表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾った少年は、有能な家政夫だった  作者: あさじなぎ@小説&漫画発売
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/16

番外編――休まる場所が、欲しいだけ

彼視点

 夜の繁華街にはいろんな人がいる。

 よったサラリーマンやOLさん。

 ちょっと危ない雰囲気の人もいる。

 家出は何度目だろうか?

 考えても仕方がないので、僕は考えないことにした。

 今は十月。

 吹く風はすこし冷たい。

 若い男女が、寄り添って僕の目の前を通り過ぎていく。

 あんな風に、僕は誰かと寄り添える日が来るだろうか?

 いや、そんなこと考えても答えなんて出ない。

 何通も送られてくるおかしな手紙。

 最近来た手紙は……血で文字が書かれていた。


『もうすぐ貴方を迎えに行くわ』


 思い出して背筋に寒気が走る。

 僕にはストーカーがいる。

 ひとりじゃないと思う。

 たぶん複数。

 手紙は何通も来ている。

 僕の行動を監視しているらしく、いつどこに何しに行ったのか事細かに書かれていることがあった。

 中には幼なじみに関する記述もあり、


『あんな笑顔、私に見せたことないのに、あの人は誰なの?』


 なんて書かれたこともあり、僕は大切な幼なじみにさえ近づけなくなってしまっていた。

 あの人に危険が及んだらどうしよう?

 血文字が送られてきて、この恐怖が現実になるのではないかと不安に押しつぶされそうになっていた。

 警察に何度か相談に行ったけれど、僕が男だからだろうか、真剣に取り合ってもらえなかった。

 ストーカーは一度も僕の前に姿を現していない。

 ……たぶん。

 だからだろうか、緊急性があると思われないようだ。

 目に見えない恐怖ほど怖いものはないのに。


「……どこも安全じゃない」


 家も、学校も。

 どこでだれが見ているのかわからない。

 そんな恐怖、十六の僕に耐えられるわけがない。

 そして僕は家出を繰り返す。

 そして――今夜もまた、僕の身体と引き換えに寝る場所をくれる相手を探す。


「ねえ、ねえ、そこの君」


 三十前後と思われるサラリーマン風の男が僕に声をかけてくる。

 わずかに酒の匂いがするということは、酔っているのだろう。

 男に用はないのだけれど、いったいなんだろうか。


「なあ、いくら?

 行くとこないならうち来る?」


 と下卑た笑いを浮かべて言ってくる。


「なあ、こんな時間にここにいるってことは、そういうことだろ」


 そう言って、男は僕の腕を掴んだ。


「僕は、そんなんじゃあ……」


 いや、間違ってはいないけれど、でも男を相手にするつもりはない。

 男の手の力は強く、掴まれている腕が痛い。

 振りほどこうともがいていると、やたらテンションの高い女性の声が聞こえてきた。


「あー! まったー?」


 たぶん二十代半ばくらいだろうか?

 スーツ姿のその女性は、僕と男の間に強引に割り込み、僕の腕をがしりと掴んだ。


「え? あの……」


 驚いてきょとんとしていると、女性は強引に僕を引っ張り、


「ねえ、行こう。あ! タクシーで帰る~?」


 とやはりテンション高く言った。

 

「さぁ、いこー!」


 あの、どこに?

 という疑問を口にする間もなく、僕は女性に引っ張られていった。

 誰だろう、この人は。

 こんな風にされるのは初めてで、どうしたらいいのかわからなくなる。

 引っ張られるように歩いて、いつの間にか僕たちは繁華街を抜けていた。

 女性はお酒が入っているっぽいビニル袋を、あいている手にぶら下げている。

 結構酔っているようだけれど、まだ飲むつもりなのだろうか?


「あの、すみません。ありがとうございました」


 そう声をかけると、女性は振り返りご機嫌な様子で言った。


「えー? なにが?」


 何が、と言われてしまい、僕は戸惑う。

 この人はなぜ僕に声をかけてきたのだろうか?

 僕を買いたいわけでもなさそうだ。

 どうする?

 この人から離れて、相手を探す?

 それともだめもとでこの人にお願いをする?

 時間もかなり遅いことを考えたら、悩んでいる余裕なんて、僕にはなかった。

 僕は意を決して、ご機嫌に通りを歩く女性に向かって言った。


「助けていただいて、ずうずうしいとは思いますが」


「なーに?」


 笑顔で女性は僕を振り返る。

 幸せそうな顔。

 僕とは全然住む世界が違いそうな……

 いや、今はそんなこと考えている余裕はない。

 野宿なんてできないし、ネットカフェやホテルは使えない。

 今決めなければ、今夜寝る場所がなくなってしまう。


「家、泊めていただけますか?」


 そう言うと、女性はしばらく間を置いた後、


「うん、いいよー!」


 と言って、何度も頷いた。


「あ、ねえ、家事できる?」


 と、女性は僕が想定していなかったことを言いだす。


「……家事?」


 首をかしげて尋ねると、女性は頷いた。


「うん、家事」


「一通りは……」


「じゃあ、家事やって!」


 そんなことでいいんですか?

 今まで出会った女性は皆、身体と引き換えだったのに。

 戸惑う僕をしり目に、彼女はテンション高く、


「けってー!」


 と、お酒が入っている袋を高く掲げた。

 変わった人。

 でも、嫌じゃない。


「あの、僕、レイジといいます」


「私琴美。二十七歳!」


 年齢までは聞いていないのに、女性――琴美さんは機嫌よさげに答えてくれた。


「うち帰ったらまた飲むぞ!」


「じゃああの、食材ありますか?

 何か作りますよ」


 そう言うと、琴美さんは目を輝かせて、


「ほんと? まじで?」


 と言った。

 僕は頷き、


「はい、だってさっき家事やるって約束しましたし」


 と答えた。

 すると琴美さんは、


「やったー!」


 なんて言って喜んでいる。

 本当に、家事やるだけでいいのだろうか?

 ……本当に?

 疑問を抱きながら、僕は女性についていった。

 今夜は、安心して眠れるだろうか?

 何の心配もなく、不安もなく。

 琴美さんの住むアパートに着くと、彼女は本当にお酒飲んで、僕が作ったおつまみを食べて、シャワー浴びて寝てしまった。

 その前に僕の為に布団を用意してくれたけれど。


「じゃあ、おやすみー!」


 と言って、琴美さんはさっさと布団に入って寝てしまう。

 本当に、何もしないんだ。

 酔っているからだろうか?

 明日になったらどうなるだろう?

 あっという間に眠りに落ちてしまった琴美さんが入る布団のふくらみを見つめ、僕は問いかける。


「本当に、家事だけでいいんですか?」


 返ってきたのは静かな寝息。

 僕も布団に入り目を閉じる。

 知らない部屋の、知らない匂い。

 でも、危険はない。

 心配もない。

 眠れるか不安だったけれど、僕はあっという間に眠りに落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ