おこわもどき 後編
切りのいいところまでで区切ったら、予想外に短かったです。
ベリサリオと皇宮と生活の場が離れていたので、スザンナとクリスお兄様が一緒にいる場面を見ることが今まではあまりなかった。
ふたりが仲良さそうな雰囲気なのは嬉しいし、クリスお兄様ってば尻に敷かれてない?
「ディア、それ何?」
ひとりだけマイペースにおこわもどきを食べていたアランお兄様が、私の手を指さした。
あー……片手におにぎりを掴んだままだった。
この状況でおにぎり鷲掴みにしているって、自分でもどうかと思うわ。
「そこにある料理を、こう、ぎゅっと握ったものです」
「ふーん」
ひょいっと私の手からおにぎりを奪って、がぶりと大きく一口。半分くらいは食べられてしまった。
「へえ。食感が変わるんだね」
「ですよねー!」
「アラン、そんなことはあとだ」
「でも美味しいよ。はい、兄上もどうぞ」
そしてまた、私は食べられないのね。
いいのよ。まだおこわもどきはあるし。
「アラン」
「じゃあ私にちょうだい」
「スザンナ!」
「だって、クリスだってカミルなら仕方ないって言っていたじゃない」
え? そうなの?
「……ダグラスに精霊獣を育てさせて、ディアの婚約者にしようと思っていたのに、外国の精霊王まで集合してしまったせいで、状況が大きく変わってしまったからな」
「なんだと」
「クリスお兄様、その話はこの前しましたよね?」
機嫌の悪そうなカミルの声を遮って、ずかずかとクリスお兄様に近づく。
カーライル侯爵領で私に商売や領地経営をさせて、ベリサリオの影響力を増やそうって話でしょ?
貴族に生まれたからには、そういう政略結婚があるのだってわかっているよ。
でもこの間、私の幸せが一番だって言ってたもんね?
「まだその話は残っているんですか? まさかカーライル侯爵に話してないですよね?」
「そんなことはしない。非常に不本意だけど、ディアがカミルを好きならしょうがないだろ」
「うっ……」
ちょ、そんな話を本人の前でしないでよ。
私はどんな顔をして、なんて答えればいいのよ。
「わあ、ディアが否定しない」
「スザンナー!!」
「くそう。ディアは十八まではベリサリオで暮らすからな!」
「……クリス?」
「学ぶ必要があるなら講師を城に寄越せよ。用がある時も、おまえがこっちに来るんだ。ディアが行くのは禁止だ!」
さっきまで反対されていたのに、突然ふたりの付き合い方の具体的な話をされて、カミルはきょとんとしてしまっている。まさか、クリスお兄様が認めてくれるとは思っていなかったんだろう。
私も正直なところ、ついていけていない。
だってまだ初めての感情の変化に振り回されていて、いっぱいいっぱいなのよ。
浮かれているなって思う時もあれば、この先どうすればいいんだろうって考えてしまう時もあって、まだ婚約者になるとか結婚するとかまで考えられなかった。
「嫌ならダグラスに」
「駄目だ!」
「だったら、おまえも留学する準備をするんだな。ベジャイア、シュタルク、デュシャン、リルバーン。つまりほぼ全ての隣国が、来年の冬から留学生を送ってくることになった」
ええ?! だって寮をどうするかとか、高等教育課程しか留学を認めないから私と会う機会が少ないとか、いろいろ問題があったよね?
「寮としても使うが、普段はその建物を大使館にするそうだ。皇宮近くの大使館を売り払って学園傍に越した方が、今後の予算がだいぶ少なくて済むようになるからね。ディアに学園内で会えない分、各国の定期交流会を開催するという話があがっているよ」
「で、でも、学園から皇宮までの移動はどうするんですか? 精霊車? まさか各寮に転送陣は用意出来ませんよね?」
「アンディが琥珀に頼んで、学園の敷地内に皆が使える転送陣をひとつ作ってもらう話になっている。駄目だった場合は、ディアに頼むしかないな」
「げーーー!!」
「その顔はやめなよ」
口端を思いっきり下げて少し口を開いて眉間にしわを寄せたら、クリスお兄様が親指と人差し指で私の頬を挟んだ。
「こんな顔をする子でもいいんだ」
「ぶはっ。ディアは本当に一緒にいて飽きないな」
「スザンナ、こいつ変だ」
「わかったからディアの顔から手を離してあげて。痛そうよ」
カミルは私の変顔なんて見慣れているわよ。
初対面から、アホなところばかり見られているんだから。
私は裏表のない正直な性格なんです!
「話がまとまりそうなところ悪いんだけど」
今まで第三者のような顔をしていたアランお兄様が、片手をあげた。
「ダグラスはまだ諦めていないかもしれないよ? 精霊獣を育てるって言っていたから」
「今更かよ」
「彼がその気になっても、カーライル侯爵が対応出来ないだろう」
外国からどんな人が来るのかはわからないけど、きっと優秀な人を送り込んでくるんだろう。
でもね、あまり心配していないのよ。
私の性格や本性がわかったら、みんながっかりすると思うの。
妖精姫のイメージが独り歩きして、優しくて繊細で思いやりのある女の子が精霊に守られて生活しているって思われているんじゃないかしら。
それに私がいれば精霊王が協力してくれて、その国の問題を一瞬で解決! って思っているんでしょ?
そんなうまい話があるかい!
「ディア、きみは自分が可愛いってことだけは忘れないでくれよ。むしろさっきみたいな顔をみんなの前でしてほしい」
「可愛い妹に変なことをさせようとするな」
「変な虫がつくよりいいだろう」
「虫の代表者が何を言っている」
カミルとクリスお兄様って、実は気が合うんじゃないかしら。
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