婚約破棄
誰もがシャロンと王太子を褒めたたえる中の制止の声。
それはエリザベスの声だった。
それもそのはず、エリザベスには婚約破棄の事も、ましてやシャロンとの婚約の事も聞かされていなかった。
「殿下。私は婚約破棄など初耳なのですが。それは正式なものなのでしょうか?」
「私がこうして宣言しているのだ。正式でないはずがなかろう」
「では、私の父も承諾している、という事なのですね?あぁもちろん、国王様も」
「そちらは後で話す。私が言うのだ。父が拒否するはずがなかろう。そうなれば王命だ。公爵も拒否できん」
「では、このような公然の場で宣言するのは、きちんと書面にて提出の後になさいませんと」
「うるさい!お前にとやかく言われる筋合いはない!」
2人のやり取りを黙って聞いていた周りの貴族たちが、胡乱げにこちらを見ている。
まるで、祝福の場に水を差されて怒っているように。
会場の、ただ一人を除いたすべての者が敵であるように錯覚しそうなほどだ。
(まぁ、敵になったようなものですが)
もちろん、ただ一人はユキである。
「エリザベス様、怒らないでくださいまし。あなたという婚約者がいる殿下を、好きになってしまった私が悪いのです」
「シャロン、お前は悪くないのだ。私もお前の事を愛してしまった。婚約者という存在がいるのに、愛してしまった私が悪いのだよ」
「あぁ、なんと嘆かわしや。お2人には障害が多すぎる」
「だが、ようやく結ばれたのだ!こんな、物語の世界にしかないような話に立ち会えたんだぞ!」
「お2人とも、お幸せに!」
まだ正式に婚約破棄したわけでも、婚約したわけでもなのにお祝いムードである。
こんな三文芝居のようなものを見せられ、エリザベスは非常にイライラしていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
気づかわしげにこちらを見るユキ。
「ねぇユキ」
「はい、なんでしょう」
「私がこれから何をしようと、目をつぶっててね」
「は?」
バチン!!!!!
エリザベスが持っていた扇子を大きな音を立ててたたむ。
その音に反応し、再びエリザベスに視線が集まった。
「殿下、再三申しますが、正式な書面をもって、婚約破棄としてください。私は、婚約破棄でも構いませんが、くれぐれも!正式なものでお願いします」
「ふっ、お前は私の事を好いていたからな。婚約破棄なんぞされて悔しいのだろう。取り繕う必要はないぞ?まぁ、お前にとっては羞恥にしかならないだろうがな」
「エリザベス様、どうかお怒りを鎮めてくださいませ。そうだ!殿下、エリザベス様を第二夫人にしませんか?」
「いいのかい?シャロン。エリザベスが第二夫人になれば、何をされるかわからんぞ?」
「ええ、いいのです。私が殿下をエリザベス様から奪ってしまったようなものですし…」
そう言ってうつむくシャロン。
そんなシャロンを気遣うリオン。
「シャロンの意見を尊重しよう。おい、エリザベス!シャロンに感謝しろよ!お前を第二夫人にしてやる!」