何故こんな奴に自分達は目をつけられてしまったのだろうか。


そもそも何故こうなってしまったのだろうか。

何がいけなかったのだろうか。

自分達は少し前まで順風満帆だったはず。


もしかしたら、一つ何かが失敗してドミノ倒しのように悪くなったのかもしれない。

その初めの失敗とは一体なんだろうか。


事の発端はなんであれ、この街で暴動を起こしている町人、館を荒らした謎の者、銀髪の女、本国の騎士団の奴ら、そして目の前のフェンリルという男、全てが憎い。


願わくばさっさと滅び去って欲しい。


「クソッ!!

俺たちは間違いなく最強だったはずだ!!

それがなんでこんなことに…」


自信は完全にどこかへ吹き飛んでいた。


残った感情は絶望だけ。

周りでアンデッドが跋扈(ばっこ)する状況で頭を抱えることしか出来ない。


そんな中。


「貴様の相手が我だということを忘れているのか?」


「……っ!?」


フェンリルの声が耳元で聞こえた。

ナイロの背後へ一瞬で移動して、そっとささやいたのだ。


ナイロは焦って振り向こうとする。

しかし遅かった。


杖に仕込んだ刀でナイロの首を切断した。


首が宙を舞う。

その後、一瞬のうちに身体全てをバラバラに切り離される。


首が地面に、いや、肉塊に落ちた。

首が飛んだ僅かな時間だけで、ナイロの身体を細切れにした。

そしてそこに首が落ちたのだ。


もはや人の原型は残っていない。


それを闇の炎を使って無慈悲に燃やしていく。


瞳がハットから垣間見える。


その瞳は黄色く光っていた。

まるで獲物を狙う(フェンリル)のように。


「これほどまずそうなステーキは見たことが無いな」


鎮火した時に残ったのは石にこびりついた灰だけであった。




作者は評価されると執筆に励む事が出来ます。

下の星を付けてくれるだけでいいです。


それと今まで評価してくれている皆様には、本当に感謝です。

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