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吟遊詩人の幻想曲  作者: 烏合の卯
少女魔王と農夫勇者と吟遊詩人
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第20話 吟遊詩人と新天地行

 魔界樹側の木と世界樹側の木を組み合わせてもその力打ち消しあってしまう。そのため結局飛空船は一から造る事になった。しかも魔界樹そのもので造るというのだ。

 表情や感情はわからないが、おそらくクラウバーテが一番喜んでいた。棟梁となったドワーフは名をガナープといった。


「世界樹で造った事なら何度もあるんだがな」

「まさかかの有名な船大工ガナープ殿が魔界でその手腕を振るう日が来ようとは……拙者感無量の心持ちでござる」

「材質的にはかなり似てるからな。いい船になるぜこりゃあ」

「しかも拙者自らその施工に携わるとは……いやはや縁は異なもの味なもの」


 彼は暇な時間があれば趣味のもの、革細工や模型を作っている。根本的に何かを造る事が好きなのだろう。昔、それを一人で世界樹側まで持ち込み露店で売っている鎧姿を見かけた時は、さすがの私も声を掛けるのが憚られた。


「お前さん勤勉だし丁寧だし、魔族なんかやめて本気で船大工はじめねぇか? その力があれば運搬にも持ってこいだ」

「魔族や四天王は辞める辞めないの立場ではござらん」

「別にうちはいいよ。別の人探すだけだし」

「な!? ニケ様にまでそんな事を言われては、拙者の立場がござらん」

「冗談だよ」


 みんな笑った。ニケも精力的に働いていた。魔界樹を削り出したり曲げたり、大掛かりな作業から細かい作業までをそつなくこなした。


「コトルは船を作らないのか」

「私は力仕事はちょっと」


 コトルの出した茶はあまりにも不評だったため、今ではニケの私物の茶を淹れたり、食事を作る係になっていた。

 ニケにもミハスにもクラウバーテにも恩義を感じている彼は言葉以上に精力的だった。

 ちなみに私は何もしていない。魔界の苦い茶を飲んだり、余った木で楽器を作って試した。


「農夫だって力仕事だろう」

「あんな精確に削り出したり、器用なまねはしませんから」

「誰にでも得手不得手があるからな」


 ミハスは不満を漏らしながら雑用や道具の調達をこなした。さすがにこれだけ手練れの術士が揃うと作業は早かった。


「何を偉そうに。手伝え言うたのにアンタだけ何もしてへんやんか」

「別に手伝う義理はない」


 最初は気ままに楽器を弾いていたのだが、テンションが下がるからやめてくれと海賊やミハスに文句を言われてしまった。楽器を弾けない吟遊詩人など木偶の坊もいいところだ。


「場所代や場所代。それに飲み食いしとるやないか」

「力仕事は私も苦手だ」

「アンタ人間にしか見えんし、コトルさんとむこうまで買い出しにでも行って来ぃや」


 私は渋々買い出し担当となり、時折世界樹方面のゲートに押し込まれた。船ができるまでの辛抱だと思い、黙って作業した。


「ガナープさん! 帆の布、レラから仕入れて来ましてぜ!」

「おぅ。しばらく休んだら削り……グッ、ゴホッ」

「大丈夫っすか!?」


 月の海賊団の船員は良くも悪くも朴直だった。一つ目標が定まればそこに腐心する。しかし魔界の瘴気の中で長時間作業を続けられる海賊はいなかったため、ミハスの転移術で入れ替わり立ち代わり船は造られた。

 

 造船作業が佳境に入る頃、肝心のコトルとニケは造船の場にはあまり顔を出さなくなった。魔界樹の葉や枝を小さく切ってはコトルの小屋へ持ち込み研究していた。結果はどうにも芳しくないようだったが。


 船は一月と掛からずに完成した。完成間近でガナープが死んだ事も逆に指揮を高めた。ほとんど寿命だったように思うが、魔界に来た事も原因かもしれない。

 進水式……というか進空式の日、ニケとコトルは完成した海賊船をに早くも乗り込み、ミハス達に手を振っている。早く乗り込め、とでも言うような船員達の目線に私は答えた。


「私はそろそろ暇をもらう」

「えぇ、なんで? 一緒に来ないの?」


 一所に長居できない私の習性が新天地に想いを馳せ、煩い場所を嫌いな性格が孤独を望んでいた。シェラハの時は同じように期待をして長居をし、肩透かしをくらった。植物の成長ならば結果を見れば十分だ。


「植物が育つには時間がかかる。それに私はセドゥンピアに行く予定だった」

「相変わらずだなぁ。まあいっか、ほい、セドゥンピアのゲート」

「助かる」


 それよりも、不思議な予感があったせいかもしれない。新しい旅立ち、新しい物語に出会う機会……数千年来、私はそんな運命にだけは恵まれている。その直感が今までにないくらい新天地を求めていた。啓示、といってもいいかもしれない。


 コトルが私に手を振った。後ろの海賊も馴れ馴れしく、相変わらずやかましかった。


「ありがとうございました。あなたのおかげで私の世界と未来が広がりました!」

「礼には及ばない」


 礼には及ばない。私という根無し草が偶然運命を絡め取って、二人を巡り遭わせただけの事だ。だから私は大した目的も大志もなく、本能の赴くまま次の旅路へ……っは!?


「おいニケ、これ本当にセドゥンピアへ繋がっているんだろうな?」

「大丈夫ダイジョーブ。今度こそホントに本当だから」


 正直違う場所でもよかったのかもしれない。ニケが導く場所であればさほど退屈はしないだろうが、今回はそれ以上の予感があった。


 それはまだ私が見た事もない、未曽有の物語が始まるような……

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